第104話 自業自得
「というわけで出てきて良いぞ」
俺はそう述べた。俺……観柱ヨハネはかしまし娘にそんな合図を送る。
「はい」
「はい……」
「はいな」
アリス。綾花。姫子が現われる。
「有栖川姫子……っ!」
リエルが愕然としていた。殺した相手が無病息災だ。たしかに驚愕能うだろう。コメントでは送信していたはずだが。
「さてどうする? 結界を張ったのはお前だが、コッチとしては幾らでも対抗できるぞ?」
綾花も結界を張れる。ここで日浦が結界を解除しても、新たに結界が構築されるだけだ。
「知っていたので?」
「そっちのベラベラと隠す気のない自白は全て聞いた。そうじゃなくとも推測は簡単だ」
俺は肩をすくめる。ジェスチャーとしては妥当だが、成立するには年齢が足りない。
「何を……?」
リエルは困惑していた。たしかにリエルの視点から推察は無理か。
「まず失血死事件の犯人が姫子じゃないのは、すでに日浦さんの述べたとおり。そしてこれは別に、自白を使わなくてもこっちは知っている。姫子はアリスからしか血を吸わない。別に血を吸う人間がいても、勝手はやらないんだよ」
「吸血鬼を良くも信頼したモノですね」
「乙女だしな」
「やん。お兄様」
そこで照れるな姫子。空気が壊れる。
「でそうなると、失血死の事件の犯人は別に居る。その上で血百合会が姫子を犯人と決めつけたのなら、ソッチの意図に感づくのも難しくはない」
「……………………」
日浦の無言。ついでリエルの無言。
「つまり買収できれば良し。そうで無い場合は、協会に排除させて責任を負って貰う。そんなところだろ……筋書きは?」
「ソレが何か悪いことでも?」
「別に吸血鬼を管理したいならソレでも良いが、コッチを巻き込んだ時点でアウトだな。死袴は既に動いている。後はお前の身柄を確保するだけだ。なに。封印刑……と言ったかね。死にゃしないからその辺は心丈夫だ」
スラスラと俺は述べた。
「全てお見通しですか。こうであるのなら、あなた方をお迎えすべきじゃ在りませんでしたね」
「そう相成るな」
ぬけぬけと俺は述べた。
「有栖川さん?」
「…………」
「改めて血百合会に所属しませんか? 人間と吸血鬼の平和的共存。そのために生きる気はございませんか?」
「興味ございません」
サラリと姫子は述べた。別に好きにすれば良い。アリスの隣にいたいなら、こっちから排除する理由もない。
「では交渉決裂と言うことで」
ゾワッと悪寒が奔った。
「――――――――」
日浦がマジックトリガーを引く。瞬間、ブシャッと全身から血液が溢れ出た。それは液状となって空間にたゆたい、命令に従って研磨された。
――針だ。
全身から噴出した血液が針となって、サボテンのように突出する。全方位攻撃。
「問題は」
そこにアリスがいたわけで。すでにトリガーは引き終えている。アルカヘストは全面に展開されていた。リエルを保護しようと位置取っている俺たち全てを含めて。
血とて質量だ。
であればアルカヘストに殉じるのは必然。もっともそうでなくとも俺は不利益を被らないも。ま、それは結果論として。
「――――――――」
日浦が喀血した。身体は痩せ細っている。全身の血液を使ったのだ。そうもなるだろう。そのまま失血によるショックで死に到った。
「「「「「……………………」」」」」
生き残り全員が、沈黙。命を賭けての口封じ。それが成功しなかったことを、日浦は覚えていられない。だからなんだと言われると痛いが、それにしても後味が悪い。
――もっとも次なる血百合会が現われないとも限らないのだが。
「自業自得……か」
ま、リエルを救えただけでも御の字だ。
「綾花。血百合会の掣肘は出来るか?」
「陰陽省を……通じれば……」
「さいか」
ならそっちは任せよう。
「立てるかリエル?」
俺は手を差し出した。
「正気か?」
だがリエルは不本意そうだ。たしかに俺は紳士には程遠いが。
「こっちは有栖川姫子を殺したんだぞ?」
「本当に迷惑なことをしてくれた。おかげでこっちはてんてこ舞いだ」
「それだけか?」
「協会に言ってくれ。有栖川姫子の無害さを。それでまたエージェントが派遣されるなら、ボコって終わらせるとも」
「可能か?」
「死袴の霊地でなら政治的にはコッチが上だ」
「あう……ヨハネは……聡すぎます……」
綾花は困っているようだ。気にする俺でもないとしても。
「それで、いかが?」
「吸血鬼は滅ぼすべきだ」
「ソレは聞いたな」
「じゃあ殺し合うか?」
「殺しは無しだ。諦めるまで叩きのめす……のは確かだがな」
「…………わかった」
そうリエルは頷いた。納得されたらしい。俺……こっちとしても一安心。
「吸血鬼の対処は死袴に一任する。こちらから派遣はしないよう掛け合ってみよう。可不可は流石に分からんが」
「ソレで十分だ」
俺はヒラヒラと手を振った。
「さて、後は……」
日浦顕時の遺体の方だが……。
「そっちは……死袴で何とかします……」
綾花が健気に頷いてくれた。ならいいか。たしかにこっちに切れる手札はない。その意味で、死袴と縁を結んだのは、なんの因業か。
どちらにせよ、政治的発言力でなら、神鳴市で最もは死袴なのだろう。ソコに疑念は挟まないし、挟めない。便利な権力だ。
「後は何かあるか?」
「こちらは特に」
「日浦は蘇らせられないのか?」
出来るがな。これ以上、被害を広げてもしょうがない。決死の覚悟で魔術を放ったのだ。別に無理死にを強制したわけじゃないが、呪詛を広げる意味もない。
「その意味では確かに薄情だな」
そこはまぁ理解していても。
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