第80話ガンナー


 放課後の時間。雨は止んでいた。梅雨は過ぎ去っていないが、四六時中雨が降ったら文明は滅ぶ。なので夕方の雨の止み方も情緒在る風情と言えるだろう。そんな中を四人で帰っていた。スーパーに寄って食材を買い込む。今日は湯豆腐らしい。食堂ではなくダイニングでの食事。キノコやら根菜やらを買い込んで、帰路につく。普通に普通の光景。けれども状況は上手くいかないもので。誰かの責任にするかは議論の余地あれど、俺もまた魔に惹かれた人間だ。治癒の聖術。魔法の調べ。


「夕日が綺麗だな」

「月は?」

「そういうネタを挟まなくて良いからな」


 俺とアリスが馬鹿な応酬をしていると、


「ストップ……」


 綾花が声を発した。自発的に……は珍しい。気付けば人は不自然なほどに居なかった。居るのは五人だけ。俺とアリスと綾花と姫子で四人。プラス一。美少女だった。それもすんげー。外国人だろう。白銀に染められた髪を黄昏で反射している。有栖川姫子と同じサファイアの瞳。ただし着衣はちょっと何とも言えない。カソックだ。司祭とかが着ているアレ。一人異色を表わしている御仁。それによる結界なのは……まぁ察してのける。というか他に無いしな。こっちから人避けの結界を張る意味も無い。


「何か御用でしょうか……? 威力使徒……」


 いりょくしと?


「死袴の家系にはご挨拶しておりませなんだ。こちらはヴァンパイアハンター。お察しの如く、威力使徒だ」


 だからソレが何なんだ。


「ここでの鬼の滅し様は……死袴の御家に……一任されております……。ソレを分かって……あえて干渉すると……?」

「そもそもそっちの事情は考慮に値しない」


 不遜。ソレ以外が感情図には載っていなかった。


「名を聞いても……?」

「ガブリエル=チェックメイト。神威装置の威力使徒だ」


「王手のガブリエル」


「然りだな。此処で果てろ。異教の魔術師」


 スッとチェックメイトが背中に手を回して元に戻すと、ごつい銃が構えられた。


「アサルトライフル!?」

「短機関銃の一種だがな」


 一気に銃弾がばらまかれた。俺は姫子を庇うように立ち位置を変える。アリスと綾花は突っ立ったままだ。それで全てが終わった。カチンとトリガーが引かれる。銃弾の欠如。要するに弾切れだ。


「いきなり何をする」


 俺としては一言申したい気分。


「そっちの吸血鬼を引き渡してくれれば問題ないが?」


 まさに自己中心的な発言だった。


「殺すのか?」

「他にあるまいよ」


 どこか見下したような言い方。


「お兄様……」

「大丈夫だ。俺もアリスも見捨てたりはしない」


 クシャッと茶髪を撫でる。こう言うときはアリスへの対応が転売可能だ。


「こんな往来で銃を撃つなよ」

「結界は張って居るからな」

「そう云う問題なのか?」


 俺は綾花に視線を振る。


「えと……まぁ……そういう……」


 そんな感じで良いらしい。それにしてもだな。


「姫子はコッチで預かる。手を引け」

「異教徒の戯れ言を真に受けるとでも?」


 短機関銃がこっちを向く。


「――光あれ――」


 マジックトリガーが引かれた。


鉄砲百合リリィライフル……」

「鉄砲百合?」

「ガブリエル=チェックメイトが持つマジックアイテムです。チャーマーズアクチュエータに分類されるアーティファクトですね」


 考察の程ありがとうございます。アサルトライフル……鉄砲百合が撃たれる。瞬く間に、硝煙が視界を閉ざした。


「俺じゃなかったら死んでるな」

「お兄様は不条理に過ぎます。ルーンバレットすら無効化するとは」


 ルーンバレット?


「で、殺せばいいんですか?」


 案外あっさりとアリスが言ってのけた。


「殺人禁止」

「でも兄さんが狙われていますよ?」


 何の問題がないことをお前は知ってるだろうが……。此処で語るも意味は無いとしても。普通に俺のワンセルリザレクションはあらゆる害性を拒絶する。防御とはまた違う概念だが、その防衛率はフィーバーフィールドやコールドフィールドですら及ばない領域だ。


「――アンチマテリアル。セット。ノーマルエンデッド――」


 チェックメイトの拳銃が形を変えた。言葉だけ聞くなら、対物ライフルに。ズドンと銃撃……砲撃が撃たれる。衝撃までは殺しきれない。姫子を庇って弾かれる俺。


「兄さん!」

「ヨハネ!」

「お兄様!」


 三者三様に心配してくれる。お優しいことだ。


「大丈夫だ」


 物理的には俺に傷は負わせられない。


「死ね」


 対物ライフルをチェックメイトが姫子に向ける。


「待った」


 また俺が庇う。


「どけ。殺されたいか」

「こっちの台詞だと思うがな」


 既にアリスと綾花は殺気立っている。氷水ひょうすい火焔かえん。「敵に回したいならどうぞ」と云った様子だ。ま、気持ちは分かる。仮に逆なら俺もそうしただろう。対物ライフルが放たれる。姫子を庇った俺を、アリスと綾花が庇う。


 コールドフィールドならびにフィーバーフィールド。


 物理事象を完全に無力化せしめる。


「裏切るか死袴!」

「こと神鳴市においては……死袴が鬼の行く末を……決めます……。幾ら一神教でも……通りはしますまい……」

「其処に吸血鬼が居てか?」

「構わない案件……でしょう……」


 ギラリと赤眼を燃やす綾花。ちょっと格好良いかも。白い髪と相まって、神秘性は増し増しだ。フィーバーフィールドも此度の敵には通用能う。


「神威装置を敵に回すか」

「何時でも……受けた立ちますよ……。血桜様も……流血は望むところ……」


 え? そうなのか? タチが悪いな。


「では流血を呼ぼうぞ」


 チェックメイトは鉄砲百合リリィライフルをこっちに向けた。

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