第11話 力なんてない

 今日は、如月学園きさらぎがくえんの全校行事。

 避難訓練がおこなわれようとしていた。

「なんか、テンション上がるよな」

「そうか? うるさいだけだろ」

 けたたましく鳴る、避難の合図。

 それよりも大きな声が響きわたる。これからを指し示す言葉。

「落ち着いて、素早く行動してください」

 女性教師がいちばん落ち着いていない気がするが、生徒たちには関係ない。

 廊下は人であふれている。

 君のクラスも、普通に避難する。階段でも普通に。

 私語は禁止だ。

 といっても、特別なことをするときには気分が高揚こうようしてしまうもの。

 あちこちでざわめきが起こり、そのたびに注意の言葉が投げかけられた。


 校庭から教室へと、生徒たちが戻っていく。

 そのあいだは、私語が絶えない。

「今日、どうする?」

「どうすっかな」

「そこ、静かに!」

 ノリエが私語を注意するも、聞き入れられない。三つ編みがせわしなくなびいた。

 閉じていた口を開いて、君は二重の意味で同意する。

「まったくだ」

「こんな避難、力があったら必要ないのにね。ふわふわーっと浮いて」

 手と一緒に、くせのある金髪がぴょんぴょんと跳ねる。

 スズがネオンの話に反応して、参加しなかった。近くの長い黒髪はおとなしい。

 君の言うべき言葉は決まっている。

「力なんてない」

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