第3話 性癖とコーヒー

「私はドMです」


外を見ると色々な人が歩いている。

ちなみのこの窓は色々な所に繋がることが出来るので、今は大通りに繋げている。


「無視っ!ここまで綺麗に無視してくるとは!ハァハァ、辞められませんね!」


ほら、「ハァハァ」見てください「まだ無視しますか!」猫耳の女の子「あの猫耳の女の子に踏まれたい!」…………「そんな目で見られたら興奮してしまいます!」


「すいません、一回黙ってもらって良いですか?」

「マスターが無視するからじゃ無いですか」

「逆に無視しない方がおかしいと思いますよ」


彼はヨウレルさん、こう見えても聖職者で、ドMだ。これ以上の説明はない。


「ああ!今誰かが私を貶している予感がするっ!」


彼の相手をするのは本当に疲れる。リリアーナさんでもきてくれれば。


「邪魔するわね!」


噂をすればと言うやつですね。これは神様に感謝しないと。もちろん神様はお客様です。


「おお!これはこれは金髪の美人のお嬢さんよ!一つ願いを聞いてもらえませんか?」

「私のことが美人だと分かっているんだったら一つぐらいは聞いてあげても良いわよ」


あっ、これは止めないといけないやつですね。もう遅いでしょうが。


「私を踏んでください」

「…………」

「ハァハァ、そのゴミを見るような目っ!素晴らしい!!」

「マスター。何よこれは」

「これ扱い!ハァハァ」

「それ……では無くその方はヨウレルさん。ドMです」


そう言うと、リリアーナが少し考える。


「その、どえむって何なの?」


そうかと手を打つ。彼女は箱入りお嬢様だからそんな人種は知らないのだ。


「大きく訳せば…………貶されれば貶されるほど喜ぶ人種です」

「なにそのキモい人種!」

「キッ、キモい!しかも人種レベルで貶されているっ!!」


ヨウレルさんはドMであることを除けばかなり見栄えがいい。

そんな人が床でハァハァ言っているのはモザイクがかかるレベルだ。

そんなことを考えていると、また扉が開き、今度はイルネアが入ってきた。

イルネアさんは、部屋のメンバーを一通り確認するとそっと扉を閉めようとする


「待ってくだい!イルネアさん!」


扉が閉まりきる前にヨウレルさんが手で止める。


「離してください、キモいので。遺伝子レベルで消滅して死んでください」


底冷えする様な冷たい視線に、ヨウレルの息遣いが凄いことになっている。

これはいつになったら終わるんだろうかと思いながら、コーヒーを準備して待つことにした。



****



「ヨウレルのさんは結局なにしにきたんですか?」


あれから数十分が経って、ようやく落ち着いたヨウレルさんに尋ねる。


「実は相談事がありまして」

「相談ですか」

「どうせしょうもないわよ」

「聞くだけ損だと思うのです」


辛辣な二人の評価に悶えているヨウレルさんが立ち直ると、珍しく真面目な顔をしてこちらを向く。


「私が司教をやっているのはご存知ですよね?」

「えっ、こんな奴が⁉︎」

「ハァハァ、心から驚いた顔を………」

「話が進まないので少し静かにしていてください」


一々ヨウレルさんが反応するので話が少しも進まない。


「そ、その事なのですが、私には何人も部下が居まして、その部下が私の命令を聞いてくれないのですよ」


そりゃそうでしょうねと言う視線に晒されているヨウレルさんはハッキリとした口調で言う。


「あなた方にとって、私の行動は変態だと思うでしょう。ですが、私にとってこれが生きると言う事なのです。私はこの様な性癖に生まれてきて後悔した事はありません」


その堂々とした物言いに心を打たれた様で、リリアーナさんは見直した様な目線をしている。


「そんなことを考えていたなんて、悪かったわね」

「気にしていませんよ」

「もう貶すような事はしないわ」

「いえ、もっと貶してもらって構いません。むしろもっと貶してください」

「…………」


分かってましたよ。

私とイルネアさんは結果が読めてましたよ。


「それよりも何か解決策は無いですかね?この性癖を封印することは、私にとって死と同じですから」

「そうですね、私も貴方の性癖をやめろと言うつもりは有りませんよ」

「本当ですか!」

「ええ、要はケジメの問題です。ヨウレルさんが神様に敬意を持っていることは知っていますから、なので仕事の時はプライベートのことを封印して、プライベートでは仕事を封印するんですよ。貴方が本当は、神様をとても敬愛していると知れば、信者の方や部下の人たちもきっと付いてきてくれます」


ヨウレルさんはこう見えても神様への信仰心はとても強い。性癖が残念なだけで。だからこそその姿を見ればヨウレルさんに付いてきてくれるはずだ。


「プライベートと仕事を分ける……」

「そうです、僕の住んでいる国では仕事もプライベートも真面目な人より、仕事とプライベートは分けている人の方が好まれるんですよ」


実際、会社などでは仕事は真面目でプライベートでは少しお茶目な感じの方が良い印象を受けるのだ。


「なるほど、とても参考になりました。やはり相談事はマスターにするに限りますね」

「光栄です」

「ではプライベートでは、我慢しないでおきます」

「ヨウレルさん」


早速性癖を披露しようとするヨウレルさんに声を掛ける。


「喫茶店ではあまりうるさくしないでくださいね?」


自分が今どんな顔をしているかは三人の顔が引きつっている所を見て想像してほしい。



****



ヨウレルさんが帰った後、リリアーナさんとイルネアさんはさんがチビチビとコーヒーを飲んでいる。


「ねえマスター」

「何ですか?」

「貴方さっき自分が住んでいる国って言ったわよね?この国にさっき言っていた様なことないと思うけど」

「私はこの国に住んでませんよ」

「じゃあどこに住んでるのよ」

「日本です」


そう言うと、少しリリアーナさんが考え込む。答えが見つかるはずがない、日本はこの世界には無いのだから。


「日本なんて聞いたこともないわよ」

「それはそうでしょう。日本は異世界の国ですから」

「は?何を言ってるの?」


困惑するリリアーナさんに、黙っていたイルネアさんが補足する。


「貴方こそ何を言っているのですか?此処は異世界喫茶店ですよ」


リリアーナさんがプルプル震えている。危険を察知した自分とイルネアさんが耳を塞ぐ。


「そんなの聞いてないわよ!!!」


喫茶店に少女の叫び声が響き渡った。

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