第四話 都会へ行こうー④
ニック達の大捕り物から数時間が経った。車窓から見える太陽が沈み始めた頃、車内にアナウンスが流れる。
「皆様、大変長らくお待たせいたしました。当列車、アレイク湖駅発フリーム駅着はもうまもなく到着いたします。お降りの際はお忘れ物が無いようお気を付け下さい」
アナウンスを聞いた乗客たちは皆、降りる準備を始める。
二人も降りるために席の上の荷物置きから旅行鞄取り出す。旅行鞄と言っても二人の荷物は替えの下着や服ぐらいのものなので小型の物だが。
そうこうしている内に列車はホームへと滑り込み、各車両のドアが全て解放される。
「ようやく着いたか。朝からの馬車も入れてずっと座りっぱなしだったからケツの肉が取れちまいそうだ」
「でしたら今晩の宿に着いたら私がマッサージをして差し上げますわ」
息遣い荒くニックの臀部を凝視しながら空気を揉むアスモにニックの下段蹴りが炸裂する。
「子供の教育に悪いことしてんじゃねえ!」
「すみません、もうしないので脛は止めてください脛は…」
しゃがみ込んで脛を摩るアスモは涙目だ。そんな二人の夫婦漫才にすっかり慣れたのか、アシュリーと母親は笑っている。
ニック達が捕まえた強盗達は、列車から連絡を受けた駅員が呼んだ警察にホームで引き渡された。
前回の馬車強盗の経験から、警察署に呼ばれて事情聴取を受けるかとニックは思っていたのだが、長旅で疲れているだろうからと今日の所は登録証を控えられただけで済んだ。
明日、改めて警察署には来るように言われたが、疲れているニック達にはそれでもありがたかった。
改札から出ると、日が暮れているというのにも関わらず、昼間の様に明るく、人で溢れかえる街がニックの目に飛び込んでくる。
「おいおい、もう夜だってのにどうなってんだよこの街はよぉ」
「眠らない不夜の街と言われているそうですわよ」
タルゴーラム国首都フリーム、この街は国の政治の中心であると共に経済の中心地でもある。
元々この国は王政であったのだが、約100年程前に腐りきった王家と貴族達に耐えかねた市民たちにより革命が起こり、民主主義国家へと変わった。
長い間特権階級ばかり優遇する法律と重い税に苦しんできた国民達によって選ばれた議員達は経済発展を優先する法律を次に次に打ち出し、税も最低限の国家運営が出来るだけのものに止め続けた。
そのおかげか、周辺国家からも多くの商人が集まり、商業を中心にタルゴーラムは飛躍的に発展を遂げた。
中でもフリームは国の中心地として、人だけではなく多くの物や技術も集まる地となり、大陸全土の中でも1,2を争うほどの先進都市となったのだ。
「おいアスモ、馬が引いてねえ馬車が走ってるぞ!」
ニックが指さす先には、全体が金属で作られている馬車が馬無しで走っている。
これは石油資源の代わりにマナクリスタルで走っている自動車で、この世界では魔動車と呼ばれている。
開発されて間もない最先端の技術で作られている為、ニック達がいたハジュリのような地方ではまだほとんど見られない物なのだが、フリームではすでに富裕層が自家用車を所有していたり、国営のバスの路線が街中を血管の様に走っている。
他にもハジュリでは見かけなかった物が沢山あり、ニックは少し興奮気味に辺りを見回している。
「ニックさん、田舎から出てきたお上りさんみたいで恥ずかしいですから少し落ち着いて下さい」
そうは言いつつもアスモはニックの様子を楽しそうに見ている。
「お二人はフリームに来られるのは初めてなのですか?」
「ええ、そうなんですの。しばらくこの街の支部で厄介になろうかと思っておりまして」
「でしたらこのちょうど良かったです。実はうちの主人は……」
「アシュリー!クレア!大丈夫だったか!」
駅の出入り口で話していた4人にスーツ姿の長身の男が血相を変えて駆け寄ってきた。
「お父さん!ただいまー!」
ニックにベッタリだったアシュリーは男に抱き着くとそのまま抱っこされた。
「アシュリー、どこも怪我はしていないか!怖かっただろう、ごめんなあ肝心な時にお父さんがいなくて。クレア、お前も何ともないか?」
「ええ、何ともないわジョシュア。この方たちが守ってくださったから」
ジョシュアは娘を下ろすと、ニックとアスモに握手を求めてきた。面倒そうにするニックに変わりアスモが握手をする。
「君達が強盗達を一瞬で確保したというワーカーだったんだね。娘と妻を助けてくれたこと、感謝する」
「いえ、気にしないで下さい。当然の事をしたまでですから」
「それにしてもそれほどの腕があるワーカーを私が知らないとは。今までどこの支部で仕事を?」
「ハジュリですわ。と言ってもワーカーになったのは一月前ですけど。ジョシュアさんはワーカーギルドの方なんですか」
アスモの疑問に、クレアが自慢の夫の役職を答える。
「うちの夫はフリームの支部長なんです」
ジョシュアは謙遜なのか照れ隠しなのか、頭を掻きながら大したことは無いと言う。
「これは失礼しました。これからしばらくお世話になります」
頭を下げるアスモに頭を押さえられてニックも強制的にお辞儀をさせられる。
「そんな、頭を上げて。こちらとしても腕の立つワーカーがうちで仕事をしてくれるのなら大歓迎なのでね」
ジョシュアによると、他の都市に比べて人口が圧倒的に多いフリームでは、依頼もその分毎日大量に発生するのでそれを捌くのに苦労しているそうだ。
本来、アレイク湖にあるクレアの実家に一緒に里帰りするはずだったそうだが、あまりの忙しさに休みが取れず、同行を断念した程なのだと言う。
親子が無事の再開を喜んでいると、綺麗なシルクのような艶のある金髪をアップサイドに纏めたスカートスーツの女性が、ハイヒールを鳴らしながらこちらに詰め寄って来た。顔はかなり怒っている。
「支部長!やはりこちらでしたか。奥様とお嬢様の事がご心配なのは分かりますが、仕事をほったらかして逃げないで下さい!」
「ファロン君、そうは言っても家族が強盗事件に巻き込まれたんだよ。しょうがないじゃないか」
「だからってトイレに行くフリをして脱走しないで下さい!」
「うちの人がまたご迷惑をお掛けしてしまってごめんなさい、ファロンさん」
ごめんさない、とクレアと一緒にアシュリーも謝っている。
「奥様とお嬢様はお気に為さらないで下さい。さあ、支部長!仕事に戻っていただきますよ!」
せめて家まではとせがむジョシュアは、無慈悲にも支部の所有する車に乗せられ、ファロンに連行されていった。
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