第7話 妹ポーション

会議の後、西門から出て結局、南の畑と森の間に皆でゾロゾロとやって来ている。各人の実力を計るのと連係の深めるためだそうだ。なのにドルトムントが、やれそこの畑は猪の被害が多いだのここら辺はゴブリンが多いから重点的に見回れだのと言ってくる。

確かに緩衝地帯の半分が畑になり残りのうちのさらに半分、元の1/4は草がボーボーに生えてゴブリンがチョロチョロしている。これは思った以上に重症だ。放っておくと他の地区や街道にまで被害が広がりそうである。仕方がないので歩きながら草の中に隠れているゴブリンにストーンバレットを当てていく。


「ギャウ」

「フギュ」


「ラリー」


「おうよ」


こちらが呼び掛ける前に察して既に飛び出していたラリーが答えながらゴブリンの確認と止めを刺していく。


「随分多いな。」


「ああ、今にも住人に被害が出そうだ。」

「ドルトムント、流石にこれは不味いだろう。次の見回りの時、護衛してやるから草刈りする人員を出せ。まさか嫌とは言わないよな?」


「っ、判った。次の見回りの時には用意しよう。」


今こうして話している間にもチョロチョロとゴブリンが森から出てくるのをレリアが弓で射抜いている。この感じだと下手をすると今日明日で被害が出そうだ。


「今日から動くことをお薦めするが?でないと人に被害が出るぞ。後、あの阿呆はお前の入れ知恵か?」


「止めだー。へへっへ悪いな。たしか討伐した獲物は止めを刺した奴の物だったよな。」


レリアが矢で射たゴブリンにローグが駆け寄り止めと称して剣で突き刺している。ゴブリンの頭蓋骨を矢ががっつり貫通していてどこから見ても即死しているのだが何処吹く風だ。


「いやー俺が見たときはまだ動いていたぞ。」


なるほどそう来たか。ならば此方も同じ手で行こうか。

出来るだけ威力を押さえて小さくした爆裂魔法の魔法球を12発、周囲に浮かべながら棒読みで叫ぶ。


「ローグ、あぶなーい」


そう言ってローグの足元に横たわっているゴブリンの死骸に向かって爆裂魔法を次々に打ち込んでいく 。


『チュドドドーーーン』


後にはローグが固まった状態で立っている。


「大丈夫かローグ。止めはしっかり刺さないと。俺が見たときはまだ動いていたぞ。」


そうローグと同じ台詞で切り返してみた。


「ん~ん~ん~」


何かローグが言葉にならない声をあげているがそこは無視してラリー達の方に振り返り


「いやー、しっかり止めを刺さないと危ないよねー」


と白々しく言ってみたが、ラリーは呆れてドルトムントは肉付きの良い頬をヒクヒクさせていた。


****************


"西南"の周囲を一通り見て回ったところで今日の会合はお開きとなった。予想以上に危機的状況であったため早速明日から巡回をすることになってしまった。


「では明日、朝と昼の間の鐘が鳴る頃に集会場に集合してくれ。」


「「結局、"西南"の草刈り作業を手伝うのかよ。」」


ラリーとカルカラが二人揃ってドルトムントに突っ込んでいるがドルトムントは流石の大物っプリを発揮して知らん顔をしている。


「それでは、明日は"西南"のための作業で集合するのですから…いろいろ期待していますね。ドルトムントさん。私の賃金は高いですよ。」


ちょっと悔しいのでやられキャラの捨て台詞のような負け惜しみを言って撤収することにした。

西門から町中に戻ろうとだらだらと歩きながらラリーが話しかけてきた。


「ユージよ。この後どうする?」


「そうだな。せっかくなのでマーサさんの所に顔を出してくかな。」


「だから何でマーサなんだよ。ここに俺がいるのに。」


マーサさんは、カルカラの奥さんだ。カルカラは"西中"の街道沿いで飯屋を兼ねた宿屋を営んでいる。


「そりゃ、マーサさんとこの飯屋だからな。」


「違いない。」


まあ、奥さんに頭が上がらないのはいつの世もどこの世界でも一緒である。一緒に茶化していたラリーにしても結局奥さんのミーシャさんが待っているからと言って帰って行った。レリアさんも留守番しているリリアが心配なので帰ることにしたし、ナギル君は本日の成果であるゴブリンの討伐部位をギルドで換金して来てくれるというのでお願いしたので結局寄り道していくのは俺だけになった。


「ただいまー」


「帰ったぞー」


「お帰りなさい。」


カルカラとエミリアが帰宅の挨拶をする。


「マーサさんご無沙汰」


「おや、ユージ。なんか久しぶりだね。また採取に出かけてたんだっけ?無事に帰ってきたんだね。まあ、ゆっくりして行きなよ。」


採取に出かける前ぶりなので三週間ほどご無沙汰していた。


「晩ご飯は食べていくんだろ。」


マーサさんがお茶を出してくれながら聞いてきたが、採取から帰ってきてからこっち禄に作業ができていないので正直今日は帰りたい。


「ゆっくりしていきたいがまだ作業が溜まっててね。今日はお茶したら帰るよ。あと時間が空いたらで良いんだけどロレッタちゃんの様子も見ておこうかと。特に変わりは無いかな。」


「いつも済まないね。おかげさまで順調だ。今日も裏の薬草畑の手入れをしたり回復薬を作ったりしていたよ。」


ロレッタちゃんはマーサさんとカラカリの次女でエミリアの妹だ。初めて会ったのは3歳の時でたまたま宿に泊まった時に高熱を出して寝込んでいたところに薬を処方してあげたのが最初だった。元々魔力資質が高かったため幼い頃から体内魔力が安定せず体調を崩すことが多かったそうだ。この世界、魔力の高い人族の子供は体調を崩しやすく育ちきらずに死んでしまうことも多いのだが適正な魔法薬を処方するなどの治療で生存率を上げることができることもありお金持ちの商人や貴族の子供は生存率が高く魔法使いに貴族が多い要因になっている。

ロレッタちゃんには体内魔力を自動で調整するための腕輪を作ってあげたので大分安定した状態を維持できるようになったがそれでも完全に健康とは言えずどうしても魔力過多気味で熱っぽかったり魔力欠乏気味で体がだるかったりしてしまう。それでも無事10歳を迎え体が成長してきてからは大きく体調を崩すことも無くなって来ている。


「あ、ユージおじさんいらっしゃい。」


出会った頃は、まだギリ10代、19歳と10ヶ月だったのだが、あれから10年、13歳になったロレッタちゃんから見て30歳の俺はおじさんだよな。まあ、最初からおじさんだったけど。


「よう、ロレッタちゃん。久し振りだが順調かな?」


「はい。ユージおじさんのお陰でもう熱で寝込むことも無くなりました。毎日、畑のお手入れと旅館のお手伝いを頑張っています。」


そう言いながら隣に座ってくる。幼い頃からチョイチョイ面倒を見ていたこともありこんなおじさんにも懐いている。

昔は膝の上に座ってくることもあったがさすがに最近は遠慮している様ではあるが相変わらず距離感が近い。


「ロレッタが調合している薬草入りのハーブティーは宿に泊まっている冒険者達に評判で助かってるよ。」


「そうか。宿の手伝いも出来て売り上げにも貢献して、もうすっかり一人前だな。」


まだ幼い頃に病弱な自分の治療費が家族の負担になっていることを心配していたのでそれならば自分の薬は自分で調合してみるかと教えたのが始まりだった。普段から薬草畑に撒くためやポーション調合のために魔力を放出ぎみにさせることで魔力の過給状態を減らしつつ欠乏時に作っておいたポーションで補うことでバランスを取る作業と魔力調整の為の魔道具の腕輪と合わせる事ですっかり病状が落ち着いたのだが最近ではオリジナルのハーブティーに薬草を調合しているようだ。

このハーブティー、極わずかではあるが飲むと一定時間の間HPが回復し続ける【継続回復】の効能があるため影で"妹ポーション"と呼ばれ一部のマニアな冒険者の間で結構評判になっている。


「見回りの会合はどうだったの?」


マーサさんが今日の会合のことを聞いてきた。


「それがなぁ、明日は朝から"西南"と森との緩衝地の草刈りをするんでその護衛にかり出されることになっちまった。」


「おやまあ、それは面倒だね。それじゃあ明日もまたお昼の営業は中止かい?」


「明日は会合じゃないからエミリアとナギルの二人で俺は行かなくても良いから店はいつも通りだな。ユージの所はどうするんだ?」


「そうだな。朝は今日と一緒で三人かな?午後も作業が続くようならレリアさんと俺が居残りでラリーだけ返す感じかな。」


「レリアさんって誰?」

『ヒュー』


レリアさんの名前を出した途端、なぜか隣のロレッタちゃんからの威圧感が増加し周辺温度が5℃くらい下がった気がする。


「レリアさんはユージさんの所で今回雇ったDランク冒険者ですごい弓の使い手なのよ。」


ロレッタちゃんからあふれ出した黒いオーラに気づかずにエミリアが解説してくれている。


「そう、それで美人なの、どうなの?」


「それがすっごい美人のエルフなの。私、本物のエルフなんて初めて見ちゃったよ。」


「えっえ、エルフ?」


「そう、エルフ。耳がピンと長くて髪さらさらでスタイル抜群なの。」


どうやら状況がロレッタちゃんの想定を超えたらしくキョドっている。お陰で黒いオーラが引っ込んで周囲の気温も戻ったのは幸いである。


「で、その…レリアさんは来ていないの?」


来た。この危険な状況を回避すべくチャンスを逃すことなく新たな情報を投下する。


「レリアさんなら留守番している子供が心配だからと帰って行ったよ。」


「えぇ、あんなにきれいなのに子供が居るの?」


「うん。そうだなーロレッタちゃんと同い年位の女の子だからお友達になれるんじゃないかな?」


そういえばリリアの年齢は聞いていないな。レリアさんもだけど。エルフだから見た目じゃさっぱり予想も付かないけど鑑定すれば分かるが、エルフだし気にしても仕方が無いだろう。150歳でも300歳でも あぁそうかと思うしかない。


「え、結婚しているの?じゃあ旦那さんもエルフなのかしら?」


「シングルマザーって奴だ。そこの話はちょろっと聞いているけど重たいから触れない方が良いぞ。」


そうぼやかして説明するとさっきまで興味深そうに聞き耳を立てていたマーサさんやカルカラも含め四人とも気まずそうに目が泳いでいる。


「親子二人で苦労しながらようやくこの町にたどり着いた所で仕事を探していたこともあって今回丁度見回り要員の仕事をお願いすることにしたんだ。幸いDランク冒険者だし弓の腕も確かなのでこっちも大助かりなんだが」


「そうなの。今日塀の外に出たときゴブリンが隠れていたんだけど”バシ”って弓矢一発で仕留めちゃう位凄いんだー。で、お願いして今度の見回りの時に弓を教えてもらえることになっているのー」


エミリアがレリアさんの過去の話から話題を変えようとリリアに先輩冒険者として弓の指導をしてもらう話をしている。


「ナギル君には確かラリーが時間があれば指導するみたいなことを言っていたな。」


ラリーもあれで元Cランク冒険者だからなりたての新米冒険者に教えることはたくさん有るだろう。


「えー、ナギルもお姉ちゃんもいいなー。ユージおじさん私にも何か教えてよー」


そう言ってロレッタちゃんが腕にしがみついてくる。


『ふよん』

「【魅了】をレジスとしました。」


少し控えめな二つの柔らかい物が腕に当たっている。十三歳でこの破壊力とは末恐ろしい。これは胸もふくよかなマーサさんの血筋だろうか?姉のエミリアは…カルカラ似か?

だが俺はロリコンではないので何の問題もない。大人の女性が好みであり決してロリコンではないので大丈夫だ。大事なことなので二回言っておかないとだし決してレリアさんのお陰で【魅了耐性】のレベルが上がっていたので鼻の下を伸ばさずに耐えることが出来た訳ではないはずである。


「そうだなー、前に教えた生活魔法はもう使いこなしているんだよね。」


「うん。【火種】も【水玉】も普段のお手伝いで使っているから。」


すると急に耳元に近づいて


「【浄化】もお部屋の掃除の時にコッソリ使っているし【ライト】は夜更かしするときに。」


小声で続けてくる。


「そうか。【魔力操作】も大分上達しているし。調合の続きと属性魔法、どっちが良い?」


「ん、両方?」


どうやらロレッタちゃんは欲張りさんのようだ。


「それじゃあ、まずはロレッタちゃんの属性を調べてみようか。それで才能あるようだったら二年後には魔法学校を受験してみるかい?」


それを聞いたロレッタちゃん達カルカラ一家の四人が固まった。


「魔法学校ってあの王都にある魔法学校かい?それって私達みたいな庶民でも通えるのかい?」


今回はマーサさんが最初に復活したようだ。


「庶民でも複数属性持ちとか才能のある子なら通えますよ。勿論お貴族様が多いから庶民の子が通うのはいろいろと気苦労も多くて結構大変らしいですけど。まあそこは本人のやる気と根性で何とかしてもらうしかないんだけど。」


この世界でも魔法使いは、そこそこ貴重である。中でも庶民で複数属性が使えるような才能の持ち主ならば、将来は宮廷魔法師か魔法騎士団に入ることも冒険者として名声を得ることもできる可能性がある。


「成績が上位なら学費が免除になりますし。そうでなくても本気で将来魔法使いになるならば先を見越して領主が費用を負担してくれたりすることもあるらしいです。その代わり卒業したら領主に仕える必要がありますが。」


「将来が限定されるのはちょっといやだねぇ。」


「まあ、魔法使いになるなら将来は安泰だから、魔法学校に通うためにかかる費用の一切合切をこっちで立て替えて置いて卒業後にたくさん稼いでいっぱい返してくれればいんだけど。」


「え、え、私、みんなと離れて魔法の勉強なんて…私には多分無理だよう。才能もきっと無いし。」


いやいや魔法の才能はバッチリなんだな、これが。前から治療の時に鑑定で見てきているけど属性魔法【火属性】と【土属性】の2種類持ちだ。しかも【火属性】こそDランクでやや低いが、【土属性】はAランクの素質がある。しかも【光属性】もCランクで才能だけなら【魔導師】クラスである。

これで、【属性付与】スキルでも覚えれば【調薬】スキルと併せて一端の【錬金術師】としてやっていけるだろう。


「まあ、それは今度街中の教会に行って調べてもらってそれから考えようか。」


「…うん」


何かロレッタちゃんは急に開けた自分の将来が逆に不安になったようでさっきまでの元気がすっかりなくなっている。


「何だ。もう自分が【大賢者】になった心配か?気が早いな。」


そう言って頭をポンポンした。


「違うもん。そんなんじゃないもん。」


そう言ってロレッタちゃんはまた考え込んでいる。

エミリアはエミリアで自分の妹が急に遠くに行ってしまうような感覚にでもなっているのかロレッタちゃんを見つめたまま固まっているしカルカラとマーサさんはいろいろ不安そうにお互い見つめ合っている。


「おーい、みんな、いつまでも油売っていないでいい加減手伝ってくれよ。」


宿屋の奥から一人で仕事をしてた息子のリクが文句を言ってきた。

あんまりのんびりして迷惑を掛けるのも忍びないな。


「まあ、将来どうするかはまだ時間もあるしゆっくり考えれば良いよ。まずは属性調べてからだな。明日は草刈りだから明後日にでも一緒に教会に行ってみようか?」


「はい。約束ですよ。」


こんなおじさんとでも街中へのお出かけは嬉しいのかちょっとだけロレッタちゃんの元気が出たところでおいとますることにした。


「じゃあ、エミリアまた明日。ロレッタちゃんは明後日」


「「はい。」」


二人そろった返事を聞きながらカルカラの宿屋を後にした。

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