第69話鬼乙女
「お姉様!」
と呼ばれるアリスに引っ付いて、有栖川姫子は死袴屋敷にやってきた。
「いいのか?」
「えと……一人にバレる程度なら……」
とは綾花の言。たしかに検閲は掛かるも、それだけで融通が利かないわけじゃあるまいよ。それにしても破格の待遇だが。元より姫子はアリスを手放すつもりもないらしい。ルンルン気分でアリスの腕に抱きついていた。
「夕餉は良いのか?」
「一人増えたくらいなら……まぁ」
技量能力的な融通は利くんだからな。うちの妹は。
「お姉様が料理を為されるので?」
「兄さんの肉体を構築する上で必要な処置ですね」
実際に俺の肉体はアリスの手料理……そのタンパク質で構成されている。
「お兄様のためですか」
「貴方の兄さんじゃありませんよ?」
「けれどわたくしとお姉様が結婚すれば、お兄様は義兄となるでしょう?」
「青写真が皮算用……」
それな。けれど国によっては同性婚も認可しているところはある。近親婚よりは融通も利くのだから、人類の意思は何処に向かっているのやら。そげなわけで、アリスは有栖川と一緒にキッチンに立った。有栖川も料理が出来るらしく、細々と手伝いを。俺と綾花は茶を飲んでいた。
「普通に招き入れて……都合的にどうなんだ?」
「えと……部屋は余ってますし……」
たしかに死袴屋敷は広い。式神が手入れしなければ幽霊屋敷になっているだろう。ま、ある種の結界の一つなので、迷ひ家の性質は持っているだろうにも。
「それに……何か縁でもあるんでしょう……。ここまで招き入れたことは……偶然なのか……必然なのか……」
「因果……な」
茶を一口。そんなこんなでテレビを見ながら待っていると、食事が出来上がった。製作アリス。監修有栖川。
「有栖川も料理が出来るのか」
「姫子……でいいですよ。あまり堅苦しいのは好まないもので」
じゃあ姫子。
「赤飯に白和え。刺身コンニャクとアサリの味噌汁か」
死袴屋敷に来てからというもの、健康的な食事が続いていた。
「それで姫子は洞穴高校に編入するんですか?」
「大丈夫なはずです」
「何を根拠に?」
「外見年齢は高校生相応なので」
なんだか引っかかる言い方だな。
「…………」
綾花の方は黙々と食事を取っていた。基本的に魔法関連はコイツの管轄なんだが……。口を挟まないなら別案件なのか。単に怠惰である可能性も否定は出来んが。
「学力も相応持ってますし」
「はあ」
ぼんやりとアリス。御本人主席ながら、勉強の意義をあまり見出していない。出来る事を出来るようになる。努力家として本質だ。教養は、ある種の民度と正比例するので、システム教育は受けて損が無いとも言えるだろう。赤飯をアグリ。
「なので突貫で物事を進めます」
「ちなみに年はお幾つで?」
「数えておりません」
だいたい本質が分かってきたな。
「鬼か。お前」
「ええ。此処ではそう呼ばれますね」
「綾花は気付いていたのか?」
「いいえ……」
そりゃまぁ魔眼でも持っていなければ、見るだけで判別は不可能だろうが。なるほど死袴屋敷に難なく招かれるわけだ。それにしたって鬼がな。こうまで出会うとちょっと何と申すべきか。
「なので暗示を掛けたり、結界を張ったりはお手の物です! 即日お姉様のクラスメイトになれますよ!」
やっぱり魔法業界ってマフィアよりタチ悪いな。なんかもう一般人の自由意志って尊重されてないんじゃないか? 少しそう思った。
「まぁ別にソレを為したいと申すなら私から云うことはありませんけど……」
「多謝!」
ほころんだ姫子の笑顔。滅茶苦茶可愛い。イタリア美人の蒼眼は、柔和に細められて、けれど全く嫌味ではなかった。
「……………………」
アサリの味噌汁を飲む。うむ。味が染みて良い一品。
「兄さんの味噌汁は毎日私が作りますからね?」
「有り難いよ」
実際美味いしな。
「お姉様は本当にお兄様が大好きなんですね」
「愛しの兄さんですもの」
あーはいはい。兄さん呼ばわりもアレだが、お兄様呼ばわりも心に来るな。もちろんあくまでアリス有りきではあろうにも。
「結局日本国籍なのか?」
「日本人ですよ? ちょっと別の血は混じっておりますけども」
おおよそ俺らと同じ都合か。
「ということは……後天的な……鬼で……?」
あ。
「です。ちょっと色々あり申して」
鮮やかに姫子は口にする。刺身コンニャクが美味しい。
「と……なると……」
「まぁそうですよね」
二人だけで納得していた。何なんだ?
「兄さん!」
「へぇへ」
「お風呂は何時にします?」
「食事を終えたら即時だな」
「せめて皿洗いが終わるまで待ってくださいませんか?」
構わんが……懲りないねお前も。
「お姉様はお兄様と一緒に入浴されていらっしゃるので?」
「ええ。兄さんは私の嫁ですから」
「嫁……」
ボンヤリと姫子の歌う。
「ま、そんなわけで混浴も普通だな」
「わたくしもお供しても?」
「それはアリスに聞いてくれ」
「お姉様?」
「兄さんを惑わせないなら構いませんよ」
いや、それは無理がある。昼の時分には黙秘したが、姫子の肉体の熟れ方はアリスに匹敵していた。簡素な衣装を押し上げる双子山は、立派と評してまだ足りぬ。どこか超然としたプレッシャーすら放っていた。なるほどナンパに合うわけだ。普通に乙女として完成されているのだから。これが鬼だからなのか。あるいは鬼になる前からこうだったのか。そこまでは流石に察してやれない。
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