第26話魔力とは一体何ぞや?


「ほほう」

「ははあ」


 さすがに度肝を抜かれた。食堂で食事を取る……にしても予想外の光景。豪奢な屋敷の食堂でのこと。高級料理が出てくる……と言うわけでなく、むしろその逆だった。


「ヤマメ……」


 川魚の塩焼きが出てきた。


「何処で調達したんだ?」


 普通に神鳴市は名物のない盆地だ。魚も捕れないではなかろうが、それにしたって川魚の塩焼きて……。ある意味高級料理以上に珍しい。


「近辺の川で……とれますから……」

「結界内のか?」

「ええ……。ですから……不純物はありませんよ……」


 結界って便利ね。山菜御飯に赤出汁の味噌汁。ぬか漬けがまたコリコリとして美味しい。質素な食事とは言う物の、普通に都会では有り得ない贅沢でもあった。俺ことヨハネと愛妹のアリスは気に入ってひたすら食い尽くした。それほど美味しかったのだ。


「金払うから定期的に馳走してくれんか?」

「えと……気に入られたなら……良かったです……。お金を払わなくても……元手がかかっていないので……いくらでも……」

「じゃ、またお邪魔する」


 食後の茶を一口。


「で、エア仮説とケイ仮説って何?」


 アリスが閑話休題した。


「そうでした……。そんな話でしたね……」


 ホッと吐息。


「まず……アリスにとって……魔力って何でしょう……?」

「魔術を使うためのエネルギーよね?」

「四つの力の……どれに当てはまると思いますか……?」

「ソレを言われると辛いわね」

「でしょう……?」


 たしかに魔力がエネルギーなら、物理的に何かしらの根拠はあるわけで。


「けど普通に綾花は魔力を調達している。違う?」

「違いません……。エア仮説で……思考していますので……」

「ソレを聞きたいんですけど」


 俺も俺も!


「エア仮説は……この星の大気に……魔力が存在する……という仮説です……」

「自然界のマナ……ってところかしら?」

「はい……。そしてケイ仮説は……人の体内に……魔力がある……と言う仮説です……」

「普遍的な魔力ね。オーラやチャクラにも例えられますか?」

「かも……しれませんね……」


 苦笑いの綾花も中々可愛かった。人避けの呪いさえなければ即時学校のプリンセスになれるだろうに。


「魔力と呼ばれるエネルギーが……一体何なのか……? これは現代魔術の会議で……疑惑を招いています……」

「どっちが正しいの?」

「正しい……とか……正しくない……なんて話じゃないですよ……イメージに何を組み込むか……。これが肝要です……」

「つまり間違った理論でも、イメージとして力を持てば、魔術は具現すると?」

「えと……その認識で……間違いないかと……」


 元々が熱力学ガン無視だしな。間違っているかどうかなら、その存在から間違っている。いわんや魔術理論に統合性を認める方が無粋だ。


「ケイ仮説でもエア仮説でも魔術は使える。綾花はエア仮説ですよね?」

「えと……はい……」

「何故?」

「ケイ仮説だと……隙間の神効果で……肉体に疲労が蓄積しますので……」

「たしかに」


 それは事実だろう。体内に魔力が有ってソレを使うとなれば生命力やら体力やらを持って行かれる。術式としてそう組み込まれてしまうのだろう。




 ――けど隙間の神効果って何だ?




「えと……それに……三食しっかり食べたエネルギーで……火鬼を具現できるなら……世話は無いわけで……どうしても常識論として……エア仮説に……」

「それもそうね。では私もエア仮説で参りましょうか」


 肉体疲労の限界を覚えないなら確かにエア仮説が有利だろう。


「ケイ仮説でダイエットは出来ないのか?」


 身も蓋もないことを俺は聞いた。


「出来ますけど……」

「だとよ」

「おっぱいが萎むので嫌です」


 それは確かに大変だ。今ですら巨乳なのに、更なる成長を遂げているアリスのボイン。それが縮小することがあればブラックホールと化し、男子諸氏ならびに俺の絶望を呼ぶだろう。妹のボインに反応する俺がどうなのかって議論は後刻。


「さて、そうすると」


 エア仮説な。大気に魔力が満ちているという考え。


「他にもないのか?」

「えと……色々ありますけど……あまり知識を詰め込みすぎても……魔術の行使を阻害しますし……。魔術は神性を……イメージで具現しますから……常識はこの際……敵と言えるでしょう……」

「熱力学を無視できるはずがない。そう思ってしまうと魔術が使えなくなるのか?」

「まさに……」


 そんなものか。なるほど神秘主義が横行するわけだ。いらっしゃいまほ。


「そんなわけで……神秘は神秘であることが……第一条件なんです……」

「ソレも納得」

「あと強制検閲もありますし」

「きょうせいけんえつ?」


 なんじゃらほい?


「えと……魔法検閲官仮説の……一部のルールを指します……。社会に発露するレベルの……魔術を使おうとすると……強制的に検閲が入るんです……。極端な例を出せば……大衆の前で……ガチの魔術を使おうとした魔術師が……魔術行使しようとした瞬間に……心臓が止まって即死した……なんて話も聞くほどで……」

「それが強制検閲」

「ですから魔術……いえ魔法ですね……。魔法は人目を避けるんです……。えと……鬼だって……結界に引きこもっている……でしょう……?」


 御納得。


「綾花様。ヨハネ様。アリス様。くず餅は如何でしょう?」


 使用人の式神がニコニコ笑顔で勧めてくる。


「それも結界内でとれるのか?」

「えと……です……」


 照れる綾花には趣が有った。


「うーん」


 アリスはアリスで何かを悩んでいるらしい。


「しっかし変なことになったな」

「兄さんの治癒が一番変ですけどね」

「これも魔法なんだろ?」

「えと……はい……そうです……」


 コックリ。首肯された。エネルギー保存則? 何ソレ? ……のレベル。


「けれど魔術ではないと」

「広義的には魔術ですけど……一応……別名も付けられています……」

「拝聴しよう」

「聖術」


 そういやそんなこと言ってたな。

 南無妙法蓮華経。

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