第98話 お誘い


「血百合会?」


 協会は神鳴市を警戒態勢に認定し、東奔西走。綾花も少し手伝っているらしい。まだ足取りは追えていないが、犯人が場所を移した……とは思っていないらしい。霊地であればモンスターの方も居心地が良い……は聞いたな。


 とある休日のこと。今日は神様が設定した休日なので、安穏としていた。すっかり飼い慣らされ、鮎の塩焼きを食べているところに、先述の疑問。いや、しかし川魚を何時でも食べられるって……本当に死袴屋敷は幸福に満ちている。


「はい。血百合会ちゆりかい……。そう客人は申しております」


 中々物騒なパワーワードが出てきたな。


「要件は?」

「姫子と交渉がしたいそうで」

「わたくしですか?」


 キョトンと姫子。綾花の方も現状を完全に理解しているわけではないらしい。昼の時分だから暇ではあるも、吸血鬼にわざわざ関わりたいとか頭が湧いているんじゃないか。ブーメランな言葉になれども。鮎をガジガジ。


「血百合会って何ですか?」


 アリスも興味を持ったらしい。


「何かしらの魔術結社……でしょうね……。普通に吸血鬼は……討伐対象のはずですけど……何を打算しているのやら……」

「綾花にも分からないの?」

「拙の腕は……短うございます……」


 神鳴市で一番腕の長い奴に謙遜されてもな。


「それで客人は?」

「対面の屋敷に……遇しております……」


「ああ、外面用の……」

「はい……えと……」


 ほんわか綾花。


「魔術結社ね。何の意図が有るのやら」


 計りかねない……の意味で俺らは同一だった。


「姫子はどうしたいんだ?」

「話を聞くだけなら幾らでも。そういうお兄様は?」

「死袴の前で馬鹿やらかす人間がいるとは思えんが……リエルの件もあるしなぁ……」

「多分……協会ではないですけど……」


 そんな綾花の補足。


「理由は?」


「単純に搦め手を使う相手じゃないことでしょうか。奇蹟以外の魔術を使用しないので、例外を除いて真っ向から勝負する系列です」

「例外ってのは?」

「アポクリファと呼ばれる……禁忌の部隊も存在します……。こっちは合法魔導テロリストと揶揄されていて……手段を選ばないことで……有名ですね……」

「多分リエルもソッチじゃないでしょうか」


 サラッと姫子が述べた。


「何故に?」

「鉄砲百合にルーンバレットを乗せていましたし」

「ルーンバレット……ですか?」


 アリスが俺の疑問を代弁した。前にもチョロッと聞いたな。


「いわゆるルーン魔術の一種ですね。対象に書き込むことで魔術を発露する手段とされております」


 お姉様……と穏やかに姫子は笑った。


「銃弾で?」

「この場合は、既に刻み込まれているルーン文字を、銃弾を媒介として相手に打ち込み発露させる手段です。一般的に魔術戦で直接ルーンを刻むのは現実的でないので、現代科学と折衷して生みだされた奇形的な魔術と言えましょうぞ」

「ルーンバレットな」


 鮎をガジガジ。


「で、リエルがアポクリファ……例外主義なのは分かったが、この場合察するに血百合会とは結合するのか?」

「しません……多分……」

「だろうな」


 話し合いを望むようには見えなかった。何度か顔は突き合わせているも。中々善良とは言い難い人格はしている。だが義に於いてはそれなりに芯の通った御仁だ。別に融和するつもりも無いにしても、あっちが搦め手で来るなら過去の諍いはあまりに無意味だろう。


「で、姫子はどうするんだ?」

「話を聞くだけなら構いませんよ」


 サラリと述べ奉る。


「ではその様に……」


 綾花はまた屋敷の外に出た。どうやらメッセンジャーのようだ。俺ら三人は鮎をガジガジ。串に刺さった鮎の美味しさよ。


「うーん。美味」

「本当に天然で身が締まっていますね」

「こればっかりは本当に」


 ちなみに、


「姫子は指名される意味を分かっているのか」

「既述の如くさっぱり」

「敵か味方かも分からないとなると何だかね」


「お姉様とお兄様は付き合ってくれますか?」

「構いませんけど」


「最悪に備えるのは悪いことじゃないな」

「うん。優しいですお姉様」


 ムニュン。フニュン。アリスのボインが変形した。鮎を食べ終わった姫子がその手で揉みしだいたのだった。


「何をするんです!」

「日課?」


 別に俺は止めもしない。アリスのボインは、たしかに老若男女を問わずに魅了する。姫子も例外ではないと云うだけだ。


「お姉様のおっぱいはあまりに貴すぎます」

「変態」

「まぁ変態ですね」


 いや、言ってしまえば俺に胸を揉ませようとするアリスも、別種の意味で変態だと思うが。たまにワケ分からんプレイを御所望するし。ことに露出プレイと奴隷プレイがアリスはお好みのようだ。


「お姉様さえ命じれば、わたくしはメスブタになれますよ?」

「じゃあ永遠の放置プレイを味わっていてください」


 イジメってレベルじゃねーぞ。


「お姉様在ってのわたくしなので」

「私の身体はヨハネ兄さんのものです」

「だから3――」

「へやっ」


 アリスのチョップが言葉を止めた。うーん。無念。


「一応客の前では自重しろよ」

「えー」


 不満そうな御言葉で。殊に掣肘するのも無粋か。姫子にとっては、たしかにアリスがお姉様なのだろう。リリア~ン。


「さて鬼が出るか蛇が出るか」

「鬼は出ていますよ?」


 …………知ってる。

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