第六話 パーティー潜入計画ー①
「どういう事だ!グリーゴウ商会に何のお咎めも無しってのは!」
ギルド内の支部長室にニックの怒声が響き、部屋にいた者は思わず耳を塞ぐ。
ロットンの店の警備依頼を終えた二人はその足で依頼の完了報告をする為にギルドを訪れていた。
ギルドの方でも昨夜の事態は把握しており、二人はギルドに着いた途端に例によってシャロンに呼ばれて支部長室に通されたのだ。
二人を神妙な顔で迎えたジョシュアは、警察から預かったギルド宛の報告書の内容を二人に伝えた。
それによると、グリーゴウ商会は襲撃事件について、無関係を主張しているそうだ。
今回の一件は仕事の功を焦ったスネルスが独断で起こしたものであり、商会としてはそんな指示は出していない為、自分達も寝耳に水だと言って自分達には一切責任は無いの一点張りで話にならないらしい。
「そんなもん、ただのトカゲの尻尾切りじゃねえか!現にあいつは実力行使も上司から許可されているみたいな事を言っていたぞ!」
「だが、それを裏付ける証拠は何もないんだ。あくまで君達が聞いただけだ。しかも肝心のスネルスという今回の事件の首謀者は精神に異常をきたしてしまっていてまともに証言が出来ないようだしね」
スネルスはショックのあまり一時的に呆けていたのではなく、本当に心を壊してしまったらしい。
「でも逆に何か証拠があれば警察はグリーゴウ商会に踏み込めるわけですよね」
「それはそうだが。まさか君達、余計なことを考えてはいないだろうね。確かにグリーゴウ商会のやっていることは看過できないが、我々ギルドはあくまで何でも屋のようなもので捜査機関でもなければ正義の味方でもない。そのことは忘れないでくれよ」
二人が何かしない様にジョシュアは釘を刺す。
どんな相手にも公平に対応することが原則のギルドとしては、警察の領分に手を出す訳にはいかない上にあくどい商売をしているとはいえ、一民間企業であるグリーゴウ商会と事を構える訳にはいかないからだ。
「分かってるさ。俺達はもうグリーゴウ商会絡みの依頼には手を出さない。それでいいだろう」
ジョシュアとしては誰もやりたがらないグリーゴウ商会絡みの依頼を、面倒な依頼を片づけると紹介状に書いてあった二人に回していきたかった。
しかし、無関係を主張しているとはいえ、逮捕者まで出して完全にグリーゴウ商会に睨まれたであろう二人に依頼を任せるのはさらなるトラブルの火種となる可能性が高い。
「分かった。それでいい。ただし、他の面倒な依頼を回してもいいかな?」
「それは構わないが、2,3日は休ませて貰うぜ。流石に疲れたんでな」
それで構わないと言うジョシュアの言質を取った二人は、支部長室を出てギルドを後にした。
「支部長、あれで良かったのですか?彼女たち、絶対に何かやらかしますよ」
「ああ、それは分かっているんだが、ギルドとしてワーカー自由を奪うことは問題になるからどうしようないさ」
諦め気味にジョシュアはため息を吐く。何故だか有能なワーカーは個性が強いものが多い。彼女達もその部類なのだろうと一人ジョシュアは納得する。
納得はしたとはいえ、厄介なグリーゴウ商会の対策を考えなければいけない上に、ニックとアスモという爆弾コンビ抱えてしまったジョシュアの胃への負担は計り知れない。
有能な秘書であるファロンはそっとエルフ秘伝の胃薬を用意した。
「さて、これからどう動くとするか」
「まずはミリオネアストリートに行ってマモンの屋敷の下見に行きませんか?」
「そうだな、どうやってパーティーに潜り込むかも考えないといけないしな」
二人はギルド前のバス停からバスに乗って住宅区へと向かった。幸い、ミリオネアストリートはバスの路線に入っていたので、あっさりと着くことが出来た。
バスを降りた二人が見たのは、一般の住宅とはまるで違う豪邸が立ち並ぶ通りだった。どの家々も立派で、建物が豪華なのはもちろんだが、庭もちょっとした庭園の様になっており、家というよりも小さな城と言った方が適切かもしれないほどだ。
「なあ、ここって本当に住宅区なんだよな。家っていうより城だぞこれは」
「私もここまでは想像していませんでしたわ。どうりで観光マップに載っているはずですわ」
他の国でもなかなか見ることが出来ない豪華な邸宅が並んでいるミリオネアストリートは半ば観光地と化しており、フリームの行政が作った観光マップにも載っているのだ。
普通ならば自分が住んでいる所が観光地になるなど不快でしかないのだろうが、ここに住んでいる多くの住人が商売人や政治家なので、寧ろ名前を売るのにちょうどいいと歓迎しているそうだ。
二人は豪邸が立ち並ぶ様に少し観光気分になりながら目的であるマモンの屋敷を探す。大まかな場所自体はスネルスを洗脳したときに聞き出していたので、見つけるのは簡単だった。
「ここの様ですわね。何というか、その、目立ってますね」
「だな、これ場所知らなくても特徴で一発でわかるんじゃねえのか」
二人が見つけたマモンの屋敷は、周りの屋敷に比べて浮いており、かなり目立っている。建物自体は他の家と変わらないのだが、金色で塗られた外壁が異彩を放っており、庭にある厳重に施錠されている大きな倉庫がより目立つ原因となっている。
「ザ・成金趣味の家だな。ここまでいくと最早芸術かなんかじゃねえのか」
「そうですわねえ、私は少々下品で趣味が悪いと思いますけどね」
いつまでも家の前で見ていて怪しまれてはいけないので二人は観光客を装いながら観察を続ける。
周辺の住人からも話を聞きながら調べた結果、色々と分かったことがある。
基本的に屋敷の主人であるマモンがいることは殆ど無いらしい。帰ってくるのは屋敷でパーティーを開くか大量の荷物を運び込む時くらいだそうだ。
警備の方も厳重で、屋敷の内外にかなりの数の警備員がおり、特に倉庫の方は蟻一匹出入りできそうに無いくらいだ。
「絶対あの倉庫何かあるよな」
「多分色々入っていると思いますわよ。それこそ武器から財宝まで何でも」
強欲のマモン、その二つ名の通り、本人も強欲で、どんなものでも自分が気に入ればいかなる手段を使ってでも手に入れるという周りからすればかなり迷惑な収集癖を持つ悪魔だとアスモが語る。
語る本人も地獄にいた頃何度かマモンの収集癖のせいで迷惑したことがあるらしく、珍しく露骨に嫌悪の表情をしている。
「とりあえず屋敷とマモンの生活パターンはある程度分かった訳だが、いつ帰ってくるかもわからん奴をずっと屋敷に張り込んで待つってのも効率が悪いな」
「そうなるとやはり週末のパーティーに潜り込むのが正解でしょうね」
方向性を決めた2人は、作戦を考える為に午前中、ギルドに行く前に部屋を取っておいたワーカーズホリデーに一度戻ることにした。
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