第3話 朝ごはん

朝、いつもの時間に目が覚める。

昨日、採取旅行からようやく帰ってきた所に色々とあったせいかまだ疲れが少し残っている。

そう、疲れが残っているのは昨日色々とあったからである。決して年齢の為ではないはずだ。


重たい体を意識しないようにしつつ着替えを済ませ顔を洗って朝の支度を終えたら朝食の準備をしながら今日の予定を立てていく 。

一番の楽しみは、今回集めた素材をもとにあれやこれやを造ることだろう。下処理が必要なものも含めてみんなアイテムボックスに放り込んである。


魔法付与用の腕輪に付与した【時空魔法】で作ったアイテムボックスは容量は確認できない位入るほどの大きさであり、その中は時間が停止するので入れたものを劣化させずに保存できるので採取したものの保存庫としてもまた旅のお供としてもとても重宝している。

その代わりに作るのに結構高価な素材と手間と魔力を必要とする魔法付与用のアイテムにレアスキルの【時空間魔法】を付与する必要があるのでそうホイホイとは作れないのが欠点なのだが。

同系統の魔道具にマジックバックがある。こちらは比較的魔法との親和性が高い素材で作られた入れ物に【空間魔法】を付与してできる魔道具で主にダンジョンの宝箱から発見される物と普通のカバンに後から魔法付与して作ったものの2種類が流通している。

ダンジョン産のマジックバックは見た目は薄汚れたずた袋だったりウエストポーチだったり容量も物置小屋位から大型倉庫と色々とある。

性能もバラバラで中の時間停止できたり出来なかったり中には入れられるものが種類別に10個までなんて縛りがあるものも存在するらしい。

当然、時間停止できるものは貴重であり時間経過の速度が半分くらいになるだけのものでも高価で取り引きされる。

人が作ったマジックバックは新しく造りだされいるものもありそれなりの数が市場に流通しているので、アイテムボックスに比べれば性能がイマイチでその分一般的なのだがそれでもそこそこ高価な物ではある。


そんな便利なアイテムボックスから卵、ベーコンとレタス、パンを取り出す。

あとはスープを鍋ごと取り出してコンロに置く。

その隣でフライパンを火にかけベーコンをカリカリに焼く。

一旦ベーコンを避け卵を落として目玉焼きにする。肉パテ抜きの月見ベーコンバーガーモドキとオニオンスープだ。


アイテムボックスの中は、時間停止しているのでいつ取り出しても出来立てなのだが古いものからの消費しないといけない気がするのは、前世での賞味期限絶対主義的な感覚が未だに抜けきっていないためであろうか。

そんな感覚に懐かしさを感じていると玄関先に誰かが近寄る気配がした。


「あのー、魔導師様。お早うございます、レリアです。よろしければ朝食の準備を致しますが。」


お隣のレリアさんが朝食の準備をかって出てくれている様なのだが、あとは焼き上がった月見ベーコンをパンにのせて挟むだけである。

だが空気の読める転生者を自称している俺なので月見ベーコンを挟んだパンと使った状態のフライパンをアイテムボックスに放り込んだ。


「はーい、今開けますんでちょっとお待ちを。」


不自然さがないかをキッチンをざっと見回して確認してからなにもしていない卵とパンをアイテムボックスから取りだしさも今から作ろうとしていました感を出してから玄関に向かう。


「あぁ、お早うございます。」


玄関を開けるとそこにはレリアさんが昨日の即席バスケットを前に抱えて立っていた。


「リリアと二人では食べきれないほどいただきましたので。作る手間は二人分も三人分も変わりませんし、もし朝食まだでしたら私が朝食を作りますが。

いえ作らせてください。」


[【魅了】をレジストしました。]


身長差はそれほどでもないのだが、俯きかげんでやや下から見上げるようにこちらをうかがっている。

あざとい。下から目線とはなかなかのあざとさだ。

しかもその先には抱えたバスケットに持ち上げられた胸部装甲が深い谷間をたたえた状態で自己主張している。

その視線を感じたのかタイミングよくバスケットをヨイショと言った感じで持ち直している。


[【魅了】をレジストしました。]


「どっ、どうぞ」


谷間に吸い寄せられた視線をなんとか振りほどき家の中に招き入れキッチンに案内する。


「朝からわざわざ有難うございます。」


「いいえ、私に出来るのはこれくらいですから。」


「どうぞ、荷物はその辺に置いてください。丁度準備していたところなんですよ。」


そう言ってキッチンに招き入れた。


「もう、準備終わっていたのですね。私が来たのはお節介でしたでしょうか。」


キッチンに並べた具材やコンロのスープを見ながら、やや声のトーンを落として呟いている。下にさがったエルフ耳がしょんぼり感を出しているのがちょっとカワイイ。


「丁度、食材を並べながら献立を考えていた所です。スープは出来合いのものを温め直していたところです。」


「良かった。あとは私がやりますので魔導師様はどうぞお座りになっていて下さい。」


ほっとしたのか、胸の前で手のひらを合わせながら満面の笑顔でこちらに振り返る。さっきまでしょんぼりと下を向いていたエルフ耳もピンと上向いている。


[【魅了】をレジストしました。]


「それではお言葉に甘えてお任せしますね。何か必要な物とか有ったら遠慮なく言って下さいね。」


今のはちょと危なかった。自然なしぐさが充分魅力的なのだが、ちょいちょい出てくるあざとさが足を引っ張っている感じだ。

ちょっとクラっと来たのを誤魔化すように話題を変える。


「そう言えば、リリアは一人でお留守番なの?」


「お寝坊さんでいつもこの時間はまだ寝ています。特に昨日少し寝る時間が遅かったでしょう。まだ寝ていたので置いてきました。

朝御飯は一緒に作って、起きてきたら食べられるように持って帰らせていただきます。」


どうやらリリアはお寝坊さんのようだ。


食べ終わったお皿を下げながらさも当然の様に洗い物を始めようとするレリアさんであるがそろそろリリアも起き出しているかもしれない。


「レリアさん、後はやっておきますからリリアちゃんに朝御飯を持っていってあげてください。」


「ふふ、実は居ない間に起きたらこちらに来るように昨日のうちから言っておいたので大丈夫ですよ。」


さすがの計画性。そうやってジワジワと籠絡しようとして居ますね。


「そうなんですね。ではお茶をいれますのでゆっくりしていってください。」


おいおい、自分からチャンスを与えてどうするんだ。まったく。

仕方がないのでせめて覚醒効果のあるハーブティーでもいれて【魅了耐性】を上げておくか。

王都で薬師の婆さんがやっている店で買ってきた”朝スッキリハーブティー・ブレンド”とか言う怪しげな配合のハーブティーを入れたマグカップを二つ手に取り、一つを洗い物を終えてテーブルについているレリアさんの前に置きもうひとつは自分の前に置きながら席に座る。


「どうぞ。熱いので気をつけて。」


「はい。頂きます。」


そう言うと両手で包み込むようにマグカップを持ち唇を尖らすようにして


「ふー ふー」


[【魅了】のレジストに失敗しました。]


しまった。大人な横顔でその子供じみたしぐさにやられてしまった。これがギャップ萌えってやつの実力か。

ああなんだか頭の中がピンク色の霧で包まれていくような何とも言えない感じに包まれていく。


『バーン』

「魔導師様、おはようございます。うちのお母さんきてますか?」


大きな音をたててドアを開けリリアが入ってきた。


「リリア、入るときはちゃんとノックしないと駄目でしょう」


「ごめんなさい。起きたらお母さん居ないから慌てちゃったー。」


「慌てちゃったーじゃありませんよ。昨日ちゃんと言っておいたじゃない。

魔導師様、うちのリリアがすみません。」


「えっ、あー、ビックリするから今度から気を付けようね。」


「はい、魔導師様。」


「ん、良いお返事だ。お腹もすいているだろう。まずは手を洗って朝御飯を食べようか。」


そう言って頭をポンポンと二回手のひらをのせたあとキッチンで手を洗わせてテーブルの席に座るように促した。

ナイスだリリア、危ないところだったが結果オーライと言うことで顔には出さないが心の中でリリアをほめる。


朝御飯を食べ終わって隣の家に戻るリリアとレリアを見送りに玄関の外まで出ていると西地区の顔役をやっている農家のラリーが難しい顔で向こうから歩いてきた。


「よう、いつ帰ってきたんだ?」


「おう、一昨日だ。どうした難しい顔をして?」


「今ちょっと良いか?相談があるんだが…」


普段はこれっぽっちも遠慮なんかしない農家の親父なのだがリリアとレリアの親子をチラ見しながら話しかけても良いのか分からんとためらっているようだ。


「あぁ、彼女達は何日か前から隣に住み着いているレリアとリリアだ。」


「レリアともうします。」


「リリアでーす。」


「三軒先で農家をしているラリーだ。」


「ラリーが相談なんて珍しいな。」


「いやなに、最近ここいらの畑で獣の被害が報告されていて。その相談なんだが。」


「ふーん、そしたらレリアさんにも話を聞いてもらった方がいいかも。レリアさんすみませんが、今からちょっと良いですか?仕事の話が出来るかも。」


「仕事ですか。分かりました。リリア、わるいけど先に家に帰っていてくれるかい。」


「んー、わかった。」


隣の家に戻るリリアを見送ったあと二人を家に招く。俺とレリアはお茶したばっかりだしすこし気温が上がってきた外を歩いてきたラリーのことも考えてコップに冷やした麦茶を用意しお茶請けには醤油味のあられを用意した。


「おぉ、すまんな。丁度喉が渇いていた所だ。」


そう言ってゴクゴク飲む様子を見て過ぎ足すために冷蔵庫からピッチャーごと持ってきて飲みきったコップに継ぎ足しながら話を促した。


「で、畑の害獣がどうのとか言っていたけど。」


「あぁ、知っての通りこのティグリッサの西側地区は街の城壁の外側にはみ出した所にあるから森との間には簡単な木の柵があるだけだから前から森から猪やら鹿やらが出て来て畑を荒らしていく被害はボチボチ報告されてはいたんだが…」


「まあ、その分城壁を拡張してはみ出した畑も新しく囲い直した東に比べて人も減ったし家も安かったんだし其処は仕方がないだろう。」


「獣害が出ることに文句はない。むしろ獲物の方からやって来るから肉にありつけて良かったんだが、最近魔物まで出てくるようになっちまってな。そうなると大半の家では手に負えないんだ。」


猪や鹿も魔物になると大きさや力なんかのステータスが倍くらいになるので武器も持たないただ力自慢なだけの農民では、一対一では危険だろう。


「それでも、うちとお前んとこで半分以上北の森側を防げているこの”西北”地区と隣の子爵領までの街道が延びていて森に面していない”西中”はまだましなんだが、南の森に面している”西南”が酷くてな。」


うちは元々鍛治工房だ。そのための薪を確保しやすいように森に面した町の北側の端に位置しているのだが獣避けの結界を張ったり対策をしっかりと施しているので問題ないし、ラリーは元冒険者で武器も扱えるので早々遅れをとることはないだろう。


”西中”は農家と街道沿いの商店が半々くらいだが北側と南側にはここ”西北”地区と南に広がる”西南”地区に挟まれているので直接森と面しているのは西の端だけなのだが、西側には森を貫く街道が続いている。

街道沿いを護衛をつれた商隊や依頼に向かう冒険者が行き来しているのでこちらもそう問題はないはずだ。


問題は”西南”だ。あそこは数件の農家が、何処かの開拓村から逃げてきたような訳ありのやつらを農奴の様に使って豪農を気取っている様な奴等だ。

そんな奴等がどうせ西地区の集会で自分勝手な主張をしたんだろう。


「でだ、南の奴等がこないだの集会で各地区で代表を出して見廻りをすべきだと言い出してな。地区で二人ずつ三組作って見廻りをするそうだ。」


「また面倒なこと言い出したな。金は出るのか?」


「いいや、各地区で手の空いたものを出せだとよ。しかも被害が大きい南を重点的に見回るべしと来たもんだ。」


「ホントに”西南”地区の奴等の面の皮の厚さには参るな。仕留めた獲物はどうなるんだ?最低限仕留めた奴の物にしないと誰もやらないだろう?」


「ああ、それだけは何とかもぎ取った。最初は狩った地域のみんなで分けるとか言いやがって。」


「そンな調子だと仕留めた獲物に横から斬りかかって俺が止めを刺したからこの獲物は俺のものだーとか言いそうだな。」


「そんときはそんときだ。でだ、まあ一人は俺が行くとしてあと一人どうにかならないかの相談なんだが…」


そこまでの話の流れで俺達はなんとなくレリアさんに目が行った。


「レリアさん、お給金出したらやる?」


「いま聞いた範囲では、複数の人が集まっての害獣駆除みたいなのでそれほど危険もないですし依頼料が頂けるならば引き受けたいのは山々なのですが如何せんまともに戦える武器がないものですからご期待に添えないかと。」


「弓や矢やら何やら必要な物はこちらで用意しましょう。依頼領は一日銀貨1枚で私が持ちましょう。獲物はレリアさんとラリーと私で三等分。」


そう提案してラリーとレリアを交互に見る。


「三等分か。まあ金を出すんだから仕方がないか。」


そう言いつつラリーはあられを摘まんで口に放り込む。


「ところでレリアさんの…ボリボリ…うめえなこれ。」


「おいおい、口にものを入れてしゃべるな。」


「なんだよお前は俺のお袋かよ。ところでレリアさんの腕はどれくらいなんだ?」


「ん、俺はしらんぞ?」


「なんですとー」


「実際見ていないがDランクだっていうし大丈夫だろう。」


「はい。弓さえ直していただけたら鹿や猪位なら魔獣でも問題ありません。」


「それは頼もしいな。実際何時からなんだ?」


「それが各地区で準備が出来次第順次始めろだそうだ。」


「あー、じゃあまだ準備中と言うことで引き延ばしをーは無理か。今日弓を直して試し打ちだな。

良ければ明日にでも3人で北の森に入って狩りのお試しだな。そのあとその他の装備を見直しして一日休みを挟んで、見回りは早くて四日後ってところだな。」


「わかった。明日は森だな。また今日くらいに来れば良いか?」


「もう少し早くてもよろしいですが。」


「そんなに張り切らなくても大丈夫だが…まあレリアさんがそういうなら少し早く来よう。」


その後、世間話をしつつ麦茶を二杯飲みあられを食べ尽くしてから立ち上がると


「じゃあ明日、頼むなー」


と言い残してラリーは帰っていった。

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