第六話 パーティー潜入計画ー③

 翌日、二人は朝から行政区にある図書館を訪れていた。

 この図書館は本を借りるにはフリーム在住である必要があるが、館内で読んだり調べ物をする分にはだれでも利用できる。

 流石に個人の家の設計図がある訳がないが、少しでも計画の役に立つような情報を手に入れる為に二人は来た。

 国が運営する図書館なだけあって、蔵書の数は膨大だ。この中から目当ての情報を探し出すのは藁山に落ちた針を見つけるようなものだろう。


「こんなに大量の本、始めてみたぜ」


 本などほとんど読んだことが無いニックは物珍しそうに棚から気になった本を手にとってはページを適当にめくっている。

 生前、彼は本に触れる機会が一切なかったわけでは無いのだが、興味を持つことが無く、読むことが無かっただけだ。そんな彼でも大量にタダで読める本を見れば、多少は読んでみようという気になるらしい。


「遊んでないでないで受付に行きますわよ。この中から自分達で必要な情報を探していては1ヶ月は掛かってしまいそうですから。本が読みたいのならまた今度にしてください」


 残念そうに手に持っていた本を元の棚に戻す。写真付きで見たことの無いものが載っている百科事典をニックは気に入ったようだ。


 図書館中央の受付に着くと、図書館司書の眼鏡を掛けた女性が返却された本を整理している所だった。女性はこちらに気が付くと作業の手を止め、丁寧に対応してくれた。


「すみません、私達調べ物があって来たのですが、ミリオネアストリートについて書かれた物はありますでしょうか?」


「ございますがどういった物がご入用でしょうか。観光用のガイドブック、ミリオネアストリートの歴史について書かれた物、それとも単純な地図などいくつかご紹介できるものがございますが」


 アスモはそれらすべての本が見たいと言うと、全てのジャンルを合わせると何十冊もあると言われたので、その中から詳しい情報を得られそうなものをチョイスするよう司書に頼む。

 司書は何も見ていないのにメモに本の置かれている棚の番号と何段目かを書いて渡してきた。


「あんた、本の場所を全部覚えているのか?」


「毎日整理していると何となくですけど分かるようになりました」


 自分では足元にも及ばない彼女の記憶力に舌を巻くニックを引っ張ってアスモはメモに書かれた本を探しに行く。


「さてと、教えて頂いた本は全部見つかりましたし、ここからは根気の作業で情報を探しますわよ」


 共用スペースの机に集めた本をどさりと置いたアスモは張り切っている。

 そんなアスモをしり目に自分には関係ないと言わんばかりにニックは机に突っ伏して寝る体勢に入る。


「ちょっとニックさん、何寝ようとしているんですか。あなたも手伝ってくださいよ」


 ニックはそのまま知らんぷりで狸寝入りを決め込もうとするが、積んだ本の半分を頭の上に乗せられる。

 それなりに思い本の重しに耐えきれなくなったニックは、面倒そうなため息を吐きながらその本を頭から降ろす。


「俺、こういう事したことがないから勝手が分からないんだが」


「字は読めるんですから何とかなりますわ。専門知識が要りそうな本はこちらで引き受けますから観光ガイドなんかの簡単なものはお任せしますね」


 アスモ一人に任せていては一日がかりになりそうな量の本を見て、ニックは素直に作業を始める。

 アスモもそんなニックを見て満足げにしながら自分も作業を始めた。途中何度か船を漕いだり脱走しようとするニックを注意するという無駄な時間を挟みつつも、半日程掛かって作業は終わった。

 作業の成果は正直なところあまり芳しいものでは無かった。いくつか家々の間を縫って逃走のルートに使えそうな道を見つけられたくらいだった。


「やはり個人宅の中なんて何を見ても載っている訳がありませんわよねえ」


「そりゃそうだろうよ。そんなもんが誰でも読める本に載ってたら泥棒が入り放題だぞ」


 二人は本との格闘で凝った肩を回しながら本を元の棚に戻すと図書館を後にした。


「次はどこで情報を集める気だ?ギルドか?」


「それが出来るのなら苦労はしませんわ。ギルド内でマモンの情報収集なんてしようものなら直ぐにジョシュアさんにバレて怒られてしまいます」


 グリーゴウ商会に手を出すなと言われて二人はそれを了承した。

 なのにマモンの情報収集をギルド内でしようものなら直ぐにジョシュアにバレてまた呼び出される羽目になるだろう。


「怒られるくらいで済めばいいですが、監視を付けられたり街からしばらくは離れないといけないような依頼を押し付けれられては困りますし」


 ギルドにワーカーの自由を奪う権利は無いとはいえ、それぐらいならばワーカー達の元締めとして可能だ。アスモが警戒するのももっともなことだろう。


「じゃあどうするんだよ。情報を集めるのは諦めて必要になりそうな物でも買いに行くか?」


 一瞬アスモの口角がとんでもない角度に吊り上がるが、直ぐに元に戻ったのでニックは気が付かなかった。アスモは待っていたのだ、ニックが買い出しに行こうと言うのを。


「案外それがいいかもしれませんわね。実は今回の私のプランにはどうしても必要なものがあるので買いに行きたかったんですよ」


「じゃあそいつを買いに行こうぜ。ようやくお前も武器を持つ気になったのか?」


 前々からアスモが徒手空拳で戦っていることにニックは疑問を持っていた。

 なので以前に武器を持つように勧めたのだが、余程自分でしっくりきたもの以外を使うぐらいなら素手でいいと言われた。

 そして今の所アスモの眼鏡にかなう武器が見つからない為、アスモは武器を持っていない。


「違います。ですけど今回の作戦の成功のカギを握っている物ですわ。ワーカーズホリデーで良いお店を聞いておいたので行きましょう」


 成功のカギを握るもの、それが何なのかニックには分からなかったが、計画の発案者であるアスモがそこまで言うのなら絶対に必要なものなのだろう。

 いくら考えても答えが分からぬまま、ニックは商業区行のバスに揺られた。

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