第三話 新たな武器ー②
「何か良さそうな仕事はあるか?」
ギルドの掲示板に所狭しと張られた依頼表をアスモが吟味する。
ちなみに、依頼表から決められなければ、受付に相談すれば過去の依頼の達成実績や職能に応じて適当な依頼を紹介してくれる。
「そうですわねえ……手軽さだけなら迷子の猫探し、報酬額だけなら隣町までの馬車の護衛が一番高いですわね」
「えらく極端な二択だな。それじゃあ馬車の護衛にするぞ」
金が稼げて、荒事になればショックウィップを試すこともできて一石二鳥だと言うニックにアスモも賛同し、二人は依頼表を掲示板からはがして受付に持って行った。
「昨日はお疲れ様でした。今日はどうされましたか」
カウンターには昨日と同じ受付嬢が座っており、人懐っこい笑顔で挨拶してくる。
「こちらの依頼を受けたいのですが」
「かしこまりました。資料を持ってきますので少々お待ち下さい」
依頼表には依頼内容の簡単な概要と報酬額、そして依頼主の名前しか書かれていない。
そのため、依頼内容の詳細については依頼表を受付に渡すことで詳しい説明が受けられるシステムになっている。
「依頼の詳細についてですが、依頼主のシクリアス様御一家が隣町で開かれるパーティーに向かうための馬車の護衛です。先日、隣町との街道沿いに馬車強盗が起きたで一応念の為に、ということで依頼されたそうです。」
事件後、街道は警察が巡回の数を増やしたため今のところは強盗は鳴りを潜めている。
ただ事件が人通りの少ない夜間に起こったこともあり、警察は犯人の手がかりすら発見できていないようで、ギルドに協力要請が出されている。
この場合の協力とは、犯人の確保や、事件解決に役立つ情報を提供するとワーカーが警察から懸賞金を受け取る事が出来るというものだ。
「ちょうど戦闘が得意な方々が他の依頼で手一杯のようでどうしようかと思っていたんです」
普段、護衛のような実力と信頼が必要な依頼はニック達のような新人は受けることはできない。
ただ、今回は急な依頼だったことと実力のある武闘派のワーカーが他の依頼で出払っていたのが重なってしまい、昨日の調査依頼同様持て余していたらしい。
そこでギルドは依頼主に許可を得て新米のニック達でも引き受けられるランクに依頼を設定したそうだ。
「出発は明日の正午、直接屋敷に来て欲しいとのことです」
屋敷の場所を聞いた二人は、ギルドから出ると街を少し散策することにした。
ギルドでは依頼を二つ同時に受けることを一部を除いては認めていない。
つまり、明日の出発までやることが無いのだ。
日が暮れるまで町をぶらぶらした二人は、今日もワーカーズホリデーに宿泊した。
夜、案の定我慢しきれずにニックを襲ったアスモがまた簀巻きで一晩を過ごしたのは言うまでもない。
翌日、準備を整えた二人は遅れるよりはいいだろうと約束の正午より少し早めにシクリアスの屋敷を訪ねた。
早く到着したこともあり、一家の出立の用意にまだ時間がかかるとのことで二人は客間に通された。
何もしないのも手持ち無沙汰な二人は、お茶を持ってきたメイドから一家についての情報を仕入れることにした。
シクリアス家は代々続く商売人の家で、この辺りではかなり裕福な一族らしい。
現当主のシフクトは人格者としても有名で、人当たりの良い人物で商才もあるらしく、先代より受けついだ商会をさらに大きくしたらしい。
今回のパーティーも商人としてのパイプ作りをする為に出席するようだ。
「ご主人様はご息女のメイア様をとてもかわいがっておられるんですよ」
必要な情報は聞きだしたというのに、話好きのメイドがどれだけ幸せそうな家庭かを熱弁しだし、ニックがうんざりしはじめたところで別のメイドが一家の用意が終わったことを知らせに部屋に入ってきた。
メイドに案内され馬車の元に行くと、依頼主である三人の家族達が待っていた。
「私はこの家の主でシフクト・シクリアスといいます。今回は依頼を受けてくださり感謝します。妻のレリアと娘のメイア共々短い間ですがよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いいたします。私はアスモ、彼女はニックです」
アスモの紹介に合わせてニックもハットをとり一礼する。
互いに挨拶が終わったところでニックは家族と馬車の中に、アスモは御者の隣に乗り、一同は隣町に向けて出発した。
出発してから小一時間程がたち、最初はかなり警戒していたニックとアスモだったが、馬車強盗が襲ってくる気配は無かった。
警察の巡回とすれ違ったこともあり、二人は少し気を緩めた。
馬車の中で暇を持て余していたメイアは、そんなニックの変化を素早く察知して話しかけてきた。
「失礼ですがニックさんは私と年が近そうですが何故ワーカーになられたんですか?」
娘の直球な質問に慌ててシフクトが娘を注意し、ニックに謝罪させようとさせるが、ニックが手をあげそれを制止する。
「別に特別な理由なんかないさ。何をするにも金が要るから稼がなくちゃならない、それだけの事だよ。後な、その可愛い目に映ることがすべて正しいとは限らないぜ。例えば俺は見た目より年を食ってるかもしれないし、もしかしたら性別だって違うかもよ」
冗談を言ったと思ったのか少女は笑い、ニックも本当なんだがと言いながら笑う。
両親の方も実はニックに興味津々だったようで、ニックが話が分かる人間だとわかるやいなや次々と質問を浴びせていく。
ニックも相手が依頼主な手前無視するわけにもいかず、はぐらかしながらもそれに応じる。
ニックが一度馬車を止めてアスモと交代しようかと思い始めた頃、ニックの気持ちを察したかのように馬車が急停止した。
「一体どうしたんだ?おい、何かあったのか…」
御者に声を掛けながらドアを開けようとするシフクトをニックが止める。
外からはニックを呼ぶアスモの声が聞こえる。
「あんたらは馬車から出るな。俺が良いって言うまで絶対にドアを開けんじゃねえぞ」
自分が出れるだけドアを開けてニックが外に飛び出すと、外には覆面で顔を隠した男達が馬車を取り囲んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます