第11話愛情表現


「兄さん」

「はいはい」

「大好きです」


 さいですか~。いい加減鬱陶しいんだが。いや、アリスじゃ無くて状況が。普通に食事を取っている(?)だけなのに、ルサンチマンが泥濘になってズブリと身を浸す。我ながら何を比喩にしているのやら。


「観柱ヨハネ……」

「兄貴なんだろ?」

「アリスちゃんもどうかしてるぜ……」


 無敵のシスコンは、多分男子のやっかみなぞ聞こえてもいないだろう。普通に彼女にとって都合が良いのは俺に関してのみだ。入学式から少し経ったが、その爆発的な知名度のうなぎ登りは登竜門化し、頂上まで登って竜と成る。新入生……どころじゃなかった。ありとあらゆる学年……それも男女問わずに俺たち観柱兄妹は有名になっていた。


 ちなみに今日のメニューはワンタンメン。昼休みの学食で、二人掛けに座る二人。アリスの豊かなパイオツは、テーブルにちょうど乗っかってバインボインと揺れている。それを食い入るような瞳で見つめる男子諸氏。気持ちは分かるが落ち着け。下手をすればセクハラ案件だぞ。と言って聞くなら、十八禁コンテンツなんて売れないわけで。見るだけでも眼福はたしかにあった。俺も男子平均的にはおっぱいが好きだ。


「はむ」


 その二人掛けの席の対面で、美味しそうにとろふわオムライスを食べている愛妹。嬉しそうだ。食事もだろうが、俺と食事をするというシチュエーションも。


「はい。兄さん。あーん」


 オムライスをさしだしてくる。


「あーん」


 ハムリ、と食べる。唾液が糸を引いた。


「えへへ。兄さんの唾液……」


 嬉しそうにスプーンを舐める。


「ん……くちゅ……はん……ぁぅ……くちゃ……」


 淫靡な光景だ。十五禁スレスレかもしれない。


 ――ベキバキボキィッ!


 学食中の無料配布されていた割り箸が折れる。怒りのままに折ってしまったらしい。ルサンチマンな男子生徒諸氏。うーん。優越感。妹ラブリー。アリスは重度のブラコンではあるも、俺だってアリスを魅力的に思っている。おっぱいとかお尻とか揉みしだきたい。血統的にその辺どうよ? ……とは言われるが、そこに明朗快活な理性が伴うなら一夜の過ちなぞ起きないわけで。黄金比で形成さるる女体の破壊力は、割り箸を折る程度ではすまない力学が働くのだ。


「うーん。真摯な紳士な、俺」

「兄さんは紳士ですよ? おかげでこっちが苦労しまくりで……」

「苦労させてるのか? それは見過ごせんな。俺はどんなフォローをすればいい?」

「抱いてください」

「……………………」


 チーン。鈴が鳴った。お葬式で聞く奴な。


「兄さんがあまりに紳士すぎるので私を抱いてくださりません。おかげで自分を慰める毎日で。兄さんが抱いてくだされば万事解決ですよ?」

「うーむ」

「それに兄さんだって私の身体に興味在るでしょう。たまに視線が胸に行ってますし」

「うむ。セクシャル的にお前は魅力的だ」


 そこには同意。


「では合意の上と言うことで」

「せめて血統をどうにかしてからもう一度言ってくれ」

「別に避妊すれば良いのでは? 近親相姦は遺伝的問題があるから忌避されるのであって、そこに直接的な害はありませんよ? ちなみに私は処女ですし。病気の心配もいりません」


 ルン♪ と弾むようなアリスの言でした。傾聴すべきところはあれど……まぁ理屈は通っていないよなぁ。揉みたいんだけどなぁ。アリスの巨乳。ゆっさりと机に置かれた超重量おっぱいが、ポヨンと揺れた。スプーンの柄の方でアリスがつついたのだ。


「こんなに柔らかいですよ? プリンプリンですよ? バケツプリンですよ?」


 まぁな。それな。


「乳首の色をRGBで教えましょうか?」


 誰が得するんだ。その情報。


「兄さんは私の嫁なんですから、普通に夫婦の営みとして、セックスしたって良いじゃないですか」

「お前のそう云うところは尊敬に値する」


 アリスの壊れっぷりは把握しているが、それにしても蒼穹のような清々しさは此奴のコンプレックスから鑑みるに普通に剛毅だ。よくもまぁ笑える物だ。俺の存在あってとわかってはいても……な。


「兄さん何か失礼なことを考えていませんか?」

「そうじゃないことの方が少ないくらいだが」

「私は迷惑ですか?」

「迷惑じゃない。迷惑だと感じることが『常に無い』とは言わないが……そもそも迷惑に思ってさえ俺はお前を突き放せんよ」


 ワンタンをパクッと食べて、その唾液の付いた割り箸をアリスの口に突っ込む。


「んむっ……はむ……兄さんのぉ……唾液ぃ……」

「ほい。ワンタンメン」


 そのまま丼を差し出す。代わりにオムライスを貰った。玉子がふわとろで良い感じ。


「兄さんが私の使っているスプーンで……」


 それで発情できるなら立派な物だ。まぁ……じゃあ俺が何を思ってもいないのかと言えばまったくそうでもないものの。


「呪詛の方はどうだ?」

「いまのところ凪ですね」


 なら良かれ。普通に治癒を持つ俺だから傍に居られる。普通の人間が呪詛持ちのアリスに近づけば、不幸がソイツを襲うだろう。希に起る事故。しかも因果的に不幸としか言えない証拠能力なしの案件だ。普通に政略として転用出来るレベル。


「えへへ。私の嫁が可愛すぎる」


 SNSで飯テロするアリスでした。いや構わんがな。目に線は入れてあるし。


「アリスも十分可愛いがなぁ」

「兄さん。あまり発情させないでください。襲いますよ?」

「叩きのめすから大丈夫だ。幾らでも襲いかかってこい」


 アリスも俺の超能力の応用は知っているはずだ。リミッター外し。身体能力の限界突破。


「では襲います。その前に服を脱がないといけませんね。こんな衆人環視の中で兄さんを襲うんですから、ソレなりに自他共に剥かないと……」

「ごめんなさい。調子に乗っていました。お願いだから止めろって」


 もちろんアリスも冗談ではあろうぞ。基本的に人を忌み嫌うので、肌の露出なぞ許されるはずもない。あと俺が不利になることはしない。時々するがな。慕情の暴走という形でなら。一念天に通ず。断じて行なえば鬼神も是を避く。岩をも砕く乙女の一念だ。


「にしてもクオリティ高いですね。この学食……」

「やっとマトモな話題になったな」

「兄さんが私の嫁すぎるのがいけないんです。どんだけ幸福なんですか私!」

「俺もアリスが妹で幸せなんだがなぁ」


 それは嘘の無い事実。


「ああん。もう。整体マッサージなみにツボを突いてきますね!」

「健康になるなら良いことだ」

「思春期らしい活動に精を出します」

「それがよかれ」


 ナニをするにしても。別に自慰行為は犯罪じゃない。性欲は生物上しょうがない問題で、性欲の発散は恥ずかしいことじゃないのだ。まぁそんなことを思う俺が、


「何様だ?」


 って話だが。そこはまぁスルーの方向で。

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