第五話 情報収集開始ー⑨
兵隊達は躊躇なく目の前の変わった格好の少女と痴女のように露出の多いメイドに襲いかかる。
彼らとしては二人には何の私怨もなく、集団でたった二人の女を襲うというのは不本意だったのだが、商会に飼われている身としては素直に命令に従うしかない。
例え後味が悪くとも、二人を倒してそのまま店内になだれ込んでパーティーを滅茶苦茶にするという今日の仕事が終われば、その報酬で酒でも飲んで口直しをすればいいだけ、だからさっさと済ませようと考えた。
しかし彼らは直ぐに自分達の認識が甘かったことを思い知らされた。戦闘の男がニックに一撃で沈められたことによって。
「フン!子飼いの兵隊って言ってもこの程度の奴らか。ゴロツキ共とたいして変わらねえな」
「ニックさん、いくら何でもその言い草は失礼ですわよ。彼らが弱いのではなく、アナタが強すぎるんです」
アスモの言葉を、挑発と勘違いして勝手にプライドが傷ついた男達は激高し、二人を罵りながら再び襲い掛かる。
「あら?私何か失礼な事を言いましたか?」
本気で男達が激高している理由が分かっていないアスモは、ナイフで切り付けてくる男の手を掴むと男を投げ飛ばして地面に叩きつける。
「今のはお前が悪いぞ。あんなこと言われたら男のプライドは傷つくもんだぜ」
アスモに男達が怒っている理由を説明してやりながら、ニックは角材を振りかぶった男の懐に飛び込み、股間に膝蹴り入れる。
「そういうものですか。以後気を付けますわ。皆様失礼な事を言って申し訳ありませんでした」
丁寧に謝りながら相手の鳩尾に肘鉄をめり込ませるアスモにニックは少し引いた。
「やっぱりお前は悪魔だな」
「あら、失礼なこと言わないで下さい。私は堕天使ですわ」
似たようなもんだろと言いながらアッパーでまた一人ニックは倒す。
「お、お前たち!たかが女二人に何をしているんだ!」
強力な兵隊を連れてきて自信満々だったスネルスの顔がまた、見ているこちらが可哀そうになるくらい青ざめていく。
「ニックさん!なんといいますか、私色々と溜まっているので路地裏で一人くらい頂いてもよろしいでしょうか!」
戦闘中のアスモの謎の許可申請に一瞬ニックは何のことだか分からなかったが、直ぐに何を言いたいのか理解して答える。
「いい訳あるかああああ!何考えてんだお前はよお!仕事中なんだから真面目にやれ!」
残念そうにアスモは首を絞めて確保していた男をそのまま占め落とす。
そんなアスモを見て、ニックはため息をついて自分のパートナーがこんな奴で大丈夫かと悩む。
その様子を油断だと勘違いした別の男がナイフでニックを刺そうとするが、あっさりと躱され、ナイフを持った手を両手でがっちりと伸びた状態で固定されたところを膝を使ってバキリと折られる。
結局ニックが腰の2丁の得物を抜くまでも無く、スネルス自慢の兵隊達は倒された。先日よりもさらに戦力を整えての襲撃にもかかわらず、大敗を喫したスネルスはその場で膝から崩れ落ちてしまった。
「お前さんの自慢の兵隊も全員俺達が倒しちまったが次はどうする?お前がやるか?」
崩れ落ちたスネルスを見下しならニックは問いかけるが、ブツブツと独り言を言うだけで返事は帰ってこない。
「この仕事を成功させれば私もついに幹部だったのに。何故こんなことに……」
ニックが肩を揺さぶるがそれでも独り言をブツブツ呟くだけでこちらにリアクションは返ってこない。
「何故だ何故だ何故だ何故だ、これではマモン社長に取り立てて貰えない」
マモン、その名前にニックとスネルスのやり取りを見ているだけだったアスモが反応する。
「マモン、今あなたマモンと言いましたね!彼女を知っているのですか!」
自分を押しのけてスネルスを問い詰めるアスモに、ニックは戸惑う。
「おい、マモンってのは何者なんだ?まさか……」
「そのまさかです。強欲のマモン、地獄から抜け出した大罪の一人です」
ニックの目の色が変わり、アスモと一緒にスネルスを問い詰めるが、完全な敗北のせいで精神をやってしまったのか、何の情報も聞き出せない。
「仕方ありませんね。私の質問に全て答えなさい!」
アスモの深紅の瞳が花火の様に一瞬の輝きを放つ。するとブツブツと独り言を言いながら明後日方向を見ていたスネルスの瞳に紅い光が宿る。
「分かりました、質問をどうぞ」
急に素直になったスネルスにニックが驚く。
「アスモ、こいつになにしたんだ?」
「私の魔眼で洗脳しました。この眼を使えばどんな相手でも洗脳できますし何だったら記憶だって消せますから」
「そんな便利な能力を持ってんならさっさと使えよ」
「変に力を使っては面倒ごとに巻き込まれかねませんからね、こういうのはここ一番というところで使わないと」
確かにそれはそうだと納得したニックに、新たな疑問が湧いてきた。
「なあアスモ、その眼って記憶も消せるって言ったよな」
「ええ、そうですけどそれが何か?」
ニックに脳裏に最悪の可能性が過ぎる。出来ることなら聞きたくは無い。だが、これは確認しておかなければいけないことだと意を決してニックは口を開く。
「お前、俺にもその魔眼とやらを使ったことはあるのか?」
ニックの絞り出すような声の質問にアスモは少し沈黙してから答えた。
「嫌ですわニックさん、大切なパートナーのあなたに使う訳ないじゃないですか」
「じゃあ今のは間は何だったんだ!絶対何か後ろめたい事がある奴の反応だったぞ!」
アスモは追及されても笑って胡麻化そうとするが、その態度がニックの不安を刺激するようで、スネルスそっちのけでアスモの服の襟を掴んでぐわんぐわん揺らして問い詰める。
「ニックさん落ち着いてください!私はあなたのような強情な方は性の快楽にハマらせて徐々に私好みに染め上げるのが好きなんです。だから洗脳なんて無粋な真似はしませんから安心して下さいな」
安心しろと言われても結局自分の貞操が狙われているのには変わりないので何も安心出来るない。
この先もっとワーカーとしてのランクが上がって今より稼げるようになったら絶対に宿の部屋は別々にしようとニックは固く心に誓った。
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