第六話 パーティー潜入計画ー②

 ワーカーズホリデーの部屋に入った2人は手に入れた情報を元に作戦を練り始める。

 だがここにきて、2人の意見は二つに割れてしまった。


 ニックが考えた作戦はこうだ。パーティー当日、パーティーに潜り込むという面倒な手間を省いて屋敷に張り込んでおき、マモンがやってきたところを襲うというものだ。

 裏社会で育ってきたニックにとってはこれが最速最短でケリが着く親しみのある計画らしい。

 しかしこの計画はアスモから待ったの声が掛かった。


「いくら何でも短絡的で行き当たりばったり過ぎますわ!私達はマモンを狩った後も残り5体の大罪を探さないといけないんですのよ!それを一体目でいきなり犯罪者になる可能性のあるプランを実行して、もし失敗して犯罪者になったら残りはどうする気ですか!」


マモンはあくまで人間を装った悪魔だ。ましてやマモンは良いも悪いも含めて今フリームで注目を集めている。

 そんなマモンを警備が大勢いるところで襲って倒せば、事情知らない彼らからしたらニックとアスモはただの殺人犯だ。

 そうなれば間違いなく高額賞金首として狩る側から狩られる側に回るだろう。 

 さらには生活、情報収集両方の面で役に立っているワーカーという職を失うことにもなる。それが今後の活動にどれだけ大きくマイナスの面に働くかは分かりきった事だ。


「そんなもん、布で口元隠せば大丈夫だろ!」


「捕まってしまえば意味が無いでしょうそんな物は!それに無関係な一般人が巻き込まれたらどうするんですか?」


「運が無かったと諦めてもらうしかねえな。人間いつかは死ぬんだ、それが早いか遅いかの違いだろ」


 苛立つニックは煙草代わりにキャンディを取り出して口にくわえる。


「アナタが一番よくわかっているんじゃありませんか、大切な人を失う辛さは。それを運が無かったと他人に味合わせていいのですか?」


 アスモに諭すように言われて、自分がかつて恨んだギャングと似たようなことをしようとしていたことに気づいたニックはバツが悪そうに話を切り替える。


「じゃあお前は良い作戦を思いついたってのかよ」


 ニックに計画を聞かれたアスモは自信満々に豊満なバストを叩いて胸を張る。よく見るとバストに手が埋まっている。


「私の立てたプランはニックさんのずさんで野蛮で短絡的なものとは違い完璧ですわ」


 アスモが立てたプランとは、当初から2人で言っていた潜入作戦だった。

 パーティーの招待客を装って屋敷内部に侵入し、警備の隙をついてマモンを人気の無いところに誘い出して倒す、という作戦だ。


「お前の完璧なプランってのも穴だらけじゃねーか」


 ニックが指摘する穴とは、どうやって招待状も無しにパーティーに潜り込むか、もう一つはそもそも警部員だらけの屋敷のどこに人気の無いところがあるか、という点だ。


「パーティーに潜り込むのは簡単ですわ。私の魔眼で受付を洗脳すれば良いだけですから」


「じゃあ人気の無い場所はどうやって見つけるんだ?俺達は屋敷の中については何も知らないんだぞ」


 痛いところを突かれたのか、アスモは口を一文字にして黙るが、すぐにいつもの笑顔に戻る。


「それはパーティーに潜り込んでから考えるという事で」


「お前も行き当たりばったりじゃねーか!」


「私のプランには様子を見て襲撃が無理なら撤退できる利点がありますが、ニックさんのプランだと失敗しても成功してもその後の逃げ道がないじゃ無いですか!」


「そんなもんその場でどうとでもなるんだよ!」


「結局あなただってその場任せじゃないですか!そういうのを短絡的だというのです!私達は全ての大罪を狩るという使命があるんです!絶対に失敗は許されません!」


 お互いの額をぶつけ合って二人は口論を続ける。だが、一向に決着がつかず、睨み合ったままの膠着状態に陥る。

 そのまましばらく二人は犬の喧嘩のように唸り、睨みあっていたが、どちらかが言い出した訳でもなく、お互いに同時にため息を吐きながら額を離す。


「こんな言い争いをしたところで不毛なだけですわね」


「だなあ、結局どっちもどっちだしな。もう少し真面目に考えるとするか」


 作戦立案に残された時間はそう多くない。口論で熱を発散して少し冷静になった二人は、お互いの計画を話し合い、問題点を洗い出していった。


 そうして数時間にも及ぶ作戦会議は終わり、最終的にはアスモの計画を実行することに決定した。


 実行すると言っても、あくまでパーティーに潜入するまでだ。そこから先どうするかはやはりその場の状況次第なので、誰にも知られずにマモンを狩る事が出来そうにない場合は、撤退し、後日別の計画を立てて再度狩りに行く。


 もちろんチャンスがあれば狩るまでの計画を決行はするつもりだが、パーティーの招待客に警備員、屋敷で働くスタッフに一切ばれることなく狩ることはほぼ不可能という結論に二人は至っているので、成功する望みは薄い。


 脳を全力で動かして疲れた二人は、同時に鳴いた腹の虫に従い一階のレストランに降りていき、食事を取ることにした。


「やっぱりロットンの飯の方がうまかったな」


「ニックさん、レストランで食事中にそういう事は言わない方が良いですわよ」


 口からこぼれた正直な感想を注意され、少しムッとしながらニックは食事をかけ込んでいく。


 いつもよく食べるニックはともかく、今日はアスモもよく食べている。食事をというよりは脳が糖分を欲しているのか、デザートをだが。


「とにかくパーティー当日までに準備をできる期間は明日を入れて後二日あります。それまでに出来る限りの情報を手に入れませんと。後色々と用意しないといけないものもありますわね」


 口の中を料理でパンパンにしたニックが辛うじてわかる発音で分かったと言う。しかしニックはこの時気づいてはいなかった。この後自分がとんでもない辱めを受ける羽目になろうとは。

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