第27話世界保存


 結局のところ。疑問は其処に集約するわけで。


「聖術って何ぞ?」


 そう相成る。名前だけはチラホラ。俺の超能力を指すのは……まぁわかる。魔法でありながら魔術でない。聖術。その如何がなんなのか? 基礎命題も構築できていない。


「えと……その話をするには……アークと呼ばれる存在から……話さねばなりません……」

「「アーク」」


 観柱兄妹揃って異口同音に。


「んーと……ぶっちゃければ……神様みたいなものなんですけど……」

「この霊地……神鳴市の血桜みたいにか?」

「血桜様は……ちょっと……その……」


 ――何か? 突っついちゃいけない案件なのか? いや確かに死袴家が管理しているらしいが。そもそもこの土地そのものに封印されているってだけで、なにやらスケールが大きいんだが……それはともあれ。


「アークは……その……宇宙を管理しているんです……」


 ほほう。


「陰謀論めいてきましたね」


 俺があえて口にしなかったことを、アリスはあっさり言いやがった。


「魔術の延長線上に存在する……演算補助の存在があるので……あながち虚構というわけでも……ないんですけどね……。そこは置いておき……、とりあえずアークと呼ばれる装置が……宇宙を管理している……と取って貰えれば……」


 いっぱい喋って、コクリとお冷やを飲む。


「別名ワールドバックアップ……。宇宙を記録演算する……系の外の装置です……」


 ワールドバックアップと来たか。宇宙の運営に一枚噛んでいるのも頷ける。それってつまり神様以上にタチが悪い存在じゃないか? あらゆる宇宙を演算し記録するなら、それだけで膨大な情報だ。


「そう……です……」


 控えめに綾花は頷いた。どこか遠慮がち。というか自分でも胡散臭いと自覚しているのだろう。その辺の心のブレーキは、乙女にとり愛らしい。


「兄さん?」


 いかん。バレた。とはいえコレばっかりは男の性でなぁ。


「私のおっぱいを揉んで正気に返ってください」

「お前のおっぱいを揉むと狂気に変わってしまう」

「おっぱい……」


 照れる綾花でした。ぐうかわ。


「それでワールドバックアップが宇宙を記録し続けて何だ?」

「その演算能力を……一部借り受けて……出力する技術を……聖術と呼ぶんですよ……」

「えーと、つまり、何だってばよ」


 要するに聖術も魔法には違いない。ちょう熱力学第一法則。これを端的に述べて魔法。そこから魔法に則って行なう技術を魔術や聖術と呼ぶ。魔術は魔術師がパワーイメージに沿って世界を塗り替える。魔力の入力と演算を用いて。であれば聖術は? アーク……ワールドバックアップから『魔力の入力と演算』を肩代わりしてもらい、出力だけを抽出する――、


「で、いいのか?」

「百点です……」


 つまり本質的に魔術と差異はないが、出力までの過程が違うと。


「もうちょっと言えば……聖術は一点特化なんです……」

「一点特化……」

「ヨハネの治癒なんか……正にソレですよね……他に何をするでも無い……」


 言われてみればその通り。


「アークとリンクすることで……リンクした情報を……無制限の精度で扱える……。その代わり……リンクした項目以上の事が……出来ない……。これが聖術の欠点ですね……」

「つまり俺はアークの『治癒』って項目とリンクしているのか?」

「そう相成ります……」


 またお冷やをコクリ。


「まぁ兄さんの凄さは私とて知っているつもりですけどね」

「おかげでアリスが俺を好きになってくれたんだ。そのことだけでも誇っていいかもな」

「けれど……」


 むずむずと引き結んだ綾花の唇が波打つように揺れた。


「聖術も……魔法検閲官仮説の対象ですので……自重なさって……くださればと……」

「そうしよう。元々アリス以外に披露する相手もいないしな」

「愛しております。兄さん」

「好意的ではあるな。アリス」


 観柱兄妹では何時ものこと。


「本当に……相思相愛です……えと……」

「たしかに倫理的に無理だよなぁ」


 うんうんと俺は頷く。実際問題、俺とアリスが実の兄妹なのは事実で。ぶっちゃけると、俺のシスコンも大概ヤバい。アリスのブラコンほど暴走はしていないが、熱量で引けを取るかと言われれば首を傾げてしまうわけで。


「大丈夫なんですか……?」

「色々と詰んでいる」

「兄さんは気にしすぎです」

「アリスが可愛すぎるのがイケない」


 金髪を撫でる。にゃーとアリスは鳴いた。萌え萌えだ。


「なんかそれだけで……結界を創っていますね……」

「ハートでも乱舞しているか?」

「幻視……出来ます……」

「兄さんは私の嫁ですから」

「夫ではなく……?」

「そこはまぁ妥協の余地有りて……」


 入学式の「兄さんは私の嫁」宣言は伝説となる語り種だ。


「本当に……そうなんですね……」

「にゃー。兄さんが好きすぎて怖い」

「えと……治癒の聖術を知っているのは……拙らだけ……と……?」

「そうなるな」


 首肯する。尤もだ。


「それはよかったです……」

「こっちとしても治癒の根源を知れたんだ。感謝している」

「いえ……えと……どちらにせよ……何時かはこうなりましたし……」


 俺たちと綾花の邂逅か。たしかに遅すぎるくらいではある。魔術の世界に足を踏み入れながら、その根幹を知ろうとしなかった……との点で。


「兄さん。そろそろお暇しませんか?」

「ぶぶ漬け喰らえ?」

「いえ……滅相も……ヨハネとアリスも良い休日を……」


 白髪赤眼の美少女は、その神秘に勝る上位の神秘で、俺にほほえみかけた。


「前にも言ったと思うが、人避けのおまじない止めた方が良くないか?」

「えと……死袴家は……裏の存在なので……」


 目立っては本末転倒と。


「血桜様が暴走しないように……奉らなければいけませんし……」

「ついでに神鳴市の鬼退治か?」

「ええ……まぁ……」

「手伝えるもんなら手伝ってやりたいんだが」

「大丈夫です……それより……アリスを大事にしてください……」


 俺の如何で神鳴市が呪いに沈むしな。


「そうしよう」

「本当ですか兄さん!?」

「何故そこでテンションがゲキ高になる?」

「ホテルで休憩しましょう!」

「普通にモールでデートだ」


 デートするのを否定しない辺り、俺も壊れているのかもな。

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