第6話 二人の夕食

 君はまんぞくに料理ができない。

 夕方。親友が帰ったあとで外に出ようとした君は、隣の住人と出くわした。

 玄関の前に立つのは、スズ。

「もしかして、何か食べに出かけるつもりだった?」

「うん。っていうか、なんでいるんだよ」

「ほら。これ」

 スズの手には食材入りの袋。どうやら、夕食を作りに来たらしい。

「どうやらもなにも、じゃなくて。マジでか」

「マジです」


 華奢きゃしゃな手がリズミカルに踊る。

 ユウもすこしだけ手伝い、料理が完成した。

 できるだけ手伝わないほうが美味しいものになることは、言うまでもない。

「言ってるじゃねぇか」

「何?」

「ただの『声』だから。食べよう」

 その前に台所の片付けがなされる。料理の上手い人は、片付けながらするらしい。

「いただきます」

 同じテーブルで向かい合い、二人きりの夕食が始まった。

 さわやかで甘い匂いが食欲をそそる。

「ユウは、特別な力ってあると思う?」

「またそれか。ないだろ」

 期待していた会話とは違ったようだ。といっても、君は自分から話題を振らない。

 春キャベツのトマト煮込みをつまみながら、スズが続ける。

「もし、よ。もしあったら何がしたい?」

「うーん」

「ちゃんと答えてよ」

「のんびり過ごせればそれでいいかな」

 スズは、心配しているようなほっとしたような、複雑な表情で笑った。

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