第4話魔道具とコーヒー

「新しい魔道具を作ったからみて欲しいのじゃ」

「はいはい、今度は何を作ったんですか?」


彼女はアルレナさん、魔道具師でいわゆるノジャロリと言うやつだ。小人族とエルフのハーフなので、見た目は銀髪の幼女だけど、年齢は何歳なのか分からない。


「何か面白そうなことやってるな」

「オグマさん、最近来てなかったみたいですけど何してたんですか?」


彼はオグマさんと言って、盗賊殺しの二つ名を持つ凄腕の冒険者だ。

茶色っぽい赤髪に、三十代後半とは思えないほどの体つきから戦闘で鍛え抜かれていることが分かる。


「ちょっと大規模な盗賊団を潰しててな。結構長引いちまったんだよ」


彼は二つ名の通り、盗賊専門みたいなものだ。


「魔道具の説明に入っても良いかのう」

「すいません、大丈夫ですよ」


彼女の魔道具の発表はあまり付き合いたいものではない。理由は見れば分かる。


「まずはこれじゃ」


そう言って出してきたのは、白いマグカッふプだ。


「何と、このマグカップは温度調節が出来るのじゃ!」

「へーー」

「そりゃ凄いな」

「何でそんなに棒読みなのじゃ!」


そりゃそうだろう。彼女の作る魔道具がどんなに危険なのかは常連なら知っている。

そんな時に扉が開き、新しいお客様が二人入ってくる。


「何してるの?」

「アルレナじゃないですか」


片方は好奇心、もう片方は嫌そうな目線でアルレナを見つめる。


「この魔道具が気になるのじゃったら教えてやろう!そこの……「リリアーナさんです」リリアーナとやら!」


名前が分からなかった様なので途中で補足する。


「いえ、結構で「いいわよ、見せてみなさい」……」


イルネアさんが拒否しようとするが、それを途中で遮ってリリアーナさんが答えた。


「やっと妾の魔道具の価値を理解する人間が現れた様じゃな」


楽しそうにしている二人はほっといて、コーヒーの準備を始める事にした。

二つの視線が助けを求めている様な気がするけど、気づいていない事にしよう。



****



コーヒーが出来たので、温度を変えることが出来るらしいカップに注ぎ、そこにアルレナさんが手をかざして魔法を唱える。


「フリーズ」


魔法が発動し、湯気が立っていたコーヒーが

冷える。

ちなみに、この世界の魔法はラノベのものと同じ様なものだ。

魔力を込めて詠唱分を唱えてから、魔法名を言えば魔法が発動する。熟練した魔法使いの中には、無詠唱でも魔法を使える者もいるらしい。


「さあ、リリアーナよ魔力を通してみるのじゃ」

「ええ」


リリアーナさんが魔力を通すと、冷えていたコーヒーに湯気が立ち始めて――。


「熱っ!」


その前にリリアーナさんがカップをカウンターに落として、周りにコーヒーが散らばる。


「ちょっと、何するんですか!コーヒーがかかったじゃないですか!」

「しょうがないじゃない!中身だけじゃなくてカップの方も熱くなったのよ!」


二人が言い争っている間に、アルレナさんは何やらブツブツ呟いている。

ちなみに、自分とオグマさんは事前に逃げていたため、かかっていない。イルネアさんはそこまで察知できなかったらしい。


「オチが読めてましたよね」

「まあそりゃそうなるだろうな」


しみじみと呟いていると、イルネアさんがこちらに向かってくる。


「こうなるって分かってたなら止めてくださいよ!これ私の一張羅なんですからね!」


指を刺されたところを見てみると、脇腹あたりに茶色いシミがついている。

イルネアさんは、いつも白いコートの様な物を着ている。フードが付いていて、膝辺りまである。

ちなみに、怒っていてもあまり表情が変化していない。


「それならこの魔道具を使うのじゃ!」


アルレナさんが新しく出してきた魔道具を出す。スタンガンのような形をしていて、というかスタンガンそのものだ。


「これは汚れを分解する魔道具じゃ。しかし副作用が分からんから試してやろう」

「やめて下さい!言ったでしょう、これ大事なやつなんですよ!」

「心配無用なのじゃ!」


必死に逃げようとするイルネアさんがアルレナさんに捕まえられて、汚れの部分に魔道具を付けられる。


「スイッチオンなのじゃ!」


魔力を流された魔道具が、イルネアさんの服についている汚れを分解する……服ごと。

イルネアさんがプルプル震えている。

コーヒーのシミは結構広範囲に広がっていたため、脇腹辺りの服が分解されて健康的な肌が見えている。

コーヒーも無駄にされたし、これは叱らないと。


「アルルさん、少しお話をしましょうか」



****



「イルネアさん、サイズ大丈夫ですか?」

「大丈夫です。着るものを借りてしまってすいません」

「別にいいですよ」


イルネアさんのコートの穴は、その場で直すには大きすぎたので、一旦日本のTシャツを着てもらっている。


「い、イルネアに負けた。私より小さいと思ってたのに……」


暗い雰囲気を纏っているリリアーナさんが、ブツブツと何かを言っている。

自分も、イルネアさんが着痩せするタイプだとは思ってなかった。


「コートは直りそうですか?」

「ええ、修復屋に出しておきます」


修復屋と言うのは、その名の通り物を修復したりする職業で、若干値段はかかるけど安心できる。


「マスター、そろそろこいつを正気に戻した方が良いんじゃねえか?」


オグマさんが指をさした方向に居るのは、リリアーナさんと同じくブツブツ呟いているアルルさんだ。

よっぽど反省しているらしい。説教の間に他の人もビクついていた様な気がするけど気のせいだろう。


「そうですね、アルルさん、そろそろ起きてください」

「怖くない怖くない怖くない怖くない、はっ!妾は何を!」


ようやく正気に戻った様だ。


「魔道具の説明の途中じゃったの。次に行くのじゃ」

「お前もめげねえな」

「わ、妾がビビってある訳などなかろう」

「反省していない様ですね」

「すいません」


アルルさん、キャラ忘れてますよ?


「ダメかのう?他の魔道具は副作用が分かっておるから意見を聞くだけでいいのじゃ」


アルルさんがキラキラした目でこちらを見る。その目はやめてほしい。


「しょうがないですね。他の人になるべく迷惑をかけないでくださいね?」

「分かったのじゃ!」

「それじゃあいいですけど。リリアーナさんも起きてください」

「はっ!私は何を!」


起き方が全く同じ。ショックが大き過ぎたのだろうか?

リリアーナさんを起こしている間に、アルルさんがもう魔道具出してきている。


「まずこの魔道具じゃが………………」


結局、へっぽこな魔道具の説明は夕方近くまで続いた。






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