第56話温泉での折に


「兄さん兄さん!」


 ブルンブルン。アリスのおっぱいが変幻自在に震えた。一応ビキニ姿ではある。なのに巨乳の域を超えているも、その形は崩れていない。まるで奇蹟の一品だ。ミケランジェロでも再現は出来まいよ。


「お風呂です!」

「風呂だな」


 トランクス型の海パンを穿いて、俺は温泉に浸かっていた。


「うわ。こうやって見ると圧巻だね」


 土蜘蛛の件が終わるまでは、古洞さんも保護対象として死袴屋敷に在住する様になった。その上で混浴なわけだが、アリスの怪物性には同じ女性として一線を画す何かを見出したらしい。何かも何もおっぱいなのだが。


「えと……」


 自分の胸をフニフニと揉む綾花。バストコンプレックス。


「気にするこっちゃないぞ? あいつは人間以外の何かと思えばいい」

「どういう意味です兄さん!」


 ガルル。アリスが吠えた。


「どうしても理解できないなら、言葉にするがソレでも良いのか?」

「ぐ……」


 まぁそうなるよな。


 別段コッチも喧嘩を売ろうとは思っていない。


「えへへぇ。に・い・さ・ん? このパイオツを好きにして良いんですよ?」

「じゃあ放っておくのも好きにする」

「放置プレイ?」


 何処で覚えたそんな言葉? さすがにネットワーク社会はアリスを侵食しているらしい。


「観柱くんは、観柱さんと寝たの?」

「寝てはいない。ネタにはされたが」

「何か理由が?」

「妹だしな」

「エロゲーなら萌え属性ですよ!」

「血が繋がっていなければな」


 ほふ、と温泉の熱量を吐息に変えて夜空に吐き出す。


「えと……ヨハネは……どうやって……精神を律してるの……?」


 綾花にも分からないらしい。ちなみに綾花と古洞さんもビキニ姿だ。


「単純に普遍的に物事を見ているだけなんだが」

「えと……仙人……みたいな……?」

「枯れているって意味ではそうかもな」


 別段驚くには値しない。


「ヨハネは……不思議です……」

「結構なことで」


 他に言い様もあるまいよ。


「兄さん兄さん! ボインを揉んでください!」

「こうなるんだから是非もない」


『張り』と『柔らかさ』と『大きさ』の南無三宝。


「しかしこうやって毎日温泉に入っているとアリスの肌つやは高次元を維持するな」

「えと……幾らでも……使ってくださって……いいので……」

「そうさせてもらう」

「観柱くんは何時もこんな感じ?」

「まぁ概ね」


 愛妹に翻弄され、綾花に呆れられる。そんな感じだな。


「マジでハーレム系?」

「お前は自分を何だと思ってるんだ?」

「いや……その……あはは……」

「ちなみに俺に惚れたらアリスに殺されるからな?」

「殺すの?」

「ええ。間違いなく」


 サラリとアリスは述べた。


「ヨハネは……えと……それを許すの……?」

「怒りはするが、最終的に許すだろうな」


 別段、今更他者が死んでも心に残る物は無い。


「うわ……本気っぽい……」


 何故本気ではないと思ったのか……。


「ま、その内アリスを娶る人間が現われるさ。俺はソレまでに貞淑を教えるだけだ」

「私、淫乱でしてよ?」

「俺限定でな」

「妹萌えは昔から在ります!」

「知ってるがソレとコレとは違いがあるだろ」


 空想と現実。叶わないからこそ夢が有るのだ。


「兄さんはヘタレすぎますよぅ!」

「言われ尽くしてきたわ。そんな発言」


 実際に何度もアリスに言われた。そしてその通りでもあった。俺はヘタレだ。愛する愛妹すらも抱けない。なのに手放したくないのは何に起因する感情なんだかな。それが分かれば勝ったも同然なのだが、生憎と唯々諾々に認めるほど可愛い性格を俺は所持してはあらざりし。別段必要な覚悟でないのも一つの側面だろう。


「しかし温泉の気持ちよいことよ」

「えと……気に入りましたか……?」

「贅沢だよな」

「冬になれば……雪見風呂が味わえますよ……?」

「ではそれまでは厄介になろう」

「あは……」


 はにかむ様に綾花の笑う。


「普通に観柱くんって乙女キラー?」

「不名誉な」

「でもさぁ。観柱さんベタ惚れじゃない?」

「頭のネジが緩んでるからな」

「おかげで困惑無く兄さんを愛せるので、困ることはありませんけれど」

「と、まぁ、こんな感じの愚妹ですな」

「観柱くんはそれでいいの?」

「いつも通りの壊れっぷりに何を申せと?」


 ポストに「赤いですね」と言うくらい普遍的なことだ。意味がないとも言う。


「おっぱい大きいし」


 それもあるな。


「ガチでそんな感じ?」

「ま、人生色々だな。男や女だって色々だ。平均に寄せられるならソレに越したことはないが、そもそも俺とアリスはその境界線を踏み越えている」

「鬼ってこと?」

「それもある。実際俺だって鬼の一種だ。この不死性はどう考えても有り得ない。ま、だからこそ古洞さんの言い訳に使えるワケなんだが」


 はふ、と吐息をつく。温泉に温められて、体がジンワリ緩くなる。コレだけでもご褒美だ。死袴屋敷は、極楽と言える。


「私は……っ」

「死にたいも消えたいも無しだぞ」

「では工藤さんは救われない」

「元から救う価値も無いだろ。鬼……なんだから」

「それでも……私は……っ!」


 気持ちは分かるがな。俺もアリスを救えなかった。目の前の死に意識が奪われて看取ってしまった。事後的にフォローは出来たが、呪詛を纏わせたのは俺の罪だ。南無八宝。

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