第22話結界
「でっかい家だな」
歩くこと三十分。豪邸についた。そこで綾花は待っていた。白い髪と赤い瞳。間違えようのないアルビノだ。
「どうも……」
「もしかしてお金持ち?」
「まぁ……そうですね……。普通に……平均よりは逸脱しているか……と……」
鼻先をポリポリと綾花は掻いた。一丁前に照れているらしい。
「ソレでは……こちらにどうぞ……」
と屋敷の壁が何処までも並んでいる……その門戸の…………道を挟んで線対称。道路の反対側にある趣深いボロ屋に、綾花は案内した。
「え? こっちじゃないんですか?」
とはアリスの言。立派なお屋敷を指し示す。
「そちらは別荘です……。本家はコッチですから……」
と見るも無惨なボロ屋を指し示す綾花。どう考えても言葉と常識が摩擦する。質素どころのレベルではない。普通に建築として成り立っていないレベル。
「倹約でもしてるの?」
「いえ……別に……。とりあえずは……上がってください……。話はそれからで……」
ともあれボロい家屋に上がらせて貰う。というか瓦屋根の崩れた門戸を抜けた。
「「――――――――」」
絶句。それが一番適確だ。俺とアリスが衝撃に襲われて言葉を無くした。景色が一瞬で変わったのだ。桜の散る趣深い庭。豪邸と呼んでまだ足りぬ和風屋敷。使用人が大勢で迎える贅沢。金色に輝く玄関は、ある種、気後れさえ覚えた。
「「「「「いらっしゃいませ。観柱ヨハネ様。観柱アリス様」」」」」
使用人が並んで鮮やかに頭を下げる。
「あのー。これは?」
俺も同意見だが、先陣を切ったのはアリスだった。
「我が家です」
答える綾花もアレだが、さっきまでのボロ屋はどうなった?
「結界ですよ……。結びの国です……」
「結界……コレが……」
桜の散る趣深い屋敷を見ながら、アリスが呟いた。気持ちは俺も同じだ。ぶっちゃけ有り得ないレベル。だが確かに魔術師としての格付けをするならコレが自然かも知れない……程度には納得も出来る。あくまで想像の範疇ではあれど。
「お茶に好みはある……かな……?」
「緑茶」
「兄さんと同じく」
「じゃあソレで……。用意して……」
使用人の一人に声を掛ける。
「承りました。ご存分に奉仕させて貰います」
使用人の一人が、消えていった。
「あがって……?」
「はぁ」
「まぁ」
豪華な屋敷に足を踏み入れる。綾花に先導されて、縁側へ。桜が咲き誇っている風情のある縁側だった。
「桜のシーズンは終わったのでは?」
「風情を……魔術で再現……していますので……」
それはそれは。
「彩花様。お茶が入りました」
「どうも……」
「ヨハネ様にアリス様も」
「有り難く頂きます」
「以下同文」
そんな感じで茶を受け取る。歪な温もりを感じる湯飲み。入っているのは玉露だった。
「使用人を雇っているなんて。普通に大金持ちだね」
「いえ……、あれらは式神ですので……」
式神。陰陽師の使役する末端を指す。その用途に応じて使い分けられ、陰陽師の目や耳となり、フォローする存在……神秘の代表格だ。
「さすが魔術師……と申すべきでしょうか」
玉露を飲みながら、アリスが述べる。同じ意見は俺も持っていた。魔術によるインフラならば、たしかに理に適ってはいる。
「結局結界で屋敷を偽装してるんだろ? なんでそんな面倒なことを?」
「神秘は……秘匿されるべきですから……」
神秘。つまり魔術か。
「結界は……そのために編み出されました……。聖域と俗物を……分け隔てる壁……。普遍的に……神性を隔離するための……結界でありますれば……。修験道でも……よく見られますよね……」
「ああ。石になるってアレな」
「アレですね」
「それでお前は魔法使いなのか?」
「広義的には……そうですね……」
クイと玉露を飲む。
「そしてヨハネとアリスも……そうですよね……?」
「然程大層なもんじゃないんだが」
「私のパイオツはある意味神秘ですけど」
何処まで大きくなるのやら……ってな。
「兄妹……なんですよね……?」
とりあえずはな。普通に両親はいるし。祖母マリアにも二人揃って愛して貰えたし。
「なので主人とメス奴隷の関係です」
「メス奴隷……っ!」
「ああ。本気にしなくて良いぞ。この程度のタガの外れはアリスには良くあることなんで」
ヒラヒラと手を振る。玉露を飲んで嘆息。山桜の綺麗な庭だ。
「それで魔法って何ですか?」
「何だと思います……?」
「不思議な現象?」
他に言い様もアリスにはないのだろう。俺としても実際そんなところだ。そも魔法って何よ? ……ってレベルである。普通に詐欺師でなければ、じゃあ何だ?
「魔法は法則。そして魔術は技術です」
「「?」」
首を傾げる観柱兄妹。
「その前に……。ヨハネの魔術を……見せてくれませんか……?」
「俺の? 超能力を?」
「はい……。その超能力です……」
「そりゃ構わんが」
普通に有り得る事態だ。そもそも結界内なのだから、何をどうでもない。秘匿するほどのことではなかった。その点を綾花は突いたのだろう。ここで遠慮してもしょうがないので、普通に乗り気になる俺だった。
「じゃあ条件があるんだが」
「何か……?」
「何か壊れた物を持って来てくれ」
「壊れた……物……?」
「そ。壊れた物」
壊れかけのレディオ。
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