第15話 エピローグ

皆様、はじめまして。僕の名前はパルミレージと申します。どうぞレージとお呼びください。


今、僕は母パルミレリアと姉のパルミリリアと共に王都行きの長距離馬車に乗って絶賛移動中です。今年15歳で無事に成人を迎えたのと共に王都の魔法学校に入学することになったのでそのための移動中なのです。

父のユージ?知らない子ですね。


嘘です。ちゃんとまだ生きていますよ。


僕は人族の父ユージとダークエルフの母パルミレリアの間に生まれた今年で15歳になるハーフエルフです。

人族との間に生まれたハーフエルフの僕は人族と同じ15歳で成人となりますのでこれで僕も大人の仲間入りをすることになりますが、今年から王都の魔法学校に通い始めるのでまだ学生の身分でありまだまだ胸を張って一人前の大人とは言い切れないですね。


実は僕の家庭は少し事情があり姉とは父親が別になります。姉の父親は普通のエルフなので姉はエルフとダークエルフのハーフとなります。

エルフもダークエルフも長寿種であり成長速度が人族とは違いゆっくりなため成人年齢も異なっています。

エルフの成人はおおよそ40歳から50歳の間で両親からそろそろ大人でいいんじゃないかと言われたら成人として認められるみたいな感じで割とおおらかな感じで成人年齢が決まります。

エルフとダークエルフのハーフである姉も同じように40歳から50歳の間で成人と認められるのですがエルフの成人はそれに合わせて伴侶を決めるならわしが有り集落の中で婚約者を決めるか必要に応じて集落を出て伴侶を探す旅に出る風習があるそうです。

ですが天然成分を多めに配合した姉は48歳になってもまだ子供っぽさが抜け切れないため父も母も姉を一人前として一人で旅立たせるのが不安でいまだに成人を認めていなかったようです。

そんな頼りない姉なのですが、戦闘力は高く先日冒険者ランクがDランクに上がったこともあり僕の成人に合わせて成人させようかとなり一緒に王都まで行くことになったのです。

とはいえ両親としてはまだまだ不安なのか姉のお目付け役として母が付いてくることになりました。


「レリア、君との婚姻を解消しようと思う。」


この僕達の旅立ちに合わせて何と父は母との婚姻関係を解消すると言い出しました。

もともと人族の父とダークエルフの母では寿命が全然違うこともあり姉のリリアが成人して独り立ちしたら母にも自由に生きてほしいとして離婚を切り出すことを 父は母にプロポーズするときには心の中で決めていたようです。

結婚して三年後、僕が生まれたのでその思いは僕が成人して独り立ちするまでにと変わっていたようなのですが僕と姉の旅立ちを機に切り出したようです。


「婚姻関係で縛り付けて耄碌爺の面倒をレリアさんにみさせるのは忍びない。リリアだけでなくレリアさんも次の伴侶を見つけるくらいの気持ちでいてほしい。」


と割と男前な理由を言っていましたが、どうやら


「子育ても終わったし、また勝手気ままにふらふらと自由に生きていきたい。」


というのが本音の様でがっかりするやらあきれるやらですが、成人まではしっかり育ててもらいましたし魔法学校の学費は出してもらっているのでそこは感謝しています。


「いくら15歳で成人したと言っても僕まだ学生なんだけど。」


ただ、いくら成人したからといってもまだまだ学生なので学費は出してもらいましたが生活費やら交友費やらを面倒見てもらおうと抗議してみたのですが両親揃ってお前何言っているんだ見たいな目で見てこられたのは酷いと思ったのですが思い返せば何年か前に


「お前、もう一人でやっていけるな。」


と言われていたのでそれも仕方がないだろうと諦めました。

まあ、お金を稼ぐ方法は今までにみっちり仕込まれているのでいくら王都の物価が高いと言っても生活に困ることはないでしょう。

離婚に関しては最初母が嫌がっていたのですが姉のリリアが心配で一緒についていくのであればいつ帰ってこられるかも分からないので嫌々ながらも了承したようです。


しかし馬車での長距離の移動は、前回の魔法学校の入学試験の時と合わせてこれで二回目ですがやっぱり退屈です。

僕が住んでいたティグリス伯爵領から王都までは街道沿いを走る長距離馬車に揺られて十日ほどかかります。ティグリス領の領都のティグリッサは大きくて都会だと思っていましたがだいぶ田舎だったことを前回思い知りました。

その退屈な馬車の旅も七日経ち王都まで残すところあと三日となり 今日は峠の手前のジロで一泊します。明日、峠を越えると王都のすぐ隣にあるルクレチア公爵領に入ります。


そういえば前回は父と二人での移動だったのですが、宿場町についてその名前を聞いた途端、


「ジロの町、略してジロ町、清水のジロ町。どっかに親分がいるのか?」


とテンション高めでよくわからないことを口走っていたっけ。

そんなお父さんは峠を越えた先にある宿場町は温泉があるって聞いてさらにテンションが上がっていたのについて町の名前を聞いた途端


「ベップ、なぜベップ。いや、温泉街だからベップでも間違いじゃないよ。でもそこはアタミだろうが。」


なぜか峠を超えた先の温泉町の名前がベップだっていうのが気に入らなかったみたい。父親ながら偶によくわからない所がある。

九日目のルクレチア公爵領の領都ルクレチアに到着したときは、


「おーなんかハイカラな街並みだな。レンガ倉庫とかあるし。さしずめここは横浜ってとこか。」


とまた訳の分からないことを言い出したかと思ったら急に


「美味しい肉まん、ショウリュウ軒」


と変な呪文を唱え始めた時にはいよいよ壊れちゃったのかと思って本気で心配したのだが王都に着くころにはいつの間にか正気に戻っていた。

僕なんか王都の城門を通り抜けた大通りを行きかう人がとても多いし人種も様々でお上りさん丸出しで周りをキョロキョロ見回して


「王都って都会だね。すごい人だししかもいろんな人がいるし。」


とはしゃぎながら話しかけのに


「んー、普通?王都には前に何度か来たことあるし。大体お前だってハーフエルフなんだからそれなりに珍しいだろうが。」


と全然興味がないみたいで王都に着いてはしゃいでいた僕が少し恥ずかしくなったのはなんか納得いかなかったっけ。

王都に何度も来たことがあるのに街道沿いの町の名前を知らなかったのはなんでか聞いたら


「いやだって王都には急いでいるときは空飛んでくるし時間に余裕があるときは王都の西側に広がっている森を採取しながら抜けてくるかのどっちかだったから街道を馬車で通って王都まで来るなんで初めてなんだよ。」


だそうだ。王都の西、大きな山の周りに広がる森って迷いの樹海とか惑わしの森とか呼ばれているかなり危険な所だったはずなのに。

もっとも僕らが王都に移動するのに合わせてティグリッサの町の工房はお弟子さんのロレッタさんに譲って自分は迷いの樹海よりもっと危険な大陸の西の端の海に面したところに広がっている死の大森林を目指すとか言っていたっけか。


ロレッタさんはティグリスの町の宿屋の娘さんなのだけれど魔力資質に優れていたのでお父さんの勧めで僕が生まれる一年前に王都の魔法学校に入学したのだそうだ。

卒業後も王都の錬金工房でしばらく修行も兼ねて働いていたのだけれど5年ほど前にディグリス領に戻ってきてお父さんに弟子入りしていた。

つまり僕の姉弟子で王都の魔法学校の先輩にもあたる人である。

やれ魔法学校では貴族の子弟が幅を利かせていて平民である自分は何かと目の敵にされて肩身が狭かったとか王都の魔道具店は大通りに面した大店の店より裏路地の怪しいお店の方が珍しいものが手に入るとか王都あるあるを色々教えてくれたやさしいお姉さんだ。


最近ではティグリスの街の冒険者ギルドに収めているポーション類は全部ロレッタさんが作っているしもう独り立ちしてもやっていけるだろうとお父さんが太鼓判を押していたのでこの機会に工房丸々譲って後を任せることにしたそうだ。


「よし、これで面倒な工房がらみのしがらみはロレッタに押し付けられたし、ようやくまた自由気ままな放浪しながらの錬金生活を送れるぞ。」


とつぶやいていたのは聞かなかったことにしました。


*****************


「「あー、疲れたー」」


ようやく王都について宿屋の部屋に入るなり備え付けのベットに母さんと姉さんがそろって倒れこみながら声を上げます。

王都が見えてくるとその大きさに驚き中に入って人の多さに驚きで 僕が最初に王都に来た時と同じようにお上りさん丸出しでキョロキョロしたあと あっちの屋台こっちの屋台と宿屋につくまでに散々ふらふらしたのだから疲れるのも仕方がない。

そういう僕も二度目だけれどもやっぱり王都の大きさには感心したし人の多さにはまだ慣れないでいる。


「明日は朝から僕たちの家探しだから早く寝て疲れを取らないとだね。」


魔法学校には敷地内に学生寮もあるそうなのだけれど僕は王都で家を借りてそこに住むことにしたのだ。

魔法学校の寮は門限があるのであまり自由度が高くなく自分でバイトして生活費を稼ぐには向いていないとのロレッタさんからの情報と母さんと姉さんがしばらく王都で冒険者をすることもありまずは王都での拠点を確保しようということになっている。


「そうね。のんびりしていても宿代がかかるし。でもしばらくしたら私たちは出ていくから家はレージが住むことだけを考えて選べばいいのよ。」


「そうそう。私たちに気を使う必要はないんだからね。」


こんな殊勝なことを言ってなぜか二人とも家探しには消極的だ。

確かにしばらく王都で冒険者をした後は国の内外を二人であちこち見て回ると言っていたが、ティグリス領の家は引き払っちゃているからどこか別に帰ってくるところがあった方がいいんじゃないかと思っていたのだが。


「だって私たちがいるとなったらレージ君が自由に女の子を連れ込めないじゃないの。」


「そうそう、レージもお年頃だから。」


そう言って母と娘が二人そろって同じ顔をしてニマニマしている。

そんなことよりバツ二と行き遅れ気味の自分たちのことをもっと心配するべきじゃないのかとか考えていると途端に二人そろって目が座る。

「なんかレージが変なこと考えている気がする。」


「そうそうレージのくせに生意気な気がする。」


「ソンナコトナイヨ。恥かしいこと言わないでほしいなと思っていただけだよ。」


二人ともこういうところだけはなぜか鋭い。ただ今までだったら余計なことを言ってつるし上げられるのはお父さんの役だったんだけれど最近は僕に回ってくるようになった。

その結果、時々片言で言い訳していたお父さんの気持ちが最近よくわかるようになった。決してわかりたくはなかったのだけれども。


こうしてバタバタしながら終わった王都での一日目と明日からのことを考えるとワクワクして眠れないかなと思いながらベットに入ると疲れていたのかすぐに眠りにつくのだった。


 ー完ー

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お隣のダークなエルフさんは子持ちでバツイチでした。 街狸 @machi_tanuki

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