第5話 異世界にお立ち台はありませんが。
「ふぁー」
昨日あのあとリリアを抱えてレリアさんの家まで送った後もなんやかんやとあり寝るのが遅くなった。
えっ、何があったのかって?そんな事聞くなよ。そうだよ。あの後、何もなかったよ。普通に作業して終わりだよ。
笑えばいいだろうヘタレだって。俺だって30にもなって会って次の日に押し倒すとかそこまで女性に飢えてないって。
だがしかし、何故か今朝もレリアさんと朝御飯を食べている。今日はリリアも一緒だ。それにしてもリリアは朝から良く食べるな。
お昼のお弁当も作りポーチ形のマジックバッグに入れてレリアさんに渡す。
「このマジックポーチはレリアさんが持っていてください。所有者権限はレリアさんとリリアちゃんにしておきますので。中にはお弁当と飲み物、ポーション等を入れておきました。まだ余裕がありますので他にも予備の矢とか必要なものは入れちゃってください。」
「そのような高価なものを受け取れません。」
「自作なので使ったのは素材だけなんで値段の事はあまり気にせずに。それに今回の依頼で使ってもらえるように貸し出すと言うことで。」
「はぁ」
「あと、獲物用の大きめのマジックバッグもいくつか中に入っているからそれもちゃんと活用してくださいね。」
「…分かりました。」
こいつなに言ってんだって感じのジト目でレリアさんに見られてちょっとゾクッとしたのは内緒だ。
****************
予定通り狩猟と農家を兼業しているラリーと合流しレリアさんの腕試しをかねて北の森での狩りに出かける。メンバーは俺、ラリー、レリアさんに加え今日はリリアも一緒だ。なので早速ラリーからの突っ込みが入る。
「今日はリリアちゃんも一緒なんだな。」
「はい。魔法も使え自衛も出来ますので、森の浅いところであれば大丈夫かと。まだ子供なので注意力がなく目が離せないですが。」
「それでも一人で留守番させるよりはましかなと。」
「私も頑張るー」
リリアはリリアで張り切っている。手には小振りな弓矢を持ち腰にも同様に小振りなナイフを下げている。見た目だけなら一人前の駆け出し冒険者だ。だが既に意識は地面をつついている雀に似た小鳥に持っていかれている。フラフラと離れていくリリアの手をレリアさんがしっかりと握っている。
「リリア、迷子だけにはなるなよ。」
「はーい」
返事だけは一人前だ。
30分ほど歩くと北の森の入り口に到着した。ここまでは低木がまばらにある草原でこの辺りから徐々に木々が増え始めるので一旦休憩しつつこれからの方針を相談する。
「さて、ここから森に入るんだが…」
「んーそうだな。先ずはレリアさんの仕事っぷりの確認だな。森の浅いところで最初の獲物を探していくか。最初の一匹目問題がなければ俺とリリアは一旦開けたこの辺まで戻って待つからラリーとレリアさんはそのまま狩りを続けるでどうだろう?」
「私はそれで問題ありません。」
「うん、そうだな。先ずは一匹目か。」
「いずれにしても昼で一旦区切ってそれまでの結果で午後どうするかはその時考えよう。」
「おし、じゃあ最初の獲物だが…」
そう言いながらラリーがこちらを見て目で促してくる。それに従って探知魔法を使う。探知魔法は魔力を使って周辺の様子を探るレーダーみたいなものだ。森で使えば獲物までの距離は勿論種類や数まで大体把握できる優れものだ。
「左に百歩位のところに角ウサギが一匹居るな。あと、右手に五百歩の所にゴブリンが三匹程固まっている。」
「ん、ゴブリンか。見逃すわけにはいかないな。」
「先ずはウサギを狩ってみて大丈夫そうならゴブリン狩ろうか。そこまでは援護するから。」
****************
森の手前で四人で昼御飯を食べている。あのあとゴブリン三匹を瞬殺して見せたので問題ないと判断し二手に別れた俺とリリア、ラリーとレリアだが獲物にあまり恵まれず成果は雷鳥二羽とゴブリン六匹に留まった。
「しかし、レリアさんの弓の腕前は大したもんだ。ここいらの魔物なら冒険者としても充分やっていけるだろう。むしろ冒険者としてやっていけるのにこんな見回り仕事を頼んじまって本当に良かったのか?」
「勿論です。住むところを提供して頂いていたうえに武器や装備を提供していただきましたし。装備を整えて頂く前は冒険者としてもやっていけていませんでしたし。」
「そう考えると今回の見回りの件、レリアさんを取り込めて運が良かったんでしょう。」
「そうだな。弱味に漬け込んだみたいで申し訳ないがそこは運が良かった。」
「私も救われましたので。見回り自体は週に二回位というお話なので空いた時間には冒険者としても仕事も受けられますし。」
「それだと日数のかかる護衛依頼とかは受けられねえんじゃないか?」
「リリアが居ますのでこのお話がなくても依頼は日帰りの物しか考えていませんので大丈夫ですよ。」
「なら良いか。さて昼飯も食べ終わった所でこの後はどうするかい?」
「ちょっと広めに探知を飛ばしたけどあんまりめぼしい物はこの辺りにはいないから今日は終了で良いんじゃないか。」
「広範囲の探知か。魔法かスキルか知らんが便利すぎるだろう。俺も欲しいぜ。」
「【無属性魔法】だから誰でも覚えられる筈だ。ただ探知する範囲に応じて使う魔力も増えるから結構シビアな魔力操作で使う魔力を抑えるか魔力ごり押しで使うかだけど。」
「【無属性】って言うと【生活魔法】の上位派生だよな。【灯り】もろくに使えないのに難しいだろう?」
「そこは練習あるのみだけど先ずは【灯り】からだな。」
「やっぱりそうか。じっと座って集中して練習するのは向いてねえんだよな。」
「いや、集中して魔力を練るのも必要だけど、例えば畑を耕すとか別のことをしながら【灯り】を維持し続けるのも有効だよ。」
「うわ、そんな事してたら禿げそうだから遠慮しとくわ。」
「えっ、もう手遅れなんじゃ…」
「うっさい。人が気にしていることを言うなー」
そんなたわいもないおしゃべりをしつつ町まで戻ってきたところで ラリーが出来高の分け前の相談をしてきた。
「ゴブリンの討伐報酬はこっちでギルドで換金しておいて後で三等分でいいか?」
「今日の晩飯のおかずに鳥を一羽貰えれば後は二人で分けてもらっていいよ。リリア、晩御飯鶏の唐揚げでいいか?」
「からあげ?は良くわからないけど鳥のお肉が食べられるの?」
「おぉ、鳥のお肉の料理だな。」
「やったー、お肉お肉、からあげからあげ?」
「魔導師様、よろしいのですか?」
「いいよ、いいよ。まとめて作っちゃえばいいし。」
「では私も討伐報酬は…」
「いや俺も今日は着いていっただけでほとんどなにもしてないぞ。」
「じゃあゴブリンの討伐報酬はレリアさんに。残りのウサギと鳥肉はラリーの所で食べるなり売るなりで適当に。それで良いね。」
「はい。魔導師様がそれで良いなら。」
「俺も肉がもらえるなら文句はないぞ。」
「それでしたらギルドへ換金は私が行きますが?」
「じゃあ俺は肉をもらってこのまま家に帰るわ。」
そう言ってウサギと鳥を持ってラリーは帰っていった。ゴブリンの討伐部位を持ってレリアさんがギルドに行くことになったのでリリアは一旦こちらで預かることになる。
「リリアちゃん、ちゃんとお留守番できる?」
「リリア、お留守番くらい出来るもーん。」
「お母さん行ってらっしゃい。」
「はい。行ってきます。」
「では魔導師様、リリアをお願いします。」
「はい。お願いされました。」
ギルドへ向かおうとするレリアさん後ろでリリアに話しかける。
「ようし、晩御飯の準備をするぞー」
「するぞー」
「リリアはお手伝い出来るかー」
「出来るぞー」
そんな俺とリリアのやり取りを背にニマニマしながらギルドに向かうレリアだった。
****************
「あの魔導師様、私に【探知】の魔法をおしえていただけないでしょうか?」
「【魅了】をレジストしました。」
晩御飯を食べ終わり片付けも済んでマッタリと食後のお茶を飲んでいるところでレリアさんが上目遣いにこちらを見上げるように切り出してきた。うむ、あざとい。
唐揚げの食べすぎでウンウン唸りながらお腹をさすっていたリリアだが眠くなったのかレリアさんの横に座って船をこぎ始めている。
さっきギルドから戻ってきてから何か考え込んでいるなとは思っていたのだがこの事だったようだ。そう言えば狩りから帰ってくるときにもやっぱり考え込んでいた気がする。
「うん、いいよ。今から練習する?」
そう気軽に返すとお願いしてきたレリアさんがビックリした顔で固まっていた。
まあ一般的に魔法は専門の学校か師弟関係にでもならない限り簡単には教えてもらえないものである。
比較的一般的なボール系やアロー系の四属性の初級魔法でもせいぜいがお金を払って知り合いの魔法使いに教わるか魔法書で独学で勉強するかで一般人が簡単には教えてもらえないものなのだ。それが【探知】みたいな変わったものなら秘匿するのが普通である。
そこをなんとかお願いしようと思い詰めたあげくの先程のお願いなのだが余りにあっさりと承諾されたので拍子抜けしてしまったのだ。
「えっ、でもよろしいのですか?魔導師様の独自魔法の様ですが…」
「んー別にいいよ?。丁度レリアさんの弓とは相性良いと思うし。」
「あっ、ありがとうございます?」
「魔力の感知も操作も出来るんだよね?」
「はい」
「じゃあちょっと説明したら直ぐ出来るようになりそうだけど、実際はその後実用的に使えるようになるまでが大変なんだ。」
「?」
何を言われているのか良くわからないという顔をしてレリアさんが次の言葉を待っている。
一般的な属性魔法なら詠唱を教わり覚えることで使えるようになる。このため魔法を教わるということは詠唱を教えてもらうのが普通なのだ。
「魔力の体外への放出は?やったことある?」
「魔力の放出ですか?」
「そう。体内で操作して練り上げた魔力をこうやってただ身体の外に放出するのだけど。」
「やったことはないですが…」
そう言うレリアさんの目の前、テーブルに右手を置きそこから属性のついていない魔力をただ垂れ流して見せる。
「分かる?ただ魔力を流し出しているだけ。」
「はい。」
魔力関知が出来るのならば分かるはずである。どうやら机に置いた手のひらから魔力が流れているのは分かったようだ。
「こんな感じでただ魔力を垂れ流すだけで良いからやってみて」
「はい。」
そう返事をするとレリアさんも同じようにテーブルの上に手を置いた。さすがに慣れているので体内魔力を操作して手に集める所まではスムーズだ。暫く手の中で集めた魔力がぐるぐるしていたがやがて手のひらから溢れだした。
「っ、出来ました。」
「おお、さすがに早い。そうしたら今度は外に流れ出た魔力を操作してみて。あぁ、その前に放出量を抑えようか。でないとあっという間に魔力が枯渇しそうだ。」
先ずは手のひらからだらだら出ていた魔力を人差し指の先からじわじわ滲み出るくらいまで絞り混む。
目の前で見本を示しているのが良いのかレリアさんもここまでは直ぐに出来ている。
「そうしたら流れ出ている魔力を集めて適当に動かす。」
そう言って指先から空気中に霧散していた魔力を集めて球にしたり先を下にした円錐にしたり立方体にして指先でくるくると回して見せた。
流石に初めてで立体は難しかった様だが流れていく魔力を留まらせることは出来たようでアメーバみたいなぐにゅぐにゅした魔力が指先で踊っている。
「おー、出来た出来た。それが【無属性魔法】の基本型。後は外に放出した魔力を自由に操作出来るように練習あるのみだ。」
「これが【探知】の魔法なのですか?」
「【魅了】をレジストしました。」
結構な量の魔力を一度に放出したせいか顔を上気させて荒い息づかいで此方を見つめてくる。
「んん、これは基本型。こうして放出した魔力を操作して周囲に広げてそこから周りの様子を広い集めるのが【探知】の魔法になる。」
少し濃いめの魔力を部屋の中いっぱいに広げて見せる。
「壁や物に当たると魔力の通り具合が変わるからそこに何かがあるのかが分かるんだけど。それが生き物ならば動いていたりするし人や魔物ならばそれぞれの魔力があるからこちらの魔力と反発しあったりするのが魔力を通して伝わってくるからその戻ってきた魔力を拾ってあげれば何処にいるかが分かるわけだ。」
「…」
「勿論、魔力の有無も分かるから魔物かどうかも区別が付けられるようになる。」
「…」
「ここまでたくさんの魔力を流しちゃうと相手にもばれるから最後はこれをなるべく少ない魔力でばれないようにしたら完成。」
「…」
「教えてあげるのは簡単なんだけど使えるようになるには練習あるのみだから、先ずは魔力操作から頑張って。」
「…むり」
「確かに【探知】は結構難しいからね。最初は魔力を使ってこうやって物を動かすところからかな。」
少し濃いめに放出して集めた魔力を触手のように伸ばしてテーブルの飲みかけのカップに巻き付けてカップを持ち上げてそのまま手元に引き寄せた。
「今日のところはこの辺で、後は寝る前に残りの魔力を使って毎日ちょっとずつ練習してみて。」
「はい。ありがとうございました。」
「リリアちゃんも限界そうだから先に二人でお風呂に入っちゃってって。今お湯を入れてくるから。」
「そんな、晩御飯をごちそうになった上にお風呂だなんて申し訳なさすぎます。」
「狩りでの疲れと汗を流していって。」
「…ありがとうございます。」
「じゃあ、準備をしてくるから。あぁそうだ。替えの服とかシャツやらなんやら作ってポーチの中に詰め込んでおいたから適当に探してみて」
お風呂の準備をしている間に寝ぼけているリリアを起こし二人でお風呂に入らせる。
「出たー」
お風呂に入ってちょっと目が覚めたのかリリアが元気に出てきた。
「見て見て、魔導師様。新しいお洋服ありがとう。」
昨日作ってマジックポーチに入れておいた部屋着を着ているがなんだかやけに服が大きくて袖や裾が余っている気がする。サイズを間違えたかなと思いつつ髪の毛が濡れたままで雫が垂れていたので
「髪が濡れたままだと風邪を引くから。はい、ここに座って。」
ダイニングの椅子に腰掛けさせアイテムボックスからタオルを取りだしワシャワシャと拭きあげる。続けて取り出したブラシとドライヤーの魔道具で髪を乾かしていく。粗方乾かした所でレリアさんが出てきたようだ。
「あの、魔導師様。ちょっと服がきついのですが…」
そこには扇子を持ってお立ち台に立っていそうなボディでコンシャスな格好をしたレリアさんが恥ずかしそうにパッつんパッつんのミニ丈のスカートの裾を下に引っ張りながら立っていた。
「【魅了】のレジストに失敗しました。」
「あー、お母さんそれリリアのお洋服」
そう言われてみるとリリアの着ている服は袖口や裾が大分余っている。どうやらリリアが用意してあったレリアさんの服を着てきたので残っていたリリアの服をそのまま着て来てしまったようだ。リリアの手を取ったレリアさんが慌ててもどっていく。
「っ、失礼しました。」
あぁ、バブルの夢よもう一度。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます