第9話色々と非常識な


「魔術師……ですか」


 デカフェの紅茶を飲みながら、アリスはボンヤリ述べた。


「いやまぁ俺の治癒能力もあるから、一概に否定も出来ないんだが」

「炎を操っていましたよね?」

「迦楼羅焔な」


 不動明王の背負う炎。不浄を燃やし、喰らい尽くす神鳥の具現。


「原理は兄さんと一緒で?」

「どうだろな。そもそも魔法がどうのと言われても、こっちには手札が無い」


 聞けば教えてくれるかも知れないが、やぶ蛇な気分はある。何せ相手は暗示や洗脳の類を使ってまで特秘事項にしようとした身分だ。実際にニュースで魔法を取り扱ったことは無い。つまり文明社会の裏側を覗くことになるのだろう。そこでハッピーな気分になるならまだいいんだが、先述の如くやぶ蛇になった場合、殺されるとまでは言わない物の不幸が降って湧く可能性も考慮に値する。


「実際に私は洗脳されましたしね」

「アリスでソレだから一般人だともっとだな」

「でもそういう技術があるなら、私の呪詛の解決にもなるんじゃあ?」

「あー、確かに」


 魔術結社とか言っていたな。つまり何かしらの組織だった運営はあるわけだ。


「でも死袴しばかまさんに惚れちゃダメですよ?」


 ニッコリ。


「自殺願望は俺にはない」


 既に俺と妹はリンクしている。ヨハネの不幸がアリスの不幸。これが類感感染として作用する。難儀なことだ。別に皮肉を言いたいわけでは無いも。


「二号さんとか?」

「一号は誰だ?」

「はい! 奴隷一号!」


 だからそういうのは自重しろよ。


「ポールダンスを覚えるべきでしょうか?」

「どこに向かってる。お前……」


 頭の頭痛が痛くなる。


「ただそうだな。何かしらのヒントは得られるかもな」

「接触するんですか?」

「アリスの呪詛の根本を知れるなら、それもアリかと思われて」


 お兄ちゃんは愛妹が心配です。


「兄さんにおっぱいを揉まれるのならこのままでも良いんですけど」

「四十歳や五十歳になってもそうするつもりか」

「あー、命短し恋せよ乙女?」

「さいだ」


 実際にアリスはその通りだ。


「俺の治癒じゃ完全ではないからな」


 那辺に理由があるのかは知らないんだが。そこを死袴さんに聞ければ有益だろう。


「兄さんにおっぱいを揉まれると幸せなんですけど」

「そのドスケベを矯正しろ」

「エッチな妹ってキャラが立ってませんか」


 濃ゆ過ぎだ。普通に妹萌えへの自己破滅的な挑戦だぞ。


「兄さんの嗜む自慰にも妹キャラはいますよね?」

「まぁ言ってしまえば妹萌えは昔からあるしな」


 何とは言わない物の。


「エッチな妹は嫌いですか?」

「アリスは魅力的だ。だから嫌いにはなれない」

「にゃはぁ……っ。兄さん!」

「へぇへ」

「抱いてください!」

「ムギュー」


 抱きしめる。


「いえセクシャルな方面で……」

「俺に抱きしめられるの嫌か?」

「ズルいです兄さん……」

「可愛いアリス。ずっと腕手の中で弄びたい」


 こういう純情さを時折見せるアリスがズルい。


「兄さんになら良いですよ?」

「後は遺伝子をどうにかするだけだな」

「それが最も不可能に近いですよね」

「抱きしめると胸に胸があたって」

「興奮しますか?」

「それだけ自分が魅力的だと自覚しろ」


 いや自覚はしているだろうが。思春期からコッチ、アリスは男子生徒に言い寄られること多々だ。自分がどういう目で見られているのか。顔の美しさか。胸の突き出しか。あるいはお尻の曲線か。性欲の暴走と、思春期の業は、散々思い知っているはず。だから妹は一般的な男子を軽蔑する。エッチなアリスではあるも、想い人以外には貞操を辱められることを良しとしない。


「で、俺か」

「兄さんです」


 つまり、俺に身を捧げているのだ。その気になれば、裸で淫らな行為をすることも辞さないだろう。なんかこう……自慰行為のオカズになる知識によれば。南無三。


「兄さんはズルいです」

「見限るか?」

「そういうところですよ?」


 ――其処はスルーして欲しかった。


「大好きです。兄さんが……ヨハネ兄さんのことが……私は大好きです」

「伝わってくるな」

「では……」

「せめて大人に成ってからだ。横暴が自己責任に帰結するようにならない限りは、俺は妹を抱けない」

「でも兄さんはおモテになります」

「顔だけ男って親父に言われるくらいだしな」


 勉強も運動もそこそこ。自慢に出来る能力は無い。治癒の超能力はあるが、それこそ自慢できるはずもなかった。


「中二病乙」


 で終わってしまう。


「それで死袴さんが」

「そう相成るな」


 興味を惹くのは必然で、なお魔術師と云うなら御教鞭願いたいところ。


「可愛いですしね」

「お前もそう思うか」

「言っておきますけど、兄さんが私から離れるほどに呪詛は大きくなるんですよ?」


 それは知ってござんす。


死袴綾花しばかまあやかさん……か」

「普通に呪文唱えてたよな」

「ですねー。あーゆーのはフィクションかと」


 それな。


「その点は俺にも重なるが」

「ついでに私の心臓にも」


 つまるところ、ここで議論しても意味がないってワケで。


「じゃ、時期を見つけて接触するか」

「ムギュ」


 今度はアリスの方から抱き返してきた。


「えへへ。兄さんの匂いと筋肉」

「変態っぽいぞ」


 それも然もあらん。

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