第11話 事件は現場で起きていた!
領主の馬車で送ってもらいようやく我が家に帰ってきた。
「んー」
馬車から降りて御者にチップを渡していると隣の家からレリアさんが血相を変えて飛び出してきた。
「魔導師師さまー」
[【魅了】をレジストしました。]
駆け寄ってきたかと思ったらそのまま抱きついてきた。なんか一寸パニックになっているようだ。
だいぶレベルが上がってきた【魅了耐性】がいい仕事をしてくれているので落ち着いて対応できているはずである。
なんとなく馬車の上の御者のおじさんと目が合ったのは決して動揺しているせいではない。
「レリアさん、落ち着いてください。何がありました?」
「あぁ魔導師様、ようやく帰ってきて下さいました。あの、そのリリア、リリアとは一緒ではなかったですか?」
「あぁ、領主のところに呼び出されて監禁されていてな。リリアがどうかしたのか?」
「それが昨日から帰っていなくて。」
「なんだって、家に居ないのか。まさかリリアまでもか?スーさんは見なかったか?」
「スーさんちゃんはリリアといつも一緒のスライムの子ですよね。スーちゃんさんも見ていないです。」
どうやられレリアさんはだいぶ混乱しているようだ。心配であまり寝れなかったのかもしれない。
「リリアと一緒に居るように言ってあるんだが。ちょっと待って。」
俺まで慌てどうする。スーさんが一緒なら大抵の事は大丈夫なはずだ。先ずは念話でスーさんに連絡してみるか。
『スーさんや、スーさんや今どうしているんだい?』
『あっユージ、おはよう。』
『おおスーさんや。リリアとは一緒ではなかったのかな?』
『リリア、寝ている。』
『一緒には居るんだね。』
『ん、リリアと一緒。』
『怪我とかもしていない?』
『大丈夫。寝ているだけ。』
『今何処にいるか分かるかな?』
『リリアと一緒に寝ていた。起きたら此処に居た。』
どうやらリリアと一緒に寝込みを襲われのだろうか。そういえばスーさんにはランちゃんと違ってリリアと一緒に居てくれとしかお願いしていなかった。
警戒するようにお願いしようとしたタイミングでマイルズ君に拉致られたからスーさんがのんびり構えているのもそれしかお願いしていないのだからしかたがない。
『周りの様子を教えてくれるかな。』
『暗くて狭い所にみんなで居る。あとなんかガタガタする。』
ガタガタする?馬車かなんかで移動中か?
スーさんの存在を辿ると確かに少し離れた所に居るようだ。
『周りに一緒に居るのはどんな人かな?』
『リリアとおんなじ位の子供が一人』
リリアを含めて全部で二人か。もう一人はあの何とかって副団長の娘さんだろうか。
どうやら誘拐された子供達を馬車で何処かに運んでいる途中のようだ。この様子だと暫くは無事だろう。
『スーさんや、そのままリリアを守って居ておくれ。危なくなったらチョットだけ暴れて良いからね。そうなったら教えてね。』
『ん、判った。』
まあ、リリアの方はこれでしばらく大丈夫だろう。むしろスーさんがやり過ぎる方がチョットだけ怖い。
「レリアさん、リリアはスーさんと一緒で無事ですよ。」
「あぁ、良かった。」
「ただ、誘拐犯に拐われちゃったみたいなので領主様に言って取り返してきますね。」
「私も行きます。」
「心配で寝ていないですよね。大丈夫です。今なら領主様に言えば騎士団を貸してもらえますから。」
そう言ってレリアさんに留守を頼むと戻りそびれていた御者のおじさんにお願いして馬車で領主の館まで戻ってもらった。
だが領主の館の門の所で遮られてしまった。門番曰く、資格も約束もないものをそのまま通す訳には行かないと。まあ仕方が無いか。
まずは執事のロベルトさんにつないでもらって事情を話すと伯爵にお伺いを立ててくれるとのことなので面会者用の待合室で待つように言い残して奥へ歩いて行ってしまった。
残された俺を案内するようにロベルトさんに言いつけられたメイドさんが待合室に案内してくれた。
案内してくれたメイドさんがお茶を入れようとしてくれたのをすぐに呼び出されるはずだからと遠慮していると案の定ロベルトさんがすぐに戻ってきてさっきまで話をしていた伯爵の執務室に連れて行ってくれた。
「旦那様、ユージ様をお連れしました。」
「入ってくれ。」
ティグリス伯爵からの入室許可をもらって中に入ると騎士団長のダラスも憲兵隊長のヨシュアもまだ部屋に残っていた。どうやら誘拐事件の今後をどうするかをまだ話し合っていたようだ。
「どうした。気が変わって協力する気にでもなったか?」
ヨシュアが冷やかすように声を掛けてきた。つい先ほど協力依頼を無碍に断ったのだ。そりゃあ嫌みの一つも出るのも仕方が無い。それよりも今は一刻も早く手勢を借りてリリアを追掛けたいのでスルーした。
「事情が変わった。誘拐犯を追い掛けるから今すぐ手勢を10人ほど用意してくれ。」
「は?追い掛ける?待て待て。まずは事情を説明してくれ。」
ダラスは流石に冷静だな。伯爵様はロベルトさんから簡単に説明でもされてたのか余裕かましてニマニマしてやがる。
「ようやく家に帰してもらえて分かったんだが家の子も居なくなっていた。」
「従魔が誘拐犯を捕らえたので無事ではなかったのか?」
「それは以前から魔力過多症で面倒を見ていた宿屋の娘だな。昨日街で行方不明の話を聞いたので心当たりのある二人の子供のうち、まずは魔力持ちの宿屋の娘の所に行き事情を話して従魔を貼り付けておくように手配したんだ。後は家に帰って家の子を目の届くところに置いておけば良いかと家に帰った玄関先で伯爵のお使いが待っていた。」
「ああ、今日来てもらうように言づてをしていたな。」
「だが行方不明は決まって水の日だったんで警戒するので都合が悪いから日を変えてくれと断ったんだ。そうしたら断るとは無礼なって事でマイルズ君に有無を言わせすしょっ引かれて家の方は何も出来ず今に至るという訳だ。状況を考えると伯爵が黒幕で家の子を誘拐するのに俺が邪魔だから子供から引き離すのに呼び出したと考えても仕方が無いだろ?」
昨日からの出来事を説明していたらやっぱりお前らが足を引っ張っているじゃないかとイライラしてきてだんだん語気が荒くなってしまったが、ダラス団長が間に立つ。
「まあ待て。それは無い。うちの副団長の娘さんも行方不明なんだ。」
「エリーは娘の友達だぞ。そんな恐ろしい事を私がする訳が無いだろう?」
「いや知らんがな。」
思わず突っ込んでしまった。エリーってのは攫われた副団長の娘さんの名前だろうか。その子が伯爵の娘と仲良しとか伯爵が娘に頭が上がらないとか全部そっちの事情だろうが。
「なら、協力してくれるよな。」
「そうは言っても今の所手掛かりはユージが捕まえた犯人だけだぞ。こいつらから情報が引き出せれば良いんだが。」
「居場所なら大体分かるぞ。んんー、こっちの方だな。距離は…それなりに離れている感じだな。」
そう言ってスーさんの気配のする方向を指す。距離まではここまで離れちゃうとあまり正確には分からない。
「何でそんな事が分かるんだ。」
ランちゃんの事もあるしあんまり手の内をさらしたくは無いのだが仕方が無いか。
「元々家の子には護衛もかねてスーさんが張り付いているからな。」
「スーさん?」
「ああ、俺の従魔だ。」
「蜘蛛の?一匹じゃ無いのか?」
「さぁて、どうかな。今も一緒に居るからその気配をたどれば後を追えるぞ。」
「何故それを早く言わない。早く追跡隊を向かわせないと。どれくらい離れている?」
「距離は遠い事しか分からん。ただ、馬車で移動しているようだから少なくとも馬車で半日移動した位は離れているだろう。」
「方向はこっちだったな。と言う事は西の街道沿いに移動しているのだろうから今頃は隣の子爵領との中継地になるタリアの町か。明日には隣のシーゲル子爵領だな。」
「今から急いで追掛けても領内では追いつけそうに無いですな。追跡するにしても少し面倒な事になります。」
「シーゲル子爵なら先に話を通しておけば問題ないだろうし必要なら協力もしてくれるだろう。」
「信用できるのか?」
「また貴族黒幕説か?彼に関しては悪い話は聞かないからまず大丈夫だろう。」
「なら良いんだが。それより今晩中に強襲するなら移動手段は提供するぞ。魔導車を用意するから今から追い掛ければ夜中には追いつけるだろう。」
「なっ、魔導車だと。お前そんな物持っているのか?」
「まあな。錬金術師ならそれくらい誰でも用意できるだろう。」
「錬金術師ってのは噂通り凄いんだな。ただ、魔道車ってのは馬車よりも使えるものなのか?」
いくら錬金術師といえどもそうそう自家用魔道車を用意できるわけではないことは判っているが言い切ってみた。
にしても実用性がなんか疑われているな。馬車より優秀との触れ込みで市販車用として設計した魔導四輪と魔導二輪が王都で一般売りを始めてからだいぶ経つのでそれなりに世間に浸透していてほしいものなのだが。
まあ、お高いから一般市民がそうホイホイとは購入できないだろうけど。
「実は、丁度うちでも先月、魔導二輪がようやく騎士団に試験導入された所なのだが団員たちの評価はそれほど高くないんだが。」
魔導二輪か。売り出したのは高性能版と廉価版と2種類あるのだが導入したのはどちらのタイプなのだろうか?
高性能版は、あっちの世界でいうところのアドベンチャータイプのバイクになるだろうか。騎馬の代わりにある程度荒れた道を高速で長距離走破できるように設計されている。
廉価版は、あっちの世界で一番普及している本田宗一郎さんが作った傑作バイクをリスペクトした実用車である。
ただ動力は魔力を使った魔導エンジンで動力源としてはガソリンエンジンのような前後の運動エネルギーを発生するわけではなくどちらかというと電動モーターのような回転運動を生み出すので駆動系は全く別物なので似ているのは見た目だけなのだが。
騎士団で導入するとなると騎馬の代用となりそうな高性能版の方かと思うのだが、用途次第なところはあるので想定していた目的と会わなかったのだろうか。
「武装した騎士8人程度であれば今から出発して今日中にはタリアの町まで到着できる物が用意できるぞ。」
「なっ、魔導車とはそんなに凄いのか。」
「あぁ、今回用意するのは特別製だ。武装した騎士団員でも詰めれば8人くらいは乗れるだろう。もっとも乗り心地はあまり保証できないが。あと普通に売っているのは大体4人乗りか6人乗りだな。」
普通乗用車とリムジンを想定しているが、用途としては貴族の短距離移動用と中距離移動用である。馬車が御者の除いた乗員4から6人位が一般的だからその置き換えを想定している。
今回用意しようとしている魔導車は、量産仕様の物ではなく試作時に調子に乗って作った自衛隊の軽装甲機動車(LAV)モドキか8輪の96式装輪装甲車モドキを考えている。リリアの命がかかっていると思うと自重せずに行くつもりだ。まあ趣味全開で普通のバスタイプの魔導車を作っていなかったので大人数が乗れそうな車両はそれしか用意できないのだが。
[それよりどうするんだ。領内で馬車を押さえるつもりならあまり時間は残されていないと思うが。」
「現状を聞いた範囲だと今すぐ子供達に危険はなさそうだか?」
「ああ、今のところは大丈夫そうだな。」
「なら出来れば斥候役を先行させて奴らが自分たちのアジトに着くまでこのまま手を出さずに追跡したい。このチャンスにアジトを押さえて一気に犯罪者どもの正体を暴きたい。なにより前に攫われたと思われる子供達のこともあるしな。」
団長が犯人を泳がしてアジトを突き止めたいと言ってきた。どうする?リリアを一人にしておくのは心配だがスーさんが一緒に居るから余程の事が無い限りは大丈夫だろうが。
「仕方が無いか。危なくなるまでは手を出さないでおこう。だが先行して近くまでは追跡させてもらうし危険が迫ったら有無を言わさず突入するからな。」
「わかった。追跡隊はアレンの部隊になるか。今から先行するなら奴の部隊の斥候を連絡役として連れて行ってくれ。若いが腕は立つから足手まといにはならないはずだ。アレンは犯人の尋問中だろうから呼び戻すか。」
ダラスは流石の騎士団長だ。方針が決まると有無を言わさずさっさと段取りを進めていく。
「尋問中という事は憲兵隊の詰め所か。なら俺が行こう。なに、戻るついでだ。」
憲兵隊の隊長自ら伝言役とは。
「すまんな。俺も騎士団の詰め所に戻って人員の手配を先にしておく。ユージの準備ができ次第、斥候役と引き合わせるが?」
自ら人の手配とは騎士団長も腰が軽いな。彼が推薦するなら斥候役も期待が出来るか?
「ならこのまま、えーと、ダラス団長?に着いて行こう。特に準備の必要は無いしな。」
「よし。では私はシーゲル子爵宛の手紙でも書くか。ユージと斥候役で先行して追跡。後詰めでアレン副団長に追跡部隊を指揮させる。問題なければ…そうだな、馬車は街道沿いを進んでいるならば一旦シーゲル子爵領の領都のホルストイで合流で良いな。」
「はっ」
「おう」
「んっ」
「では解散。」
ティグリス伯がまとめたのに皆が了解の意を伝え、一旦解散になる。ヨシュア隊長は、憲兵隊の詰め所に戻っていく。
俺は、ダラス団長について騎士団の詰め所に向かう。
見せてもらおうか。騎士団の斥候役とやらの実力を……
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