第82話 湯船の中の


「に、兄さん……っ」


 パイオツ揉み揉み。相も変わらず進歩のない……。妹のおっぱいも日に日に圧を増していく中で、


「ん……あっ……兄さん……」

「何だ?」

「助けて……」


 アリスのパイオツは縦横無尽に万変していた。姫子の手によって。今日は露天風呂ではなく屋内の檜風呂。もちろん全員水着着用。ただそれで性欲が掣肘されるかとなれば……そんなわけはないわけで。脂肪増し増しの身体に悪そうなアリスのボインは、姫子が独占して揉みしだいていた。


「お姉様のおっぱい。はぁはぁ!」


 ちょっと言葉が変態っぽいぞ。行動は変態そのものだが。我が家の妹にも負けないほど、姫子もまた大きい。普通に水着から零れそうなレベル。


「……………………」


 虚しそうに綾花が自分の胸を揉んでいたが、こんなおっぱいお化けどもと比べても、あまり生産性は無いと思うがな。言うは易だが、綾花だってまともに女体を保っている。大きさはこの際論じずとも、抱きたいと想う男子の幾人かは居るだろう。人避けの呪いさえ無ければな。


「お姉様のお胸は大変宜しゅうございます」

「いい加減離してくださいっ」

「それを揉まないなんて勿体ない!」

「揉んで良いのは兄さんだけです!」


 普通に考えて一番ゲッシュを感じるのが俺じゃないか? いやまぁその理屈が一分でも通るなら世界はもうちょっと平和だろうが。


「お姉様……お姉様……お姉様……」

「ちょ……ま……何処触って」


 まぁあっちの世界に行った二人は置いておき、


「綾花は大丈夫か?」


 俺は彼女の方に意識を向けた。


「パイオツコンプレックス……に、ついてですか……?」

「いや、そっちは俺がどうこうできる範疇を超えているな」


 豊胸手術の技も持っていない。


「なんだっけか。威力使徒? 商売敵じゃ無いのか?」

「いわゆる……同業他社ではありますね……」


 同業他社な。たしかにそんな感じか。


「神鳴市は死袴の領域だろ? 幾ら何でもテリトリーの侵害では?」

「そうではあるのですけど……基本的に一神教は……他宗教や魔術を認めておりませんので……」


 異教徒……か。


「なお……吸血鬼の討伐は……協会のレゾンデートルに近い……ですね……」


 異端者な。


「普通に魔術使ってなかったか?」

「パワーイメージの問題です……」


 要するに神秘思想の依って立つところ。


「協会は……聖書の神秘思想を絶対とし……、コレによって起こる魔法を……『奇蹟』と称しています……」

「奇蹟ね」


 たしかに同じ目線で魔術と語れないのは納得も行くが、視野狭窄のそしりも免れないだろう。ま、もとより聖書信奉者はだいたい視野狭窄だが。


「兄さん……助けて……」

「お姉様ぁ」


 あっちの百合っ子は無視の方向で。


「戦うのか?」

「姫子が……害を為さないと分かっている今なら……わざわざ威力使徒に殺させる真似も……しませんよ……」

「アリスも悲しむしな」

「それも……あります……」


 そうなるとやることは威力使徒の説得か?


「不可能だと……思いますよ……」


 普通に思考を読んでくるな。俺が単純なのだろうか? いやまぁ人の機微はあまり感じている方じゃ無いから、表情の読み方で負けただけかも知れないが。基本的に俺にとっての人間はアリスだしな。


「お姉様の肌スベスベですぅ……」


 剣呑というと失礼かもしれないが、なんとなく姫子の言論には危うさを感じる。


「じゃあどうするんだ?」

「殺す……とか……」

「俺的には却下したい処なんだが」

「けれど……協会にとってのヴァンパイアは……アレルギーみたいなところがありまして……。とても……お止しなさいよ……で、通じるお相手でも……ありませんけど……。仕事からの……経験上……」

「お前も吸血鬼とは戦ってきたのか?」

「まぁ……。それなりに……」


 そういえばヴァンパイアインフレーションは一種の魔導災害と言っていたな。


「こちらとしても……第三、第四真祖とは……和合は出来ませんし……」


 しんそ?


「姫子が第二真祖の系列というなら……日光は問題になりませんし……。繁殖も……自重している内は……生命の範疇かと……」

「お優しいな」

「別に全てのモンスターが……理性を持っていないわけでは……ありませんし……」

「姫子とか?」

「姫子とか……」

「そうなると……」


 後は姫子が何処まで暴走するか。あるいはチェックメイトが何処まで暴走するか……か。


「綾花は姫子に血を渡さないのか?」

「機会があれば……ですね……」

「おんなじモン食って飽きないのかね?」

「飽きるでしょうけど……まだ先のことでしょう……」


 ソレも事実か。その場合は綾花も血を吸われるのだろうか?


「俺は?」

「姫子は百合の眷属なので……女子からしか……血は吸いませんよ……」

「女子って言うか……乙女?」

「さいです……」

「百合な」


 サラリとそっちを見やる。


「兄さん助けてくださいよぉ……」

「お姉様の身体は温かいですね。興奮してらっしゃいますか?」

「兄さんにね!」


 多分風呂に入ってるからじゃないか? 野暮なツッコミはしないものの。


「アリスがたじろぐって……結構新鮮かも……」

「あー、普通なら『兄さん以外は全て邪魔』ていどは言うからな」


 つまりそのパーソナルスペースに姫子が踏み込んだわけで。マッターホルンの登頂に達する偉業かもしれなかった。


「だからなんで胸を揉むんですの」

「そこに胸があるからです!」


 ううむ。含蓄のある御言葉。さすがに長生きした吸血鬼は言うことが違うぜ。

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