第85話 ユッサユッサ


「兄さーん」

「お兄様ー」


 アリスと姫子が飛び跳ねてこっちに手を振った。同時にソレは重力への反逆だ。ビキニ姿の二人はユッサユッサと脂肪の塊を上下させていた。高校生には有り得ない……というとパラドックスだが、超高校級の肉体でもある。ていうか普通のカイデーだ。カイザーだ。


「うーん。おっぱい皇帝……」


 我ながらアホな思惑に絡め取られる。それほどアリスと姫子の乳房は強烈だった。実際に股間を抑える男子生徒まで出る始末。純情少年には刺激が強すぎる。俺か? まぁ慣れているっちゃその通りだな。少なくともアリスの胸元には何度も手を突っ込んでいるわけで。その意味で今更爆乳がどうのは言わんよ。理性の問題にも限界はあるが、アリスに処方して貰う必要も無い。自分のことは自分で処理すべきだろう。


 しばらく水泳の授業を楽しんだ後、自由時間が来る。


「えへへ。どうですか兄さん」

「また大きくなったか?」

「兄さんの愛という如雨露を掛けられては」


 ソレを素で言うお前が凄いな。


「お兄様は爆乳はお嫌いで?」

「大好きな部類に入るな」

「では何故お姉様を?」


 ――蔑ろにするのか……か。


 ユッサユッサと四つの爆乳が揺れる。普通に景観破壊。ついでに俺に押し付けている点で少し醒めた体育教諭の目。女性教諭なので公平な視線は持つだろうが。


「ま、妹だしな」

「それで片が付くので?」

「むしろ他に理由があるか?」

「そう云われると……困ってしまいますね」

「そ~ゆ~ことだ」


 サラリと述べる。


「兄さんは複雑に考えすぎです。このボインを好きにして良いのは兄さんだけですから」

「案外違うようだぞ?」

「それは――?」

「――お姉様!」


 姫子がアリスのボインを揉んだ。鼻から喀血する男子諸氏。うーん。刺激の強い光景だったな。姫子の手がまさぐるようにアリスの巨乳を揉みしだき、変幻自在に形を変える。スクール水着が範囲外であったため、アリスと姫子だけは黒のビキニでプールの授業に参加していた。その恵まれた肢体は、あまりに暴力的。目に毒とは正にこの事。


「お姉様の胸は安心しますね」

「揉まないでください」

「お兄様にも言えますか?」

「むしろ揉んでください」

「じゃあ揉みます」

「貴方じゃありません」


 やんややんや。そんな感じで百合が侵攻。ま、俺に関係なければソレで良いんだが。


「情操教育的に大丈夫か?」


 とも思ったが、教諭の目は虚ろだった。何かしたなら綾花だろうな。離れた場所からサムズアップで返礼された。やはりか。


「あ、お姉様。濡れてます?」

「プールに入っていたのだから当然でしょう」

「わたくしの指も受け入れてください」

「却下」


 ギギギと押しのけるアリス。もっとも単純なフィジカルなら吸血鬼の姫子が圧倒しているも。そこはまぁアリスも分かっているところだろう。コールドフィールドが発現していないということは、少なくとも害性とは認めていない証拠だ。あるいは検閲が掛かっているのか。そこは水掛け論だろう。検閲の働き方にも色々あるようだし、何を基準にするかもわかってはおらず。要するに万物に自然を適応させるとのこと。コレは綾花の受け売り。


「お姉様~」


 ユッサユッサと乳房が揺れる。男子生徒は股間を押さえることに苦慮しているらしい。南無八幡大菩薩。で、当事者の俺は、


「ふむ」


 パシャッと水面を脚で蹴っていた。


「助けて兄さん」

「ま、いいんじゃないか? 違う世界を知るのも」

「私は兄さん一筋です」

「わたくしもお姉様一筋です」

「黙らっしゃい」


 そういうよな。ユッサユッサと揺れる爆乳。うーん。ボルケイノ。


「お兄様は倫理に縛られていますよ?」

「兄さんは変に純情ですから」


 常識的と言え。


「揉んでみませんか?」

「停学になるのは嫌だからな」


 普通に有り得ない。俺はそう云う。


「お姉様の乳房ならわたくしが幾らでも」

「いい加減コールドフィールドを適応させるべきでしょうか」

「止めてやれ」

「兄さんは宜しいので? 私の胸が他人に揉まれて?」

「そこで嫉妬を誘発させるようなことを言うな」


 ビシッとチョップ。ツッコミもキレが無い。いや、疲れるのは確かなんだが……。


「結局泳がなくて良いのか?」

「こんなに大きく育つと水の抵抗も馬鹿になりませんし」

「ですよね~」


 アリスも姫子もそこが肝要らしい。聞かされるコッチの身にもなれ。別に性的に何も感じないわけでも無いんだぞ。


「兄さんは泳がないのですか?」

「ま、恨みも買ってるしな。アリスと姫子……あと綾花以外に心を許せる奴がいない」


 全員が女子で美少女って言うのも何だか変な取り合わせだが。


「リエルは来ますかね?」

「さすがに学内で凶行には及ばないと思うぞ」


 たしかに屋内プールにも窓はあるが。


「狙撃も無理だろ。覗き禁止で場所取ってあるしな」

「兄さんは姫子を生き返らせちゃダメですよ?」

「どうだかなぁ~」


 そこは確約できない。別段、真っ当に生きているつもりだが、捨てられたモノを拾う程度は俺だって良心が軋む。アリスには言わないが。仮にそうなった場合、やはり姫子も呪詛を背負うのだろうか。


「むぅ」

「余計なことを考えるな。呪詛が加速するぞ」

「兄さんが取り除いてくれます」

「あくまで対処療法だがな」


 それもまた事実だ。


「綾花はどう思う?」

「拙は……まぁ……迷惑さえ掛けなければ……」


 事なかれ主義ってコイツのことだよな。いや、似たような思想は俺も持ってはいるんだが。それにしてもアリスの妄念の凄まじさたるや。普通に「有り得ない」の連発だ。


「アリスが嫌なんですか?」

「可愛い妹だ」

「お嫁さんには?」

「ルビーの指輪か?」

「む~」


 こういうところは可愛いんだが。無無明。

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