意図と糸
第31話いい加減慣れた頃合い
「兄さん!」
「却下」
「何故ですかーっ!」
何故も何も……。
「普通に校則違反」
フッ……と俺はアリスの胸元から手を除く。呪詛が溜まっていたので。それを浄化していたのだ。そうでもしなければ、この街は呪いに沈む。普通に考えて、スルーできる事柄ではなかった。
「単に兄さんとエッチしたいだけです」
――俺もしたいがな!
そこはまぁ良心的な理由で口には出さない。ぶっちゃけアリスが俺を求めるように、俺もアリスを求めている。此処で言うと、アリスが暴走特急となるため……あえて黙秘を貫くも、アリスの存在にはほとほと困らせられている。
普通に巨乳だったはずなのに、まだしも成長し、爆乳の域に指を掛ける有様だ。下着も相応に選ぶしかなく、無粋ながら俺も付き合わされた。
その点で言えば俺も罪深いかもしれない。
「此処で……やるべきことですか……?」
魔術研究会。その会長。
「えと……普通に有り得ない……ですよね……?」
「そうですね~」
他に述べようもなかった。
「兄さん!」
「嫌な予感がするけど発言を許しましょうぞ」
「他人に見られながらの露出プレイは――」
「てい」
ドロップキックをかます。まこと鮮やかに決まった。
「げふぁ!」
乙女あるまじき悲鳴でアリスが吹っ飛ぶ。俺は着衣の乱れを直す。
「えと……何時もこんな感じ……ですか……?」
「だいたいね」
否定できないのが物悲しい。けれどうちの妹はこの程度で参るほどヤワな作りにはなっていなかった。そも諦めていないから今の状況があるわけで。
「諦めましたよ」
「どう諦めた?」
「諦めきれぬと諦めた」
つまりそゆこと。偏頭痛すら幻覚してしまうほどの疲労が俺を襲う。嫌いじゃない。むしろ積極的に好きだ。本人には言ってやらないんだけど。
「それを此処で……行なう必要は……?」
「全く無いな」
ホッと茶を飲む。
「そーですかー……」
うとうと。
「眠そうだな」
「睡眠不足です……」
「夜更かしは肌の天敵だぞ?」
「ですよ?」
こっちに抱きつこうとしながら、俺が手で差し押さえているアリスまで同調した。こいつには悩みはないのだろうか? 人以上の悩みを持っていながら、ソレを感じさせないのは、むしろ「さすが」と評すべきか。
「昨今呪詛が具現化しておりまして」
正体がバレてからと言うもの、綾花はオカルト事情を俺らに隠さなくなっていた。
「呪詛って……」
アリスと俺が、アリスの胸を見る。
「いやん」
「セクハラではあるな」
「揉みますか?」
「で、呪詛ってコイツか?」
「スルーしないでくださいよ~」
ちょっと黙ってろい。
「いえ……。そちらの事情は知っていますけど……ヨハネの処置は適確ですよ……」
「いやん」
「元が霊地なので……珍しくないんです……。呪詛が溜まって……鬼が生まれることは……」
あー。そんなことを言ってたっけな。
「鬼……」
「えと……何度か見かけたのでしょう……?」
「だぁな」
そもそもアリスだって鬼に殺されている。その点を鑑みても、たしかに異常ではあった。ここ神鳴市。大鬼……血桜の封印されている土地。
「関係あるのか?」
「点と点を……線で結べる程度には……」
つまりその通りと。
「死袴の血統は……そもそも呪詛の取り扱いを専門としますので……」
「魔術とは違うのか?」
「えと……本質的には一緒ですよ……。要するに……エネルギー保存則の破綻だということには……変わりがありませんし……」
「私もソレなんですか?」
「何の因果も無しに……人を不幸に陥れるなら……それだけで因果律の破綻でしょう……」
「にゃむさん」
あうー。アリスは頭を抱えて悩み出した。別に俺が居るから大丈夫だと思うんだが……。ここで述べると面倒くさそうなので、言葉には具現しないも。
「鬼を追いながら高校にも通ってるのか」
「式神で……どうにかこうにか……」
「それもなるほどだ」
「血桜は死を欲しますので……」
「此度の鬼は?」
「まだ分かっていませんけど……」
茶を飲んでホッと。
「ジャック・ザ・リッパーかもしれませんね……」
「切り裂き魔……ですか?」
キョトンとアリス。俺も同様だ。
「警察発表は為されていませんので……一般人は知りませんよ……。けれども仏さんは……ズタズタに切りさかれた様で……」
「それでリッパー」
「おそらく……ですけどね……」
茶をゴクリ。
「結局は灼くのか?」
「他に対処も……知りませんし……」
「俺が手伝えるなら良いんだが」
「兄さんに危ない目にあって欲しくないです!」
アリスがやんややんやと騒ぎ出した。コイツは……。俺の異能を知っているだろうに。普通に考えて、俺に限り不覚はない。ワンセルリザレクション。超常的絶対防御が俺の異能……聖術か……の切り札でもあったのだ。
「何とかしますよ……大丈夫なはずです……」
綾花も気乗りしないようだ。慮られているのか。あるいは低く見られているのか。どちらにせよ不本意には相違なかった。なんだかなぁ。
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