第12話 のんきにはしゃぐ大人と冷静な子供達
「えっと、この子なの?」
団長のダラスに付いていった先の騎士団の詰め所で紹介された斥候役はなんとうさ耳の女性団員だった。年の頃は二十歳位だろうか。
だが確かに見た目は可愛らしいウサギの獣人だが醸し出す気配はなかなかだ。なるほど、ダラス団長がおすすめする訳だ。
「ああ、彼女だ。」
「第一騎士団のレベッカであります。先行偵察の任務と聞いております。」
真面目さんなのだろうか。見た目で侮られるのはいつもの事で慣れっこなのだろう。なめた態度を取った俺に対して一瞬イラッとした様だがすぐに平静を装っている。あと三人いる騎士は追跡隊のメンバーだ。彼女に驚いている俺を見てニヤニヤしている。
今はダラス団長が選んだ追跡隊のメンバーとの顔合わせをしているところなのだがレベッカを見て驚いたり侮ったりするのはお約束なのだろうか。
追跡隊の本体はアレンを指揮官としてほか三人の騎士とそれぞれに二人ずつの従者の計12人だそうだ。それに先行隊として俺にレベッカが同行する。
全員が普段はアレンが指揮をする部隊のメンバーだそうだ。
「彼は一般の協力者のユージだ。今回追跡するのは、くだんの行方不明事件の犯人一味が乗っていると思われる馬車だ。中には今回誘拐された二人の子供が乗っているとみられている。そのうち一人は知っての通りアレンの娘さんだ。」
今回集合が掛けられた理由を聞いて一同の顔が引き締まる。自分達の隊長の娘の命が掛かっているんだから当然か。するとメンバーの中でも古株らしき年長の騎士が質問してくる。
「その協力者はどう絡んでくるのでしょうか?」
「ユージはもう一人の子供の関係者だ。彼の子供には彼の従魔が一緒にいるそうだ。その気配を先行して追跡して犯人どもを見つけるのが目的だ。」
「だからといって誘拐犯の追跡でしかも先行偵察に素人を当てて見つかりでもしたらそれこそ危険なのでは?」
まあ、そうだな。俺がレベッカを見た目で侮ったのと同様に向こうもこちらを侮っても文句は言えないな。団長のダラスも”どうする?”って感じでこちらを見てきているし。元々気になっていたしまずはレベッカの件を謝罪しておくか。
「ああ、そうだな。まずは謝罪させてもらおう。レベッカさん、初見の見た目で侮ってしまって申し訳ない。団長の悪巧みにまんまと乗せられてしまった。立ち居振る舞いで強者である事が分かる位にはこちらも出来る事は理解してほしい。」
お、皆がこちらを見る目が変わったな。なんだよ団長のそのつまらなそうな顔は。彼女とはこれからしばらく一緒に行動しないといけないのに禍根を残したままにしたくはないよ。
「おいおい、俺のせいにするな。俺はちゃんと若いけど優秀だと言っただろうが。」
全く白々しい。そうやって煽って変に期待させてこの見た目とのギャップで戸惑うのを狙ったんだろうが。
何とか無難に選抜された追跡隊のメンバーとの顔合わせを済ませ、各自準備のために解散し団長のダラスとレベッカの二人が残る。
「追跡隊の指揮を執るアレンがまだ戻ってきていないが二人の準備が出来次第出発してもいいぞ。」
ダラスがなんか適当な感じで出発を促してきた。
「私はもう出発できるけどレベッカさんの準備はありますか?」
「ユージ殿、まず私の事はレベッカと呼び捨てで構いません。後、調査任務の内容を分かる範囲で構いませんので教えていただけますでしょうか?
内容によって準備するものが変わりますので。」
「ああ、そうですね。んー私の事もユージと呼び捨てで。あと敬語も要らないですよ。」
「それは…わかりましたユージさん。」
「ん、今回の追跡対象は一連の行方不明事件の実行犯とおぼしき連中と絶賛拐われ中の二人の子供達にだな。子供達は窓のない箱馬車に乗せられているから先ずは馬車を見つける必要があるな。」
「その情報は一体何処から…」
「拐われた二人の子供の内一人は恐らく副団長の娘さんだろう。でだ、もう一人が家の子でな。
この子には俺の従魔のスーさんを張り付けておいたので今も一緒にいる。馬車で運ばれているというのはスーさんから【念話】スキルで届いた情報だ。」
「成る程。ではかなり確度の高い情報なのですね。」
「ついでに言うとおおよその居場所も判るから追い付ければ見つけるのは容易いな。」
「凄いです。追跡して犯人の馬車が特定出来たら強襲して誘拐された子供たちを奪還するのですね?」
「いや、拐われた子供達に危険が無い間、奴等はそのまま泳がしておく。奴等のアジトまで見つからないように追跡するのがレベッカ、お前の仕事だ。後発の本隊と合流し次第、アジトに踏み込んで一網打尽にする。」
レベッカさんの話にダラス団長が口をはさむ。先ほどの領主様と団長達の話し合いで決まった方針の上意下達な内容なのだから招集時にでもちゃんと伝えておいてほしかった。
まったく強引な憲兵隊といい、なんとなく適当な団長が率いている騎士団といい本当にこんなんで大丈夫なのだろうかティグリス伯領?
「まあ、まずは犯人の馬車に追いつく所からだな。そこからは見つからないように追跡になるな。」
「レベッカはユージと先行して今日中に犯人に追いついてそのまま追跡してほしい。残りのアレンが指揮する本隊は明朝出発になるだろう。騎馬なら明日の夕刻にはシーゲル子爵領の領都ホルストイで追いつけるだろうからそこで一旦合流の予定だ。ユージは追跡するのに魔導車を使うのか?」
「え、魔導車?」
「そうだなぁ、タリアの町まで多人数で移動して強襲するならそれで良いんだが、追いついた後こっそり追跡するには目立ちすぎるんだよな。ところでレベッカも魔導二輪に乗る練習はしているのか?」
「魔導二輪ですか?斥候用途に使えるか確認するために練習して乗れるようにはなりましたが、あれで馬車に追いつくのは難しいのではないかと思いますが。」
え、馬車に追いつけない?もしかして導入したのはスーパー〇ブ タイプの廉価版だったのかな。それなら騎士団で評判があまりよくないのかもしれないがそれでも馬車よりは速いし街道を行くなら原付の法定速度30kmくらいは出せるはずだから頑張って走れば今日中には追いつけそうだがどういうことだろう?
「王都で売り出している普通の魔導二輪ならば安い方でもそんなに性能悪くないはずなんだけどな。ちょっと騎士団の魔導二輪を見せてもらえるか?」
「ああ、貸し出すには伯爵の許可がいるが見るだけならかまわないぞ。最近は誰も使わなくなったからこっちの倉庫の中にあるはずだ。」
そう言って歩き出したダラス団長に連れられて魔導二輪が仕舞ってある倉庫まで移動する。そこにあったものを見て思わず
「なんじゃこりゃ」
と心の声が漏れてしまった。それは、高性能版の魔導二輪どころかスーパーカ〇モドキでもなかった。
その外観は馬車の車輪をこじんまりとした様な木製の車輪を鉄板でできたフレームで繋いで後輪にオマケのように魔導モーターをくっつけただけの魔導二輪というよりは魔導アシスト付き自転車の出来損ないのように見える何かがそこに置いてあった。
もっともペダルもチェーンも無く足で漕ぐことはできないので自転車とは呼べないのだけれども。
「なんじゃこりゃって魔導二輪に決まっているじゃないですか。大金払って順番待ちしてようやく2台だけ手に入れられたんですよ。これでも伯爵家からの要請だからってだいぶ優遇してもらったそうですよ。」
「ちなみにお値段はいかほどで?」
「一台、金貨200枚って聞きましたけど。」
「おうふ。ぼったくられているよ伯爵様。金貨200枚なら高性能版と普及版が一台ずつ買えちゃうよ。」
まさか魔導アシスト自転車が一台金貨200枚とは。王都では魔導二輪の定価は高性能版で金貨150枚、廉価版は金貨50枚だ。
確かに生産は追いついていないから高い金を払っても早く買いたいと言ってきたり地位に物を言わせて脅しをかける貴族も居た。
なので製造を委託している商会を通してこの国での発売を中止して隣の国に持っていくと言ったらこの国の宰相様に泣きつかれて全部シュトラ王国経由で収めてもらって順番に割り振っているはずなのだが。
よもやこんなバッタモンがこんなに早く出てくるとは。
ああ、思わず心の声が漏れてしまったが、今はまずい。なんとか褒めてこの場をやり過ごそう。
「ワタシガ、シッテイル、マドウニリンヨリ、ケイリョウカガ、ススンデイマスネ。」
「どういうことかな?ユージ君。詳しく聞かせてほしいのだが?」
そう、シーゲル子爵宛の書状を書き終わったティグリス伯が途中から合流していたのだ。そりゃ高い金払ってバッタモンを掴まされたと聞かされれば穏やかじゃないだろう。
「えー、私が知っているのはー、王都のすすき商会が販売しているものだけなのですがー」
怖い怖い。なんで俺がにらまれなきゃいけないんだ。俺は悪くないぞ。王国の販売網を経由して買わないティグリス伯が悪いんだろうが。
仕方がないのですすき商会が販売している高性能版と廉価版をアイテムボックスから出してみた。
「これがその二台ですね。こっちが高性能版で王国の販売経路経由で購入した場合の定価が金貨150枚、こっちは廉価版で定価が金貨50枚ですね。」
「「「なっ」」」
四人とも目が点になっている。あ、四人目はティグリス伯と一緒に来た執事のロベルトさんだ。
「ちょっと走らせてみますね。」
まだ呆けて立ち直っていない四人を尻目に着ていたローブをアイテムボックスに仕舞うと代わりにヘルメットとゴーグルと手袋を出して装備し高性能版の方の魔導二輪に跨る。
起動キーを差し込んでONの位置に回すと速度計・回転計と魔力残量計が浮かび上がる。ガソリンエンジンではないのでエンジン音がしないのが物足りないが仕方がない。ギアもクラッチも無くアクセルと前後のブレーキがあるだけなので操作系はスクーターに近い。
ちょうど目の前に馬場があるのでそこに乗り入れて時速30キロくらいでダートコースを走る要領で軽く流して見せる。三周ほど回って戻ってきたが泥だらけになってしまった。ああ、失敗したな。馬場なだけにババが混ざっていていてちょっと匂うぞ。
【浄化】を使用して泥汚れを落としたり購入した魔導二輪の経緯を調べるための手配を伯爵様がロベルトさんに指示したりしている間に今回の追跡用に用意したトライアル用途を意識して設計した試作モデルの魔導二輪をレベッカに試乗してもらっている。
豪勢なことに魔導二輪の評価用に新たに魔導二輪専用のコースが作られていたのでババにまみれることなく練習できている。
さすがに優秀な身体能力を誇る獣人族である。軽快な身のこなしが要求される斥候職であることも手伝って初めて乗るトライアル車だがそれなりに乗りこなしている。
「レベッカ、調子はどうだ?」
「いいですね。これはいいですね。えへへ、えへへ」
大事なことなので二回言っているようだ。この調子ならタリアの町までの移動はもちろんそのあとの追跡も大丈夫そうだ。何しろ追跡の時は見つからないように街道を外れて森の中を街道と平行に走る予定でいるのだから。
「そうか。問題ないなら時間もないことだしこのまま出発しようか。」
そう言いながら自分用に先程試乗に使った高性能版の魔導二輪をアイテムボックスから出す。
伯爵様やダラス団長、それとようやく合流したアレンの"俺たちにも試乗させろ"の無言の圧力を背中に受けながら気づかない振りをして出発を促す。
「んんっ、ユージ殿、忙しいところ済まぬが一台でも良いので我らにも試乗させて貰えないだろうか?」
あー、ちょっと言いにくそうにだがティグリス伯爵からお願いされてしまった。楽しそうに試乗するレベッカを見て我慢できなかったのだろう。
だが今はそれどころではないはずだ。一刻も早く出発してリリアの後を追いたいのにダメな大人に付き合ってバイクの試乗会に付き合う時間的余裕はない。
たしかにアイテムボックスにはもう何台か有るのだが、いずれも試作車なので操作が煩雑だったり速度にリミッターが掛けてなかったりするので慣れない人にホイッと渡して使わせるには向いてないんだよなー。
「はい。」
嫌そうな顔でイヤイヤそうな演技をしつつ先程出した廉価版の〇ブモドキ、いやススキ商会だから正しくは◎ーディーモドキになるのか?を取り出した。
「「「あっ」」」
伯爵様以下団長達二名が揃って"それかぁ"みたいな顔をしているので要らないのかと思って引っ込めたらアワアワしている。が、貴族やらガチむちの騎士のおっさんらがアワアワしても全然嬉しくないので仕方なくバー◎ィーモドキを出してティグリス伯に起動キーを渡す。
「壊したら弁償な。」
それだけ言い残し、レベッカと二人で誘拐犯の追跡にようやく出発するのだった。
****************
「あれ、ここ何処だろう?」
寝ぼけてまだ動き出さない頭を頑張って働かせながらリリアは起きだして周りの状況を確認しながら自分に何が起きたのか状況を思い出そうとした。
確か魔導師様のお庭の薬草畑でお願いされていた夕方の水やりをスーちゃんとしていた時に甘い匂いがしてきたと思ったら急に眠くなって体が動かなくなり頭もボーとしてその場に座り込んじゃってそのまま動けなくなったんだったかな。
「あれー、お嬢ちゃんこんなお外で寝ちゃったらだめだよ。よしおじさんが運んであげよう」
頭がボーとしてよく覚えていないがそんな声を聴いた気がする。そして確かにお外で寝てちゃだめだなと思ったのも覚えているがそのあとどうなったかが全く分からず気が付いたら今の状況であった。
「あっそうだ、スーちゃんは???」
その時一緒にいたはずのスライムのスーちゃんを探すと”でぃふぇんすもーど”で鎧のように体に張り付いていた。
「良かった。スーちゃんも一緒」
知らない場所で何が起きているかもわからず不安になっていたリリアだがスーさんが一緒だとわかるとそれだけで安心できるのだった。少し気持ちが落ち着き目が周りの暗さに慣れてくるともう一人女の子が隣で寝ているのに気付いた。くるくるカールの巻き毛で着ている服も可愛らしい女の子である。
「んーん」
可愛い子だなーとボーと見ているうちに女の子も起きだして周りを見回している。
「ここは何処ですか?あなたはどなた?」
言葉遣いも上品である。どこかのいいところのお嬢様なのだろう。
「私、リリア。ここが何処かは…私もちょっとわからないの。あなたは?」
「私の名前はエリザベスです。確か急なお仕事で出かけるお父様をお見送りした後、急に眠くなって…」
「そっかー。エリザベスちゃんも急に眠くなっちゃったんだー。私も畑にお水をまいた後、眠っちゃったみたいでそこから覚えていなんだー。」
「…んーこれは状況から考えますとお父様が言っていた最近起きている子供達の行方不明事件に巻き込まれてしまったのでしょうか。」
『ガチャガチャ』
すると話し声が聞こえたのだろうか?部屋の外から扉を開けるような音が聞こえてきた。どうやら部屋の扉にはかなり厳重に鍵がかかっている様で音はするが中々扉は開かない。
『ギー』
しばらくガチャガチャしてようやく扉が開くとそこにはあまり上等でない革の鎧を着た冒険者風の見知らぬ男が立っていた。
「ようやく起きたか、お嬢さん方」
「貴方は何者ですか?私達をどうしようと言うのです?」
流石は騎士の娘。リリアをかばうような位置に移動したエリザベスが扉から入ってきた冒険者風の男に問いただす。
「まあまあ、そんなに怒るなよ。まずは飯でも食っておけ」
そう言って男はどちらも堅そうな黒パンと干し肉の乗った皿とスープっぽい物が入ったカップを二人の前に置いていく。
「まだ明日まではこのままだから其処で大人しくしていろよ。外は魔獣も出る森の中で野営しているから逃げようとかしない方がいいぞ。」
そう言い残し男は部屋から出て扉を閉めると先ほどと同じように鍵をガチャガチャする音が聞こえる。今度は鍵をかけているのだろう。
最後にガチャガチャと鍵がかかって扉があかないことを確認すると男の気配が少し遠ざかったがあまり離れてはいないようだ。馬車の周りで野営しているのだろう。
今のやり取りで分かったことだが、どうやら今いるのは森の中でここは部屋ではなく野営中の荷馬車の中の様だということと外は暗く夕方すぎ、夜の時間帯であるようだということである。
「エリザベスちゃん、守ってくれてありがとう。かっこよかったよ。」
「私の父は騎士団で働いていますので父の影響で騎士の真似事をしているだけなのですよ。」
リリアに褒められて恥ずかしくなるエリザベスだが頬をうっすらと赤く染めながらそんな言い訳をしている。父親に似たのか元々体を動かすことが好きで騎士の娘として剣術の真似事もしていたのだがティグリス伯の娘のキャロラインの侍女兼護衛候補として要人警護の訓練を始めた所でその成果がさっそく発揮されたようだ。
「そっかー。エリザベスちゃんのお父さんは騎士様なんだ。凄いね。でも私のお母さんも冒険者で私も少しは戦えるからいざという時は一緒に頑張ろうね。」
そういってサムアップしながら笑うリリアに釣られてエリザベスも微笑んでいると
『『グー』』
どちらともなくおなかの鳴る音が馬車の中に鳴り響いた。
「ごはん、食べよっか?」
二人顔を見合わせえてクスクス笑いながらリリアが提案するがエリザベスが待ったをかけ、”スンスン”と床の上の皿に置かれたパンと干し肉とスープの匂いを嗅ぎ始めた。
「怪しい食事には毒が盛られていないか確認するように訓練しているのですが…まだ始めたばかりでよく判りませんでした。」
毒味の真似事をしたエリザベスだが流石に薬が盛られているかの判断までは付かないようで正直に結果を伝えている。
「エリザベスちゃん、なんか凄いね。んーそれならスーちゃんに確かめてもらう?」
「スーちゃん?私たち以外にも何方かいるのでしょうか?」
そう言ってエリザベスは狭い馬車の中を見回すが他に誰も見当たらない。
「スーちゃんはスライムのスーちゃん。魔導師様の従魔?でいつも私と一緒にいてくれるの」
「スライムの従魔?魔導師様?ええっとリリアちゃんの言っていることはよく判らないのですがスーちゃんはここにいるのですか?」
「スーちゃん、出てきて。」
そういうとリリアは胸の前で手のひらを広げる。すると鎧のようにリリアに張り付いていたスーさんがリリアの掌の上に集まってきて中華まん状のスライムの姿に戻った。その様子を目をまん丸にしてエリザベスが見つめている。
「スーちゃん、このご飯食べても大丈夫?」
リリアがそういうと手のひらのスライムが床の上に移動していく。
****************
「ん?」
ようやく追跡を始めてレベッカと一緒に魔導二輪で街道を走っているとスーさんから念話が入ってきた。
『スーさんどうした?緊急事態か?』
『危なくない。リリア起きた。ご飯、鑑定した。』
『リリア起きたのか。ご飯?あぁ、誘拐犯にご飯をもらったのか。それで』
『くすり、入っている。食べたら眠くなる。』
『眠り薬か。毒ではないんだよね。』
『ん。眠くなるだけ。』
『じゃあ食べたら眠くなることをリリアに教えてあげて。そうだな、お腹がすいていたら食べて寝ちゃってもいいかも。あ、眠くなるなら食べ始める前にトイレとか済ませておいた方がいいかも』
『分かった。リリアに言う。』
そこまででスーさんからの念話が途切れた。今の話をリリアとするのだろう。空腹で眠れず不安な夜を過ごすより食べちゃって寝ていた方が体力も温存できて良いだろう。リリアならスーさんと一緒だから大丈夫そうだがもう一人アレンの娘さんの方が心配だ。
****************
『リリア、食べると眠くなる。毒ない。』
最近ようやく、なんとなくではあるがスーちゃんが言いたいことが分かるようになってきたリリアだった。
「ありがとうスーちゃん。エリザベスちゃん、えーっと毒は入っていないみたい。でも眠くなるって」
「眠り薬が入っているの?じゃあ、食べない方がいいのかしら。」
『お腹すく。眠れない。心配。お腹すいたら食べて寝た方がいい』
スーさんの方は、人が話している内容は理解できるので今のエリザベスの話も理解している。
「スーちゃんが、お腹がすいたら食べて寝ちゃった方がいいって。お腹がすいていたり眠れない方が心配だって。」
「そうかしら。もう夜だし、お腹もすいたから食べて寝てしまいましょうか。」
『寝ている。護衛する。』
「寝ている間の護衛はスーちゃんがしてくれるって。お腹すいたし食べよっか?」
『眠くなる。トイレ行く。おねしょする』
「そうね。いただきましょう。ん、どうしたのリリアちゃん、顔が赤いけど」
「スーちゃんが…おねしょしないように先のおトイレに行った方がいいって。」
「!!そっそっそ、そうね。食べたらまた眠くなってしまうのですもの。」
そうして二人でうなずき合うとエリザベスがカギのかかった扉をガタガタさせ外に話しかける。
「もし、もし」
「どうした。食べ終わったのか?」
「いえ、あの、その」
扉の外から男の声がしてきたが、恥ずかしくなってエリザベスは要件をはっきり伝えられないようだ。
「トイレに行きたいからここを開けてー」
リリアが遠慮なく伝える。
なんとかトイレも済ませてまた馬車の中で閉じ込められたがようやく晩御飯にありつけた。
スープもすでに冷めてしまっていて硬いパンと干し肉を食べにくそうにしているとスーさんが魔法でスープを温めなおしてパンと干し肉も少し柔らかくすることで二人とも何とか食べきったが美味しくないのと量が少ないのをリリアがブチブチと文句を言う。
するとスーさんがこっそりインベントリから牛丼とお茶を二人分取り出して並べる。リリアだけでなくエリザベスまでしっかりと平らげ満腹感からなのか眠り薬が効いてきたのかやがて眠りにつく二人であった。
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