チタン

第1話

 午前4時、君が車のドアを閉めた。

 その瞬間、世界が真っ暗になった気がした。車内には照明が点いていたのに。

 そこに留まっていられなくて、逃げ出すようにエンジンをかけた。このまま朝を迎えたら、なんだか君と本当に終わってしまうような気がしたから。

 まだ助手席には君の香りが残っていた。


 フロントガラスに水滴が当たって弾ける。夜の街に雨が降り出したようだ。

 窓に流れていく街は人気ひとけがなくて、静かで。なんだか街全体が泣いているみたいだった。


 しばらく経つと、向こうの空から朝日が顔を出した。雨はどこから流れてくるのか、晴れた空に降り続いている。

 世界が朝焼けに包まれる。きっと君も今、朝日の下にいるだろう。

 思わず君の名前を呼んだ。けど、その声は街に残る夜の中に消えていく。

 それでもまた君の名前を呼んだ。名前を口にするたびに、君の表情を、仕草を思い出して唇が震えた。


 窓を流れていく街はさっきから泣き続けている。泣き続ける街を朝焼けが包んでいく。


 いつからこうなってしまったんだろう。


 雨に濡れて目の前がよく見えなかった。そういえばワイパーを忘れていた。

 いや、そもそも雨が降っているのに気付かないようにしていたんだ。それに気付けば、終わりを認めてしまうみたいだから。


 朝が僕たち2人を引き離していく。

 君の名前を呼んだ。その声は車内に虚しく響いて、消えた。

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チタン @buntaito

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