第23話治癒というのは
「こんなので……宜しいでしょうか……?」
綾花は壊れた壺を持って来た。家電製品かと思いきや、陶器である。
「まぁいいんだが」
壺に触れる。
「触れないと……効果がないのですか……?」
「俺の超能力はな」
「ふむ……」
訝しげに俺を見据える綾花だった。
「兄さんの超能力は規格外ですし」
アリスがムフンと胸を張った。バインボインが強調される。俺のオスの部分が反応したが、普通に取り繕って自然体を演じる。
「それでこの壺を治せば良いのか?」
「お願いします……」
とりあえず触れて治した。有機物無機物を問わず、俺の治癒はあらゆる物に作用する。有機物は癒し、無機物は治す。だから二つ揃えて『治癒』と表現するのだ。殆ど一瞬で壺は修復された。
「わお……」
綾花が瞠目している。ちょっと表情に硬さは残るも、驚いていることは確からしい。
「魔力の入力は……していませんよね……?」
「まりょくのにゅうりょく?」
「なるほど……。聖術ですか……」
聖術? なんじゃらほい?
「まず……間違いありません」
「その聖術とやらは何か?」
「ソレについて語る前に……、治癒はどこまで可能なんですか……?」
んー……。
「殆どの欠損は修復できるな」
「それが無機物であっても……?」
「そう相成る」
沈黙。山桜が風に散った。普通に幻想的な光景だ。これが春なら確かに此処にいたくなるだろう。それほど戦慄を覚える景色だった。
「治癒……」
「ま、あまり公にも出来ないがな」
「でしょうね……」
コックリ綾花は頷いた。そこには理解の彩がある。その根幹が那辺にあるか……までは俺には把握できないにしても。
「分かるのか?」
「いえ……まぁ……そこら辺はお約束なので……」
お約束。つまり神秘は神秘たらしめることが肝要……ということか。たしかに俺も治癒を持っていなければ綾花の技術は夢想だにしなかっただろうが。
「神秘は秘匿されるべきですから……って奴か?」
「一言で述べれば……その通りですね……」
玉露を飲んで、綾花が頷く。
「兄さんの治癒も秘匿されるべきだと?」
「秘匿せざるを得ない……と言うべきです……」
「普通に医者を目指せる能力と存じますが」
アリスが首を傾げた。いや、まぁ、たしかに俺の能力は汎用性が高いが。
「不可能とまでは申しませんが……、大々的に執り行える能力でも……ありませんね……」
「あらゆる難病を治しますよ?」
「アリス限定だがな」
「いやん。兄さん」
ギュッと抱きしめてくる。腕が幸せ。綾花は修復された壺を見た。
「無機物すら修復する……。それは治癒と言うより……修復でしょう……」
「修復ね。どちらも同じ意味には違いないがな」
「それは……自身にも適応できますか……?」
彩花の目は真剣だった。こちらの意図を探ろうと必死らしい。
「普通に出来るな」
「不死身……?」
「そうとって貰っても構わんぞ?」
実際に死ぬような目にはあってきた。その都度死に損なったわけで。
「兄さんは悪くありません。根本的な原因は私ですし」
「アリスが……?」
ポヤッと首を傾げる綾花。言っていることの意味が分からないのだろう。その気持ちは汲める。汲めずにどうしろというのか。普通に考えてアリスは有り得ない。
「私の呪詛を治癒できるのは兄さんだけですから」
「呪詛……?」
ええと。何と言うべきか。少し言葉に迷う。それでも話は続くわけで。
「アリスは……呪い持ちですか……?」
「ええ。ですよ?」
「どれほどの……呪詛を……?」
「放っておけば都市丸ごと壊滅クラスの」
ハッキリ言って出鱈目に聞こえる発言だが……嘘でも無い。普通に存在するだけでアリスは他者を呪う忌み子だ。俺が治癒しなければ神鳴市は呪いに沈むだろう。それほど厄介で戦略的な威力をアリスは有している。
「マジ……?」
「マジです」
「でもそんな呪いは……発現していませんよね……?」
「兄さんのおかげです」
「?」
首を傾げて、
「ああ……。治癒の聖術……」
正解に行き着いた。綾花の洞察力はまぁまぁそこそこ。
「治癒……ですか……」
「何かご所望でも?」
「ありますね……普通に……人払いや人避けの……結界を通り抜けるんです……。その意義は認めますよ……」
「然程大層なもんじゃないんだが」
揉んじゃないんだが。
「私のパイオツなら幾らでも揉んで良いですからね?」
「よくぞ言った」
「あへぁ……」
嬉しそうなアリスだったが、別に本気で揉む気はない。
「兄さんのヘタレ」
「耳に痛いが事実だな」
「あの……兄妹ですよね……?」
「まっことその通り」
「役所でも証明できますよ?」
それほど俺たちは兄妹だ。キョーダインだ。
「で、結局聖術って何だ? 魔術とは違うのか?」
「本質的には……一緒ですよ……?」
其処を知りたいわけだが。
「あ。玉露お代わり」
アリスが飲み干して言う。
「承りましてございます」
急須から新たな茶を注ぐ。
使い魔って便利ね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます