第92話 湯船に浸かって一休み


「ん……ぁ……ダメェ……」


 アリスェ。嬌声嬌声また嬌声。瞬く間に浴場に艶っぽい声が広がった。


「えと……女なのに……なにか感じ入りますね……」

「姫子が惚れるくらいだからな。老若男女に関係なく需要はあるんだろうよ」

「ヨハネも……?」

「さてどうでしょう?」

「だ……ダメ……そこは……」


 ある種の露出プレイ。


「そこは……そこは……ダメって言ってるでしょうが!」


 回転の乗った肘打ち。綺麗に姫子のこめかみに決まった。


「はい終了」


 俺はアリスの胸の谷間から手をどけた。呪詛の取り除きは終わった。その間動けないアリスに色々と姫子が悪戯をしていたのだ。爆乳を揉む程度ならいいんだが、普通に『バキューン』とか『自主規制』とか『掲載禁止用語』とか。エロい。グレートですぜコイツァ……てな感じ。アリスの性欲も発散できて一石二鳥……と言ったら多分アリスに殺される。


「結局何なんだって話だよな」

「お姉様が大好きです」

「正気ですか?」

「罪深さで言えばお姉様の恋も中々のものですけどね」

「うぐぅ」


 ま、そんなわけ。効果的な反論だが、それでも捨てきれないのが恋なわけで。


「お兄様はどう思っていらっしゃるので?」

「さてな、恋を論ずるほど出来た人間でも無い」

「さりげなさを装って逃げないでください」


 とは言われてもな……。


「シスコンと呼ばれて永いが、そもそも俺はアリス以上の美少女を知らない。あるいはアイドルより綺麗なくらいだ」

「わかります!」


 全力で同意する姫子。


「……………………」


 アリスは珍しく赤面していた。


「だから顔基準で行けばたしかにアリスが第一候補だろうよ。ただソレを恋と言って良いのかがわからないだけで」

「シスコンも大概でしょう」

「やっぱりそうなるか?」

「要するに実妹にベタ惚れって話でしょう?」


 うーむ。そう相成るのか。あまり自覚も在ったり無かったり。虫食い問題みたいで明確な結論が出せない状況だ。もしかして俺はアリスをキープしているのだろうか? そんなことを述べてみると、


「ある種そうですね」


 うんうんと姫子が頷いた。


「私は兄さんに抱いて貰えるなら何でもするんですけど。どんなプレイでも選り取り見取りですよ?」

「じゃあ姫子に寝取られるプレイで」

「賛成!」


 コンマで姫子が同意した。


「その場合呪詛が姫子を殺すと思うんですけど」

「あぁ~……」


 別にそこに気が回らなかったわけではないも、なんというか……、


「吸血鬼に呪詛って効くのか?」


 そこが不明だった。


「バッチリと」

「世知辛い世の中だな」

「兄さん以外に私を受け止められる人間は居ませんよ」

「不死身の人間だったら大丈夫なんじゃないか」

「吸血鬼……」


 ポツリと綾花が呟いた。たしかに不死身の代名詞みたいなもんだしな。ただ弱点が心臓って言うが、普通に生命にとっての弱点だろう。


「あと聖歌を聞くと金縛りにあいます」

「中々な因業だな」

「クリスマスなんて滅べば良いのに」


 聖夜は吸血鬼にとり、滅ぶべき悪文化のようだった。俺の場合まだ恋人が居ないので、そこには積極的に賛成を示すも。


「でも兄さんと同じ能力を持って、兄さん以上の優しさを以て、兄さん以上に格好良い男性なんて探しても見つからないんじゃ」


 誰に話をしているお前は。そこまで理想を突き詰めるほど大層な人間じゃないぞ俺は。


「むぅ」


 姫子がアリスの胸を揉み揉み。なんかもう風物詩になっているな。アリスのツッコミまでの華麗な流れ。


「死者すら蘇らせる……にしてはお粗末ですよね……」

「だよなぁ」


 綾花の意見に俺も賛成だった。治癒がその通りなら、アリスは正常に回復するはずだ。俺の嫌いなテーゼの一つに「死の絶対性」がある。死んだ人間は絶対に生き返らない。そんな論法。単純に機械と同じで、壊れた箇所を治し、摩耗した場所を取り替えれば、また正常に動き出すんじゃないかというのが俺の持論。テセウスの船? そんなこと言ったら栄養摂取で肉体を作り替えている時点でパーソナリティは途切れるだろ。そしてソレを可能とする力が……つまり俺の治癒の聖術ではないか? が結論だった。


「そうなると……」

「何か思うところでも」

「ちょっと気に掛かることが。とはいえ此処で軽々に結論も出せませんし」


 チャプンと湯面が波紋を起こした。綾花が姫子に抱きついたのだ。そしてそのアリスにも負けない巨乳をたっぷりと堪能する。


「大きいですねぇ……」

「愛在ればこそです」

「私は無いんですけど」

「いつかきっと気付きます」

「何より……柔らかい……」


 ――普通にお前らかしまし娘で性欲事情は解決するんじゃ無いか?


 俺は風呂の縁に座って蒸気で暖まっていた。しかし暑い季節に為った物だ。雨もそこそこの頻度で降っているし、そりゃ梅雨前線だって云いたいことはあろうな。


「おお……。大質量……」

「綾花は揉み方がエロいです」

「全く以てお前が言うなですね」


 アリス選手大正解。


「で、結局俺はどうすれば良いのよ?」

「私を抱いてください」

「十年後か二十年後で良いならな」


 福本理論。


「わたくしに良い考えがありますよ」


 またそうやってフラグを立てる……。


「4――」「却下」


 それ以上言わせてたまるか。ただでさえ美少女に超の付くかしまし娘だ。色々と誤魔化したら道化を演じていたりもするが、恋に恋する純情少年の地位は返上していない。口が裂けても言わんがな。今日は雨降らじ……か。ところで結界の死袴屋敷も床下浸水とかするのだろうか? ……なんか火事も起きそうに無い安全性をそこはかとなく感じ入る。


「なんかどこまで突き抜けられるか試されている気もするな」

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