第7.5話 残業続きの二人

 二人がそんな会議を終えた頃、ギルドの支部長室ではジョシュアとファロンが毎度の残業をしていた。


「ファロン君、この書類で今日は終わりと言ってくれないかい」


「馬鹿な事言ってないで手を動かして下さい、まだまだあるんですから。それよりも本当に良かったんですか、あの二人の事」


 ファロンは明らかにマモンの行方不明事件に関わっている二人が国外に出れるようにジョシュアが便宜を図った事に納得がいっていないようだ。


「ファロン君、君も知っているだろうがグリーゴウ商会を含めて一月程前から大陸各地で新たな組織の台頭や怪事件が発生している」


 ファロンは無言で頷く。彼女自身も支部長秘書として各国のギルドからの定期の情報共有の為の報告書に目を通しているからだ。


「うちも含めてだが各国の支部の中にはその対応に奔走している支部もあり、中には依頼の遂行に支障が出ている支部まであるそうだ」


 それとニック達に便宜を図るのとにどう関係があるのかファロンには分からず、怪訝な顔する。


「ニック君達がギルドに登録して活動を始めたのも一ヶ月程前。さらに彼女達は探し物があると言ってここ街に来てグリーゴウ商会について調べ始めた」


「確かに無関係とは言えないと思いますが……」


 グリーゴウ商会の件はともかくとして、大陸全土で起きている異常事態にまで結びつけるのはいくらなんでも無理があるとファロンは思い、ジョシュアが疲労からおかしな妄想でもし始めたのではと疑い始める。


「その顔は僕がおかしくなったとでも言いたそうだね。疲れてはいるがまだ大丈夫だよ。とにかく、マモン氏が行方不明になった事件には二人が大きく関わっているだろう。だが、マモン氏がこのまま行方不明の方がこの街は平和だとは思わないかい」


 そう言い放つジョシュアにファロンは背筋に薄寒いものを感じた。


 普段の優しい家庭人の顔とは違う、合理性を優先する冷徹な一面。


 総支部の支部長ともなれば、様々な業種や人種の海千山千の曲者達と対等に渡り合わなければならない。


 だからこそ彼は、そんな一面を持ち合わせているのだ。


「それに現状では彼女達がどう関わっているのかはわからない。そんな彼女達を疑わしいと言うだけで警察に引き渡せば、ワーカー達に身内を売ったと反感を買うかもしれないしね」


 ワーカー達とギルドの信頼関係を持ち出されてはファロンはそれ以上何も言えなかった。


 そんなファロンの様子に、ジョシュアは苦笑いする。


「納得は出来ないか。だったらこう考えて欲しい。二人は理由はわからないが大陸全土で起きているこの事態に関係があり、手段はともかくとしてなんとかしようとしている。だから自由にさせた方がギルドにとっては有益である、とね」


 ジョシュアが言っていることは無茶苦茶だが、一理あると思ってしまった時点でファロンは完全に言い返せなくなり、渋々ジョシュアの言い分を受け入れた。


「はあ、毒を食らわば皿まで、という事ですね。分かりました、私はこの件に関してはこれ以上は何も言いません」


「ありがとう。じゃあ話は終わった事だし今日は帰るとしようか」


 席から立ち上がり、側のコートスタンドから上着を取ろうとするジョシュアの手をファロンが掴む。


「それとこれとは話が別です。仕事はまだ終わっていないんですから帰しませんよ」


 残業から逃げるのに失敗したジョシュアは大きくため息を吐きながら席へと戻った。


 結局仕事を終えて二人が支部を出たのは日付が変わってからになったのだった。

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