第65話決着


「結局古洞さんに振り回された形になりましたね」

「しょうがないな。アレでアイツも苦労人だ」


 死袴屋敷でのこと。露天風呂に浸かりながら俺とアリスは顛末を話し合っていた。


「土蜘蛛の方が本命だったのでしょう?」

「さもありなん」


 もともと神鳴市に現われた鬼の横柄を掣肘するのが綾花の役目だ。そうやって秩序を保ってきたのだろう。たしかに純粋な鬼は常識に対して脅威となる。その不条理性は俺やアリスの知るところ。実際にアリスは殺されてるしな。


「古洞さんの方はどうしてフォローしたんですか?」


 あ、所謂「ジト目」にアリスが為っている。嫉妬も可愛いが、ここで攻めんでも。


「別に理由は無いが、あえて言うなら心理的な安寧のためだな」

「助けたかった……と?」

「噛み砕けばそうなる」

「兄さんは苦労性です。そして優しすぎます。兄さんが優しくすべきは三千世界で私だけです。なんで鬼なんかに関わるんですか」

「心配してくれるんだな」

「せざるを得ませんよ。兄さんの無鉄砲さは目に余ります」

「一応安全マージンは取っているんだが」

「そんなこと言ったらハルマゲドンが起きても兄さんは苦労しそうです」

「かもな」

「笑い事じゃありません。兄さんもしもがあれば、神鳴市は呪詛に沈みますよ?」

「別に良いんじゃないか。その結果がもたらされるなら、それはつまり事実だろう」

「別に私も兄さんの居ない世界には興味もありませんけども」

「ま、要するに自重しろって事だろうが、基本的に俺とアリスは綾花側だ。普通に今までも鬼に関わってきたろ?」

「そーですけどー」


 不満げなアリス。ヨハネとしてどう対処すべきか。少しの懸念。


「結局私がどうにかすべきですか」

「どうにか出来るのか?」

「ま、それなりに」


 どこか確信めいた言葉だった。


「もしや魔術を覚えたんじゃなかろうな?」

「その通りですが何か?」


 魔力の入力を必要としないアリスの技能。その根幹が那辺にあるかは考えないとしても、あまり推奨できる能力でも無い。


「壊れるなよ?」

「最初から壊れている様なモノですし」


 それは……まぁそうだな。たしかに俺たちは壊れている。常識に普遍を置かない……の意味で突出してはいた。あるいはソレはアリスを救ったが故のモノだったろうか。


「結局、古洞さんはああやって決着を付けるしかありませんでしたし」

「ソレが分かってるならイチャモンを付けるな」

「無理です」


 無理か。


「さてそうなると。後は本人次第だな」

「ええ。兄さんが関わって良いのはここまでです」


 お前の理屈も大概だがな。


「じゃあ兄さん」


 へぇへ。


「エッチしましょう」

「どうしてもソッチに持っていきたいらしいな」


 ブラコンにしても行きすぎている。ブラジャーコンディション……じゃない……ブラザーコンプレックス。「兄さん大好き」の根幹だ。


「責任が取れないので却下」

「兄さんだって私が好きなくせに……」

「ビコーズアイラビュー」

「私よりおっぱいの大きな女子は洞穴高校には居ませんよ?」


 そこの有無を語られてもな。いやたしかにアリスのバインボインは既に商業レベルだが。


「兄さんにだけ。揉みしだく権利を与えます」

「破滅的なお誘いをありがとう」

「何度か揉んでいるでしょう?」

「柔らかかったなぁ。アレは」

「何時でもいいんですよ? なんなら学内でも授業中でも」

「俺が刺される」

「さっき安全マージンについて語ってはいませなんだ?」

「気のせいだろ」


 サラリと嘘を吐く。もちろん避けられるとは思っていない。こと論弁に於いては、アリスは強い。あくまで俺に関連するならば……ではあるも。


「というわけでエイ」


 愛妹は俺の手を取ってパイオツに押し付ける。ムニュムニュ。プヨプヨ。ふにゃん。とてもこの世のモノとは思えない至福。柔らかさは脂肪と分かっても、ロマンスが乗る。普通に人を堕落せしめる何かがあった。


 揉み。揉み揉み。揉み揉み揉み。


「うーん。デリシャス」

「あはぁ。兄さん……」


 救い難いよな。お互いにさ。その柔らかさを感じ取りながら、麻薬に似た酩酊感を味わう。理性が萎えて、本能が蠢く。けれどもう一人の俺は沈黙を守った。


 付き合ってられるか。


「兄さんは淡泊です」

「アリスは情熱的過ぎるがな」

「でも揉んでくださるのですね」


 別に性欲がないわけでもない。俺だって人並みには俗人だ。そして俗だからこそ、愛妹と一線を越えられないわけで。それにしたって……。揉み揉み。ふうむ。この張りと柔らかさの両立性は。


「えへへ」


 アリスはこっちに撓垂れかかった。俺の理性にも限度がある事を知っているのかコイツは? いや、ポンコツながら今まで我慢に徹しては来た物の。


「六月からはプールですね」

「ああ。屋内プールがあるらしいな」


 しかも温水プール。雨の日でも安全安心。


「一緒に泳ぎましょうね?」

「さすがに男女は別れるはずだが……」


 俺たちだって性を意識する年齢だ。プールも男女別でファイナルアンサー。とはいえアリスの巨乳は目立つだろうな。ブレザー姿でも押し上げる質量だ。水着となればどれだけの破壊力を見せるやら。戦慄とは正にコレのこと。揉み揉み。フニュン。


「で、兄さんはクラスメイトの前で私とイチャイチャ」

「宗教裁判に掛けられるな」


 其処は違いもなかった。立場が逆なら俺でもそうする。アリスの巨乳は文化遺産だ。保護を努めなくてはならない。であれば胸を揉むのも文化維持には必要だ。揉めば揉むほど大きくなる。その内地球を埋め尽くすだろう。


「とまぁ冗談はさておいて。学校ではいつもの通りに頼むぞ?」

「兄さんとのイチャイチャは?」

「既にしている気もするがな」


 何せ俺はアリスの嫁だし。


「兄さんは私の嫁ですしね」

「昨今のアニメで嫁は出来なかったか?」

「兄さんが格好良すぎるので」


 顔だけ男だしな。


「普通に良い人なのが兄さんの欠点です」

「さほど善人のつもりもないが?」

「でしょうね。自覚が無いのも困りもの」


 ――俺が何したよ?


「だから好きなんですけど」


 緑の最中。川の流れ。露天風呂に浸かりながら、アリスはポソリとそう言った。

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