第三話 新たな武器ー③
外に飛び出たニックは瞬時に状況を把握する。馬車は強盗達に完全に包囲されており、アスモは怯えて震える御者を庇うようにファイティングポーズを取っている。
「アスモ、大丈夫か!」
「大丈夫ですわ。ただニックさん、お客様がいらっしゃったので楽な仕事じゃなくなりましたわよ」
「いいさ、こいつの初陣だ」
ニックはベルトに挟んだショックウィップを抜きはらい、地面に叩きつける。
「テメエら、全員とっ捕まえて懸賞金に変えてやるぜ!」
ニックが啖呵を切るが、それを見た強盗達は笑いだす。
「嬢ちゃんバカ言っちゃいけねえよ。俺達を捕まえるなんざ10年は早いぜ」
「そいつはどうかな!後俺は女じゃなくて男だ!」
ニックは手近な強盗のナイフを持つ手首に鞭を巻き付ける。
油断していた強盗は腕に突然の衝撃を受けたせいでナイフを落とした。
それでもニックの体格を見て、力勝負で簡単に勝てると思ったのか鞭を手繰り寄せようと掴む。ニックはその瞬間、トリガーを引くと鞭に閃光が走る。
「アビャビャビャビャーーー!」
強力な電流を流された強盗は奇妙な悲鳴を上げてその場に崩れ落ちた。
「おもしれえなこいつは!威力も悪くねえ。さあどんどん掛かってこい!まとめて料理してやるぜ!」
ショックウィップの性能に凶悪な笑顔を浮かべて喜ぶニックにアスモが残念そうな顔をする。
「ニックさん、折角の可愛らしい顔が台無しになってますわよ」
でもこのギャップもこれはこれで悪くないとよだれを垂らすアスモに強盗がナイフを振り上げ襲い掛かるが、躱したアスモに背後から首筋に手刀を叩きこまれて気絶した。
「や、やべえよ親分!こいつらメチャクチャ強い!」
リーダー格の体格の良い男の元にニック達の想定外の実力に怖気づいた子分たちが集まっていく。
「グダグダ言ってんじゃねえ!所詮は小娘二人だろうが!俺様の子分にこの程度のことで尻尾まくような奴はいらねえ!逃げるってんならこの場でぶっ殺すぞ!」
リーダー格の一喝により、弱腰になっていた子分たちがやけくそになりながらニック達に襲い掛かる。
「アスモ、お前は手を出すなよ!こいつらは俺の獲物だ!」
ニックは自分から襲い掛かる強盗達に向かっていき、鞭を振るう。
鞭が風を切り、閃光を放つ度に強盗たちは間抜けな声を上げ倒れていった。
「後はデカイの、お前だけだな!どうする、こいつらみたいに間抜けヅラ晒して地面にキスしたくなけりゃあ大人しくお縄につきな!」
「生意気言うなよ嬢ちゃん!大人をなめると痛い目会うぞ!」
リーダー格の男は腰からマイアワンドを素早く抜くと、ニックを威圧したいのかこれ見よがしに腕を伸ばしてワンドを突きつけようとする。
だが、彼のワンドから何かが放たれることは無かった。
ニックが振るった鞭がワンドに絡みつきワンドを取り上げたのだ。
「得物を抜いたらさっさと撃てよ、マヌケ」
ニックは取り上げたワンドを上に投げてはキャッチするを繰り返して男を煽る。
小娘に煽られて怒りが頂点に達した男はナイフを無茶苦茶に振り回しながらニックに突進する。
「フン!仕事中に癇癪起こしてやけっぱちになったらお終いだぜ」
突進してくる男をニックはひらりと躱し、すれ違う瞬間に足を引っかける。
盛大にこけた男の上に鞭を垂らして電流を流して気絶させた。
「ほい、一丁上がり。手ごたえもクソもねえな」
「こちらも終わりましたわよニックさん」
手を出すなと言われたアスモは、流石に何もしないのもどうかと思ったのか、ニックが気絶させた強盗達を縛って回っていたようだ。
「捕まえたはいいがこいつらどうしたらいいんだ?馬車に乗っけていくわけにもいかねえしなあ」
「あら、それでしたら心配いら無さそうですわよ」
アスモの視線をニックが追うと、馬車に取り付けられた小さな筒から赤い煙が立ち上っていた。
「あれは馬車に何かあった時に助けを呼ぶための発煙筒というものだそうですわ」
ニックが戦っている間に御者が使ったらしい。
しばらくその場で待っているとさっきすれ違った警察がやってきて犯人の引き渡しと簡単な事情聴取が始まった。
事情聴取の途中、時間的にこのままではパーティーに間に合わなくなるとシフクトが言い出した。
流石はやり手の商人だけあってシフクトの巧みな交渉により、後日警察署に行くことを条件に一行は解放された。
御者と馬の奮闘のおかげで何とかパーティーに間に合ったシクリアス家が会場である豪邸に消えるのを見届けて、二人はようやく一息つくことが出来た。
「とりあえず半分仕事は終わったな。二日連続で鉄火場とは流石に疲れるぜ」
「お疲れ様です、ニックさん。パーティーの主催者の方が御者や護衛の為の休憩室を用意してくれているそうですから少し休めそうですわよ」
休憩室に移動した二人は、用意されていた軽食をつまんだ後、長椅子に座ってパーティーが終わるのを待った。途中、ニックは退屈と睡魔に負けてしまい、意識が途切れてしまった。
「う……む、眠っちまってたのか」
「おはようございますニックさん。ちょうどいいタイミングで起きられましたね。パーティーもお開きになって少しずつ来客の方が返り始められたみたいなのでそろそろ私たちも呼ばれる頃ですわ」
「一つ聞いていいか?俺はなぜお前に膝枕されているんだ」
「椅子でおかしな姿勢で眠っていたのでこちらの方が安眠できるかと思いまして。後私の癒しの為ですわ。寝顔、とっても可愛らしかったですわよ」
普段の彼なら怒るところだ、寝起きでまだ意識がぼんやりとしているニックはそれで納得したのか、そのまま起き上がる。
椅子に座り直して目をこするニックにアスモが気を聞かせてコーヒーを持ってきた。
そうこうしている内に、シクリアス一家が帰るらしく、御者と一緒に呼ばれた。
馬車に搭載されたライトのおかげである程度は視界が確保できるとはいえ、夜間の移動はリスクが多い為あまり褒められたものではない。
だが、シフクトは次の日にどうしても外せない仕事があるらしく、一行はハジュリへの帰路についた。
行きに強盗を捕まえたおかげか、警戒はしていたものの、帰り道は特に何事も無かった。
しかし夜間であまり馬車がスピードを出せなかったので、屋敷に着いた頃には日付が変わっていた。
「お二人とも今回は本当にありがとうございました。お二人がいなかったらどうなっていたことか。またご縁があれば是非よろしくお願いします」
「私たちはしばらくこの街で仕事をするつもりなので何かありましたらいつでも指名依頼をしてください」
依頼者はワーカーを指名して依頼を出すことも可能なので、依頼終わりに自分のことを売り込んで次の仕事へと繋げようとするワーカーは多い。
「ええ、もちろんです。申し訳ないですが時間が時間なのでギルド方には朝になってから使いを送りますね」
ギルドにワーカーだけで依頼の完了報告をしても、虚偽の申請であってはいけないので受理されることは無い。
依頼主からの完了の知らせと合わせてワーカーはようやく報酬が受け取る事が出来るのだ。
「それで構わないぜ。俺も早くベッドに早く潜り込みたい気分だしな」
「ありがとうございます。それでは、ゆっくり休んでください」
一家に見送られて屋敷を後にした二人は、予め連泊で部屋を取っておいたワーカーズホリデーに向かった。
今回はアスモも長距離移動で疲れたのか、疲れているニックに流石に気を使ったのかは分からないが、ニックを襲うことは無かった。
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