第8話 落ち着かない二人

 やはり、自室がいちばん落ち着く。

 と、普段着の君が思っているなか、ひびくチャイム。

「ダイマか?」

 しかし、すぐに違うと分かる。玄関のカギが使われ、ドアの開く音がしたからだ。

 合鍵を持っているのは、君の世話を任された一人しかいない。

 やってきたのは、長い髪の少女。

「洗濯、たまってるでしょ」

「いいって。自分でやる」

 と言うユウだが、やり方が分からない。洗濯機の前でうなり始めた。

 脱衣所で押し問答をする二人。今日のスズは押しが強い。

「だから、ほら」

「今からじゃ乾かないだろ」

「うちに乾燥機あるから」

 何を言われても、肌着を見られることに抵抗があるため、一歩も引かない。

 これも珍しい出来事だった。今日の少年少女たちは、何かが違う。

「何かってなんだよ」


 結局、スズが洗濯することになった。明朝に。

「何かお礼をしたほうがいいんだろうけど」

「いいよ。幼馴染おさななじみなんだし」

「でもなぁ」

「そんなことより、数学がよく分かってなかったみたいだけど、大丈夫?」

「あんまり」

 明日が休みなので、いま復習する必要はない。

 とはいえ、いろいろと世話になっている手前、断ることができない。

「こういうときに、力があったらいいなぁって思わない?」

「思わない」

「本当に?」

「もっと別の使い道があるんじゃないかな」

 今日の彼女は、いつもより優しいように感じられる。

 スズが夕食まで居つづけることになり、ユウはのんびりできなかった。

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