第61話石焼き麻婆豆腐


「ハムリ……」

「よく飽きないな」


 どうやら綾花は学食の石焼き麻婆豆腐を気に入ったらしかった。辛さは選べるが日によって違う。激辛すらも美味しそうに食う姿は、在る意味で魔法以上に魔法だ。一口食べて、俺はギブアップ。けどカプサイシンって脂肪を燃やしてくれるんだったか?


「で、結局終わった……でいいのか?」

「えと……鬼を退治した……という意味では……そうですね……」


 真っ赤なタレと白い豆腐を一度に食べる。家では質素で繊細な食事を取っているくせに。


「じゃあ後は私と兄さんがイチャイチャすれば解決ですね」

「そ~ゆ~ことを言わない」


 学食での視線が、こっちに一斉に刺さる。隅っこに座っているも、やはり華やかなりしはアリスの業で、金色の髪は陽光を反射して鮮やかに輝く。視線を集めるも致し方なし……か。一応俺はアリスの嫁なので、男子どもの掣肘はしていた。というかそもそもアリスにとって俺以外の異性は歩く障害物だ。ま、御本人が満足ならとやかく言うまいよ。……愚痴は別問題だが。


「しかし工藤さんの鬼か」

「鬼は元々死者を指す言葉ですし」

「死者……ね」


 たしかに在る意味で、俺ら兄妹も他人事ではない。


「兄さんが生き返らせれば万事解決?」

「呪詛持ちが増えて良いのか?」

「あー……無理臭いです……」


 そう云うよな。アリスの意見は真っ当だ。俺としてもアリス以外に治癒を発露させるのは徒労である。まぁ綾花くらいならフォローも出来るが。


「兄さんが揉んで良いおっぱいは私のモノだけですし」

「お前様はほんにポンコツな」


 ちなみに谷間に手を突っ込んでいるだけで、揉んではいない。セクハラと訴えられれば、論弁の拠り所も無いものだが。


「ふぅむ」


 ユサッと机に巨乳が置かれる。


「肩こらないか?」

「凄くこります」


 質量体としても結構な量だ。普通に芸術の域に達している。


「あは。兄さんがじっと見てる」

「視姦が嫌なら取り止めるが?」

「もっと見てください。ここで脱ぎましょうか?」

「その場合、俺以外にもアリスのパイオツが晒されるので却下」

「独占欲ですか?」

「解釈の都合はそっちに任せる」

「えへへ」


 はにかむ妹よ。


「えと……その……」

「どうした?」


 綾花は何か言いにくそうだった。オロオロとしており、目は泳いでいる。鬼に対しては颯爽な感じだが、対人コミュニケーションには難がある人物だ。人避けの呪いもあるしな。


「何時も……こんな感じで……?」

「だいたいアリスが暴走する」

「ヨハネ兄さんがヘタレなだけです」

「とはいえなぁ」


 両親から妹を預かっている身で、責任問題も発生するんだよ。


「でも……一緒に寝てます……よね……」

「俺の子守歌がないと、コイツは寝れないから」

「兄さんとなら三千世界の鴉を殺してもいいんですよ?」

「疲れるから嫌だ」

「兄さんに限って疲れるってことがあるんですか?」


 揚げ足を取るな。


「えと……絶倫で……?」

「それを聞くか普通」


 半眼で綾花を睨みやる。いや、さすがにローテーションはございますので、絶倫には当てはまり申しません由。別に賢者タイムは治癒に関連しないしな。ユーリンチーをハムリ。


「これからも鬼は出るんだろ?」

「そうですね……」

「血桜……か」

「えと……」


 困惑の表情。されど其処には圧縮された宝石の様な瞳があった。麻婆豆腐。


「死袴としては神鳴市の秩序維持に動くんだろ?」

「一応……霊地の管理者ですので……」

「警察とかは?」

「時折連携はします……。国家的には……上の方にも承認は得ていますし……」

「国庫で運営されてるって話だったな。そういえば」

「ええ……」

「当主がどうのって言ってなかったか?」


 少し前の話だ。


「死袴の御当主様ですね……。ちょっと今は……」


 何か理由があるらしい。ならツッコむまいよ。


「で、兄さんは当主に何の御用が?」


 嫉妬の眼で睨み付ける愛妹。こいつは分かっていて空気を読まないから厄介だ。


「別に御両親にご挨拶ってワケでもないが、間借りしてんだ。礼節は必要だろう」

「それだけですか?」

「ま、綾花とは結婚できるしな」

「兄さん!」


 バンと机を叩いて立ち上がる。


「「「「「――――――――」」」」」


 一斉に視線がこっちに刺さった。アリスの激昂は……まぁ注目にも値はするだろう。


「皆様方が驚かれ申し上げておりますが?」

「失礼をば」


 ばつが悪そうにアリスは椅子に座った。


「でも」


 と声を潜めて。


「私の方がおっぱい大きいですよ?」

「その勝利がなんのトロフィーをくれるんだよ?」

「乙女の純情」

「ほう。おっぱい揉まれて興奮する者を乙女と呼ぶか?」

「女の子だってエッチに興味津々です」

「そこを何とか方向性を変えてくれんかね?」

「無理です」


 鮮やかにして爽やかな、それは拒絶。だがその純性は否定能わず。たしかに恋する乙女のソレではあった。全く以て業の深い。ぶっちゃけると、普通に何だかなって話で。


「に・い・さ・ん?」


 ユサッと大質量が揺れた。


「私は何時でもウェルカムですからね」

「問題は……」

「血は関係ありませんよ」

「出血を呼んだことだよな」

「まさか処女を抱いたんですか?」

「話が食い違ってるぞ」


 俺が述べたいのは古洞さんのことだ。ついでに工藤さん。

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