第5話第五話 お互いの事とコーヒー
「マスターって何歳なの?」
「また唐突に来ましたね」
また唐突に言い出したのはリリアーナさんだ。このノリは何回やるんだろうか?
最近シフィルさんと一緒にいないけどどうしたんだろうか。
「シフィルさんはどこに行ったんですか?最近見かけませんが」
「シフィルなら実家に帰ってるわよ。シフィルも一応貴族だから色々あるのよ」
「なるほど」
護衛も付けずにこんな所に来ているリリアーナさんはどうしたらいいんだろうか?
「マスターが何歳なのかという事は、私も気になるのです」
「イルネアさんまで」
彼女たち毎日来ているような気がする。学校とか行っていないんだろうか?
「リリアーナさんたちは学校とか行ってないんですか?」
「行ってるわよ、貴族だもの」
「私は平民ですが、特待生制度でおんなじ所に入っています」
二人とも学校に行ってたのか……じゃあ学校はどうしているのだろう?
「今日とかは学校どうしたんですか?」
「私は、最近家の用事があると言って早退したりしてるわ」
「私は授業が終わってから来てますよ」
サボっている人がいた。貴族の学校だからってそんなことが許されるのか。
「取り敢えず、サボっている間は中に入れませんからね?」
「それは酷いわ!」
今日も喫茶店には和やかな雰囲気が流れて…………「ちょっと待ちなさいよ!」
せっかくいい流れだったの。
「はじめの質問に答えてないわよね?オグマに聞いたわ、マスターはオグマが十六ぐらいの時からここにいて、姿が変わってないって」
オグマさんが呼び捨てにされている。これは年上に対する態度とは思えないので注意しなくては。
「オグマさんはリリアーナさんよりも長い間生きています。なので「話そらそうとしてない?」そんな事してませんよ」
流石にリリアーナさんでも誤魔化しきれなかった。
ここは諦めて白状するとしよう。
「そうですね、百を超えたあたりから数えるのはやめました」
「マスターの種族は人間ですか?」
「ええ、人間の父と母から産まれた純粋な人間です。異世界人であるという事以外は、イルネアさんたちと変わりはありませんよ」
「じゃあなんでそんなに長生きしてて、姿が変わってないのよ」
「魔法ですよ、オリジナのということにしておきましょう」
オリジナルというのは嘘だが、魔法というのは本当だ。
でも、長生きなんてするもんじゃないと思うこともある。
「しておくって事は他に理由があるの?まあいいわ、信頼を得たら教えてもらうわよ?」
「ええ、信頼を得ることができたらですが」
彼女には案外話せてしまうかもしれない、イルネアさんもだが、そんな魅力を持っている。
「代わりと言っても何ですが、リリアーナさんたちのことを教えてもらえませんか?あまり知らないということに気づいたので」
「それはいい提案ね!」
「私もいいですよ、秘密にする事も大してありませんし」
お互いの事を知る事は大切な事だが、気をつけなくてはいけない事もある。
「自分の事もありますが、もし自分が他の人に質問をする時、人が聞いて欲しくないと思っている事にはあまり踏み込んではいけません。聞かれたくない事は誰にでもありますから」
「分かってますよ」
「なるべく気をつけるわ」
片方の決意の弱い返事を聞いて、彼女に秘密を話す事は無いと思った。
****
「何でも聞いていいわよ」
いざ聞いていいと言われると、聞きたい事があまりない事に気づいた。
「じゃあ、リリアーナさんは何年生なんですか?」
「高等部の四年生よ」
高等部二年という事は、十七歳ぐらい。日本だと高校二年ぐらいだ。
「ちなみにイルネアさんは何年生なんですか?」
「高等部の二年生です」
まさか中学生だったとは、言われてみれば結構身長が小さい。言動が大人びているから分からなかった。
「なんだか失礼な事を考えていませんか?」
女の勘というものは鋭い。考えている事も気を使わないと。
イルネアさんを適当に誤魔化しながら次の質問を考えていると、入り口の扉が開いて小学生ぐらいの銀髪の少女が入ってくる。
イルネアさんとリリアーナさんがいや顔をしている中、少女――アルルさんがカウンターに座る。
「どうしたのじゃ、そんな嫌な顔をして。マスター、コーヒーを一つなのじゃ」
「かしこまりました」
コーヒーの準備をしている中、イルネアさんが非常に嫌そうな顔で口を開く。コートを分解されているのを根に持っているのだろう。ここまで表情を動かしているのは珍しい。
「今度はどんな変なものを作ってきたのですか?」
「変な物とはなんじゃ、最高な魔道具と呼ぶのじゃ」
「最高と呼ばれる魔道具に謝ったほうがいいと思のです」
隣でリリアーナさんがこくこくと頷いている。自分も全く同じ気持ちだ。
コーヒーができたので前に出す。
「ありがとうなのじゃ」
外見だけは幼女なので、ミルクと砂糖を大量に入れている姿だけは見た目相応に見える。
溢れるぐらいまで入れるのはどうかと思うが。
そんな甘々のコーヒーを一口飲んだアルルさんが口を開く。
「もちろん今日来たのは新しい魔道具じゃ。今回は凄いものが出来たぞ」
そう言うと、アルルさんはバックの中に手を突っ込んで魔道具を出そうとする。
すると、黙っていたリリアーナさんが口を開く。
「さっきまでお互いのことを聞いていたのだけど、アルルが初めてここに来たのはいつなの?」
よっぽど魔道具が嫌なのか、リリアーナさんが話題を変えようとする。
「初めて来た時……。覚えておらんが、大体百五十年前ぐらいかのう」
「その頃のマスターと変わってるの?」
「妾も子供だった故、あまり覚えておらんが大して変わってない事だけは分かる」
「じゃあ、マスターとアルルは最低でも百五十歳いじょ「妾は永遠の十歳じゃ」……」
本当の十歳はそんな喋り方しないし、変な魔道具を作らないと本人に抗議したい。しないけど。
「さっきも言ったように、あまり詳細には覚えておらぬがマスターが妾に言った言葉は忘れとらん」
「あれはもう忘れてください。あの言葉は幼いアルルさんに言ったのであって、今のアルルさんには言いませんからね」
「照れなくとも良かろう」
あの頃はただの幼女だと思って、思い切った事を言ってしまった。まだ覚えているとは。
「何を言ったのか気になりますね」
「そうよ!なんて言ったのか教えなさいよ!」
二人が聞きたいと言うが、あれはそこまで特別なものではない。自分に子供がいれば、間違いなく言ってしまうあれだ。大きくなったら何とかかんちゃらだ。
頰を赤く染めているアルルさんを見て、二人が騒ぎ立てている。(主にリリアーナさん)
「いっ、今は関係ないじゃろう!今は妾の魔道具を紹介することの方が優先じゃ!」
騒ぎ立てていた二人の顔が固まる。
忘れたと思っていたらしい。
結局お互いのことを話そうというのはどこに行ったんだろうと考える。
そんなほのぼのとした日に、哀れな二人が魔道具の餌食となった。
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