第67話胸囲的な誤算


「は? 無い?」


 誤算とはこの事。昼休みは学食。前半にちょっとしたことがあり、後半で昼食をとっていた。綾花はいつも通りの石焼き麻婆豆腐。


「その……はい……」


 無いらしい。何か、と問われれば水着が。一応学生向けのスクール水着……競泳水着に近いデザインだが、ともあれ水着は用意されており、各々のサイズに合った水着を購入……と言う形を取る。男子の場合は然程でも無い。問題は女子で、アリスがおっぱいお化けであることに起因する。肥満体質用の水着も在りはしたが、今度は腰回りやお尻が合わないのだという。


「で、どうなった?」

「特例として水着の自己購入を促されました」

「うーむ。ボインの業の深いこと」

「流石にコレは予期できませんでしたね」

「アリスが悪いわけじゃないがな」


 そこは違えない。


「一応黒や紺の色でデザインが入ってなければツーピースでも構わないとお達しです」

「で? 水着選びに付き合えと?」

「流石兄さん。以心伝心」

「綾花じゃダメなのか? 女子の感性なんて分からんぞ」

「兄さんがエッチだと思う水着を着たいです」

「その場合……十数倍に匹敵する男子どものエロ視線に晒されるんだが、覚悟は完了しているだろうな?」

「あー」


 登校時もこんな話してなかったか?


「ま、黒のビキニで良いんじゃないか?」

「そう相成りますよね」

「えと……どうやったらそんなに……おっぱいが大きくなるの……?」

「兄さんへの愛です」

「にゃふ……」

「アリスの妄言をまともに受け止めていると病気になるぞ」

「にゃは……」

「兄さんは失礼さんです」

「だいたいながら、悟ってもいるもので」


 塩ラーメンをズビビと手繰る。にしても水着の合う合わないは、考慮になかったな。普通に買って終わり……な気はしたし。にしても水着か。


「ん? 風呂で使ってる水着が在るんじゃ無いか?」

「アレは兄さん用です」

「先の自分の発言を思い返せ」

「際どいでしょう?」

「まぁな」

「エロいでしょう?」

「まぁな」

「おにんにんがビッグになるでしょう?」

「さてな」

「兄さ~ん……」


 付き合ってられるか。ズビビ。とりあえず新しい水着が要る事は分かった。であればデートついでに買うか。綾花も巻き込んでしまえ……だな。


「えと……。何か不埒なこと……考えてます……?」

「デートしようって話だ」

「兄さん?」

「もちろんアリスとのな。とはいえ綾花とだって仲良くは為りたいぞ?」

「えと……あう……」


 赤面する純情さよ。綾花は男に慣れていないらしい。良い事ではある。


「ついでに混浴用の水着も新調しましょう」

「ネタには奔るなよ」

「……………………」


 そこで沈黙するなよ。V字型とかヒモ系とか想像しちまうだろ。思春期男子には強烈なボディブロー。我が家の妹はどれだけエロいんだ。


「ビキニは必須……ですか……?」

「ここまでスリーサイズに上下があると流石に……ですね」


 ワンピースではどうにもならんと。おかげで学校側も特例を認めたわけだ。


「業の深いこと」

「愛が深いんです」

「例えば?」

「兄さんを想って揉み揉みすれば幾らでも大きくなると申しますか」

「食事中」

「これは失礼をば」


 本気で言うからアリスは侮りがたい。


「ていうか……」


 とは綾花。どこか胡乱げな瞳だ。


「こんな日常で……よくヨハネは……理性を……保てますね……」


 それね。それな。


「案外俺だって苦労はしてる。努力はしていないが」


 努力は基本的にアリスの分野だ。昨夜も遅くまで英語を勉強していたし。俺は何もしていない。アリスが俺より成績の良い証だ。白鳥の水かき。


「それで……アリスを……?」

「蔑ろにはしているな」

「兄さ~ん……」

「寄るな」


 隣のアリスのおでこを押さえる。綾花は石焼き麻婆豆腐。


「でもこのおっぱいですよ」

「揉んでも揉んでも縮まらないよな」

「乙女の幸福が詰まっております由!」


 黙っとれ。


「てなわけで週末はデートな」

「宜しいので……」

「アリスと二人だけの時間なんて無限に作れるしな」

「一回一回が貴重なんですけど……」


 半眼のアリス。スルーの方向で。寝食を共にと言えば誤解を招くかも知れないが、正に字面通りの生活をしているわけで。その意味で、アリスは俺に最も近い人間だ。善し悪しを語る場では無いにしても、死袴との意思疎通も重要だろう。綾花が今のところ唯一だが、それにしたって破滅的な能力と知識は何かしらのヒントに成り得る……と期待している。


「驚異的な誤算だな」

「胸囲的な……」


 綾花がフニフニと自分の物を揉んだ。一応ソレなりにはあるのだ。モデル体型とでも言うのか。服を着せるのに理想的な身体をしている。


「揉んで確かめますか?」

「俺を社会的に殺す気か?」


 観柱兄妹のやり取りは何時もの様に何時もの如し。まるで成長していない。


「観柱兄妹……らしいですけどね……」


 そんなキャラ付けは要らんよ。ホンマに。


「さあ。揉んでください」

「また水着に修正が加わるから嫌だ」

「質量増大……」

「むぅ。やはし下品でしょうか? 兄さんはお嫌いで?」


 大好きです……と言えればハッピーエンドと背中合わせのバッドエンドになるな。


「個性を否定するほど狭量ではないつもりだ。人にも色々あるだろ」


 そんなものが詭弁だとは知っていても。なんだかね。

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