第4話 装備を整えよう
ラリーからの依頼を受けたあと、一旦解散して再度、弓を持ってくることになった。
「はい、これ。今日の分。」
そう言って紙に包んだ銀貨が1枚入った袋を渡す。
「えぇ、でもまだ何もしていませんが。」
「武器の調整も立派なお仕事です。なので今日からお給料がでます。ですがお休みの日はでないのでそこは気を付けてください。」
「分かりました。本当に何から何まで有難うございます。」
何度も何度も振り替えってお辞儀をしながらとなりに戻っていくレリアさんを見送ってから今日の予定を立て直す。
*****************
午後になると弦のない弓を持ってレリアさんがやって来たので、作業部屋へと招き入れる。
「早速、見せて頂きますね。」
巻き付けられていた少しくたびれた布から弓を取りだし観察する。素材は魔力の伝達性能がかなりの高い木材のようだ。もしかしたら世界樹的な魔法素材なのだろう。そこに魔力を使って魔力矢を生成する術式が付与されている。これなら射手の魔力が続く限り矢を射ち続けることが出来る。しかも射手の魔力制御能力によっては射った矢の飛び先を曲げることが出来る。あの宇宙海賊が使っていた伝説の左手の様に。きっとこの弓の製作者の名は不知火鉄心に違いない。
これだから異世界で錬金術師は辞められない。知らない素材やら術式やら常に新しい発見に満ち溢れている。
植物素材の繊維の在庫はイビル・プラントの蔓があったはずだが、あれは魔力の親和性がそれほどでもない。魔力を良く通すとなるとミスリルを伸ばしたワイヤーか魔虫の糸辺りが良さそうだが…ミスリルでできたワイヤーの弦を引こうとすると指が飛ぶ未来が見えたので無難に虫系の素材から蛾の魔物の繭からとった魔絹の糸を選んでみた。強度的には問題無さそうである。
張り具合を何度か確認しながら調整し出来たところで裏庭に作った即席の試射場に移動する。長めのボーリングのレーンの三方を土魔法で作った壁で囲んだだけの試射場だが正面だけは厚さ10cm程の鉄板と30cm程の岩盤で強化してある。その先は北の森なので、まあ人は通らないだろう。的までは50m位離れている。
いつ買ったかも覚えていないアイテムボックスの肥やしになっていた矢を引っ張り出して来て早速射てみるが俺の腕ではろくに前に飛んでいかない。3本の矢を無駄にしただけだった。
「ふふふ、魔術師様もう少し肩の力を抜かないと前には飛びませんよ。」
「まずは立ち方から。」
[【魅了】をレジストしました。]
「はい、矢をつがえて、左手はこう、右手はこう」
[【魅了】をレジストしました。]
あまりの下手さを見かねたのかレリアさんが俺の真後ろに立ち、色々指導してくれるのだが…近い近い。それに耳元で囁くように説明するのもかなり破壊力がある。
結局手取り足取り指導していただいた結果、4本目は辛うじて的の手前1m位のところまで飛んでいったので実体矢はギブアップする。
「せっかくご指導いただいたのにすみませんが、これ以上は矢の無駄になりそうです。」
「あらあら、うふふ。魔術師様にも苦手なものがあるのですね。」
はい。"うふふ"いただきました。これ以上は別の理由で継続不可能です。
「では交代しますか?」
そう言ってレリアさんが俺から離れ自分が持ってきた矢を取りに行く。
「んー、もう少しだけ…」
と歯切れ悪く返事をしながら今度は矢をつがえることなく弓だけを構えながら軽く魔力を流していく。最初は無難に風属性の魔力で良いだろう。するとつがえた矢のように空気が渦巻き始めた。
「ひいふっ」
と空気の矢を放つと的に向かって飛んでいく。
『ぱしゅ』
的の端に辛うじて当たるとショボい音をたてて弾けてしまった。ちょっと込める魔力をけちり過ぎたのだろう。まあ後ろの壁を吹き飛ばすよりはましである。的も壊れなかったし。
次に放った光属性の矢はちょっと魔力がのり過ぎて的に刺さって穴が開いちゃった。
土魔法を込めたときは矢が的を射抜くところを意識しながらつがえたので何故かアルミっぽい金属矢が実体化して明後日の方向に飛んだのだが途中から誘導弾が如く弧を描き的に吸い込まれた。
ずぶの素人である俺でも的に刺さるなんて魔力矢めっちゃ優秀である。
一通り試したので満足して射手を交代するために振り返るとレリアさんが矢を持ったまま固まっていたので何度か呼び掛けるとようやく再起動した。
「魔法矢、射てたのですね。」
「え?あぁ、はじめて射ったけど面白いね。」
「初めてですか?一応私達の奥義なのですが…」
「すみません。奥義でしたか。先程、弓を直すときに付与された術式を読んでしまったので…」
「普通は読んだだけでは使えるようにはならないはぞなのですが…」
「では、見なかったことにします。」
「ふぅ」
なんか気まずい雰囲気のなかため息を一つついて色々吹っ切ったのかレリアさんが矢をつがえ試射し始めた。
「ひぃふっ」
『シュパ』
『ふゆん』
「【魅了】をレジストしました。」
「ひぃふっ」
『シュパ』
『ふゆん』
「【魅了】をレジストしました。」
10発10中、すべて的のほぼ真ん中を射ぬいている。直したばかりでろくに調整もしていないのにたいしたものである。それでも集中していたのだろう額にはうっすらと汗をかいていたので、アイテムボックスから冷たい飲み物とタオルを取り出して手渡した。
「有難うございます。」
「流石の命中率ですね。弓に問題ありませんか?」
「何も問題ありませんね。久しぶりなので腕が鈍っていないか心配だったのですが、これなら明日の狩りも問題無さそうです。」
折角なのでレリアさんが射る魔法矢も見たかったんだけど奥義って言っていたし難しいかな。等と考えながらじぃっと見つめていたら何故か耳が赤くなり目線が泳いでなんか急にキョドり始めた。
「あの、その、」
「レリアさんが魔法を射つところが見たいかなー」
「はひゃ、そっそっそそうですよね。」
レリアさんが若干引いている。それは良い年した中年の男が甘えたようにお願いしたのが原因だろう。自分でも引いたし。
それでもレリアさんは気を取り直して魔弾の試し射ちをしてくれた。
****************
流れで誘った晩御飯を食べ終わりデザートも食べ終わってお茶を啜りながらマッタリしている。満腹になったリリアはソファーですでに夢心地である。
「メインの武器はあの弓で充分でしょう。後は補助の武器と防具ですね。何か希望はありますか?」
一服してお腹も落ち着いたところでサブウェポンと防具の見直しを切り出した。
「解体用のナイフがあります。防具も今の皮鎧で問題ありません。」
「一応、物を確認しても?」
あまり過保護になるのも良くはないだろうが、足りないようであればある程度の物は用意してあげたいし、弓が使えない状態で無理をしていたとするとナイフの手入れも行き届いていない可能性もある。
”No”と言われないように少しだけ強めにお願いしたので、レリアさんがしぶしぶ装備を取りに家に戻った。
お腹を冷やさないようにソファーで寝ているリリアにブランケットを掛けていると装備一式を持ったレリアさんが戻ってきた。
作業部屋にレリアさんを通して装備一式は部屋の真ん中にある作業台に置いてもらった。
「では、確認させてもらいますね。」
一言断って先ずは皮鎧から確認する。オーガの皮に所々金属で補強したパーツからなる部分鎧でDランクのアーチャーとしては一般的な装備だろう。
「オーガの皮の部分鎧ですね。状態は良さそうです。使っていて何処かまずい所とかありますか?」
「今のところは。動きが阻害される物は困るので防御力と重さと動きやすさを考えるとどうしても皮の部分鎧になりますし…弓も射ちやすいので。」
「なるほど。鎧は大丈夫そうですね。では次はナイフですね。これは主に解体用ですか?」
「はい。ただ、ここしばらく弓が使えなかったのでナイフ一本で色々とこなしていましたので。」
手に取ったそれは、刃渡り20cm位の長さで諸刃なのでダガーとか短剣になるのだろうか。素材は普通の鉄製で作られた数打ち品だ。
「確かに大分くたびれていますね。手直しするより新しくした方が良いかなー?んー、何か思い入れとか無ければ新調した方が良さそうなのですがどうしますか?」
「ええっと…」
あぁ、エルフ耳がショボーンと垂れ下がって、そんな簡単に新調とか言うなって顔している。そりゃそうか。まあ少し強引に押し付けるくらいしないと受け取らないだろう。
「ちょっと待っていてくださいね。」
そう断りを入れて作業部屋に続いている倉庫のドアを開け中に漁りに行く。
過去にお試しやら思い付きで作ったものやらダンジョンやら依頼の途中で拾ったりしてほったらかしだった各種ナイフやらダガーやら鉈等、両刃や片刃、形にこだわらず長さが15~20cm程度のものを適当に選んで作業台に並べていく。
「気になったものがあれば適当に手に取って試してみてくださいね。あぁ、刃にも魔力を通せますよね。」
「はい、一応は。あの弓程は上手く通せないのですが。」
「それはあの鉄の短剣基準ですか?あの剣で魔力を纏わせられると?」
「はい。少しなら。突き刺す一瞬とか解体で固くて刃が通り難そうなときとかなら出来ますが。」
「あの魔力伝導率が悪そうな鉄の剣でそれだけ出来るなら充分でしょう。」
そう言いながら一本のナイフを取り上げる。背が鋸状になっているいわゆるサバイバルナイフだ。
「諸刃でなくて良いならばこの辺りが無難かな。魔鉄を使った高炭素鋼だからお手入れが必要だけど魔力の通りは良いから魔力を通して使っても良いし普通に使っても実用的だから魔力は魔弓用に取っておいても良いし。」
「今の物より少し重たいですがバランスが良いので使いやすそうです。」
手渡されたそれを鞘から抜いて軽く振りながら感触を確かめ満足げな顔でレリアさんが答える。
「じゃあ明日からナイフはそれを使ってください。また問題があれば相談には乗りますので。」
そう言って有無を言わさず押し付ける。
またちょっと困った感じでエルフ耳が下がっているが気にしない。
「後は鎧の下に着るものかな?」
無駄に散らかしたナイフを脇机に片付けながら防御力の低い部分鎧を補うための鎧下を用意する。
これにはファンタジー素材が色々と活用でき、防刃素材なのに体温調節が出来る"あったか"や"ひんやり"な肌着が作れたりする。
「これは普段から服の下に着る肌着である程度の体温調節が出来るんですよ。こっちが冬用の"あったか"でこっちが夏用の"ひんやり"ですね。大中小サイズがありますのでどれが良いか試着してみてください。あと魔法で大きさとか長さとか簡単に調節出来ますので気になる点は遠慮なく言ってくださいね」
そう言って長袖Tシャツとスパッツを手渡す。
「部屋の外に出ていますので着替えたら呼んでください。」
そう言い残して部屋を出て扉を閉める。
この世界、ブラジャーっぽいものはないしスパッツも伸縮素材でぴったりするから体の線が出るのであの格好で他人の前に出るのはアウトかもしれない。
「着替え終わりましたので、どうぞ」
ドアを開けてレリアさんが顔を出す。ちゃんと上に服を羽織っていたのでホッとすると同時にがっかりもしながら部屋に入る。
「上のTシャツも下のスパッツもどちらも中位のサイズが良いみたいです。このスパッツと言うものはまだ慣れません。こんなに体にピッタリな物を初めてなのでちょっと恥ずかしいです。」
「あのー、一つお願いがあるのですが。」
「このスパッツと同じようにピッタリとしたTシャツを作っていただけないでしょうか?」
「弓を直すときに射るときに胸が安定しているともう少し命中率が上げられるかと思いまして…駄目でしょうか?」
「駄目ではないけれど一つ大きな問題がある。」
「問題ですか?」
「ああ、とても大きな問題です。」
「素材の問題でしょうか?確かにこの手触りだけでも高価な布を使っているのが判りますしその上魔法が付与されて居るのですから。ああ、でももっと普通の布で作って頂ければ良いのですよ。」
「素材でもお金の問題でも手間でもないです。それはこっちの小さい方のTシャツを元にすればすぐに出来るし。」
「ではどの様な問題が?」
「あー、えー、まぁそのー、なんですな……レリアさんの胸のサイズがわからないと細かい調整が出来ないといいますか。」
あぁ、言ってしまった。レリアさんの顔が真っ赤になっている。そりゃそうだろう。俺だって恥ずかしいし。まあ思春期のガキじゃあるまいし良い年して胸にサイズくらいで動揺するのもキモいので腹をくくろう。
「なっ、大きな問題だろ。具体的に言うと胸回りで一番出ている所とその下胸の付け根を体をぐるっと一周するように長さを測る必要がある。それはTシャツの上からでもまあ大丈夫なのだが。」
そう説明しながらアイテムボックスから麻紐を取り出す。一旦端に寄せたナイフから短めのものを使って麻紐を1mずつ2本切り出す。
「シャツの上からで良いのでこれで大体の長さを測ってください。」
「…分かりました。」
まだ心の準備が出来ていないのか返事まで若干時間があったが気にしないでおこう。
測り終わった二本の紐をレリアさんが渡してくる。耳まで真っ赤になり目線を斜め下に外している様子から相当恥ずかしいのだろう。
「【魅了】をレジストしました。」
ヤバイ。このままでは、なんかいけない扉を開いてしまいそうだ。
気を取り直してアイテムボックスから白い塊を取り出して作業台に置く。討伐した魔物の骨から【錬金術】で抽出しておいたリン酸カルシウムの塊だ。手軽に手に入るモデリング用の素材としてプラスチックや石膏代わりに使っている。
マネキンの要領で首のしたから胸周りの石膏モデルを【錬金術】で大雑把に形成してから二本の紐の長さを元に形を仕上げる。本人を目の前にして想像しながら胸の形を作っていく何とも言えない背徳感にドキドキしてきた。
「キャー」
急に叫び声をあげたレリアさんにぶちかましを喰らって弾き飛ばされた。
「見ないでー、見ないでー」
どうやら恥ずかしさが限界突破したようだ。
「【魅了】をレジストしました。」
普段クールな彼女が取り乱して子供っぽくアワアワするギャップに持っていかれそうになったがぶちかまされた衝撃とでなんとか相殺できた。
「とりあえずこれを着せて」
素材にする予定のTシャツ小を着せてようやくレリアさんも落ち着きを取り戻したのだが丈を縮めて形をスポーツブラっぽい形に形成し直したらまた恥ずかしくなったのかソワソワし始めた。出来上がりは布の面積が広めの前世でテレビコマーシャルをしていたワイヤレスな感じで仕上げてみた。
「では一旦部屋の外に出ていますので試してみてくださいね。きついとか緩いとかあったら調整しますので遠慮せずに言ってください。」
そう言って試着するようにレリアさんを促しつつ部屋から出て扉を閉める。
しばらくすると部屋の中からドスドスと暴れているような音が聞こえてきた。何を暴れているんだと思っていたら急に扉が開いて興奮気味のレリアさんが飛び出してきた。
「魔術師様、すごいですこれ。とても動きやすいのにきつくなく、まるで魔術師様に優しく包まれているようです。」
何か相当気に入ったようだ。良くわからないことを口走り始めたかと思うと急に俺の手をとって自分の胸に押し付けた。
「【魅了】のレジストに失敗しました。」
布を通しても判るその柔らかさと温かさに一発で持っていかれた。レリアさんもその瞬間に自分が何を仕出かしたのか気付いた様で胸に手を当てたまま二人して固まってしまった。そのまま流されて目を会わせ胸に当てたままの手をニギニギしてしまおうかと思ったとき
『ドサッ』
「ぐぎゃ」
居間の方から何かが落ちる音と共にリリアの呻き声が聞こえてきた。
「【魅了】をレジストしました。」
魅了が解けると同時にレリアさんから離れた。
今回は危なかった。あのまま流されたとしたら…過去最大のピンチだった。ナイスだリリア…ナイスか?リリア。
「あははは…リリアちゃんソファーから落ちちゃったのかなー」
リビングに行くと案の定、リリアがソファーから床に落ちていた。それでもグースカ寝ているリリアをソファーに戻しブランケットもかけ直して作業にもどる時に何をどう吹っ切ったのかレリアさんが爆弾を投下してきた。
「あのー、もしかして胸の形を直接見ていただいた方がより良いものが出来ますか?」
「…感覚的な物なので保証は出来ませんが、恐らくはよりフィットした物を作れるかと思います。」
良いのだろうか?良いだろう見たいんだからちょっとくらい話を盛っても。実際に良くなるかなんて着けたこともないし分からんけど。
するとレリアさんが決心したのか勢いをつけてブラを脱ぐと耳まで真っ赤にして
「は、恥ずかしいのであまりジロジロ見ないでください。」
「無理です。ガン見します。」
「…ばかねぇ」
あぁ、つい心の声が漏れてしまったが正直に吐露したため変な気まずさが少し和らいだので良しとしよう。その甲斐があって色々と調整しながらようやく納得してもらえるものができあがった時には夜中になっていた。
えっ、生チチを見た感想?
「美しいものを嫌いな人がいて?」
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