112.魔王は女子会をする

 えーっと……元魔王のルナです。ディさんからはルーと呼ばれています。


 なんだか今日は父……いえ、もう元父だと考えておきましょうか。


 そう、父だと思っていた存在が復活したり、ディさんの元お仲間さん達が合流したり、みんなで一緒に戦ったりと……怒涛の一日だったんですけど、まだその一日は終わらないようです。


 なんでしょうね。私の気分も一区切りがついたような感じでスッキリとしています。真実はどうであれ、ディさんの言葉なら信じられます。


 ちなみに私は今、竜族の女の子に手を引かれて歩いています。


 確かお名前はメアリちゃんでしたっけ? 尻尾と角が可愛らしい元気いっぱいな女の子です。


 私のすぐ横にはマーちゃんと、ディさんの元お仲間の魔法使いの女の子……プルさんでしたっけ?


 その四人で、どこか落ち着ける場所へと移動している真っ最中だったりします。


 それにしてもディさん、竜族の方とお知り合いだったんですねぇ。私も書物でしか知らない種族ですけど、凄いです。


 と言うか、あの人の事を竜王って言ってましたよね?


 竜王って……あの竜王? 竜族の王である竜王? いや、それ以外に竜王っていないのは分かってますけど。


 なんでそんな人と知り合いっていうか、一緒にお酒を飲む間柄になってるんですかね。


 私の疑問を他所に遠くからはディさんの笑い声や叫び声、泣き声など、色々な声が聞こえてきます。どれだけ盛り上がっているんですか。


 凄く強いですよね、あの竜王さん。それが気さくなおじさんみたいな感じで、一緒にお酒飲んでいる姿はちょっと意外です。


 私の手を引いているメアリちゃんもだいぶ強いです。繋がれた手から魔力がビシビシと伝わってきますね。


 竜族の魔力の波長って力強くて、こうして歩いているだけでも肌にビリビリ来ます。


 いや……これはメアリちゃんが元気いっぱいで、魔力を隠そうともしていないせいですかね?


『ルー様!! ルー様はディ様と一緒に旅をされてるんですか?! 私、羨ましいです! ディ様、かっこいいですよね!』


 凄く元気よく私の手を引きながら、メアリちゃんは全身で羨ましさを表現するように手を大きく広げて大声で叫びます。やっぱりビリビリ来ます。


 肌が痺れる様な感覚を味わいながら、私の手を引く彼女に笑顔を向けます。ディさんが褒められるとなんだか嬉しいですねぇ。


「そうですね、ディさんカッコいいですよねぇー。そんなに羨ましいなら、メアリちゃんも一緒に来ます?」


 私は言ってから気が付きます。


 もしかしてメアリちゃん……ディさんの事好きなんですかね? カッコいいって……あれ? もしかしてライバルですか?


 待って、マーちゃんだけでも強力なのにここで元気系のライバルってヤバくないですか?


 天真爛漫で可愛いですよ、この


 そんなことを考えていたら、元気だったメアリちゃんは私の言葉にほんのちょっとだけ寂しそうな笑顔を浮かべます。


『お誘いはありがたいですけど、私はご主人様と一緒にいなければならないので。お二人とも新婚旅行中ですし、色んなところに行くんですよぉ!』


 へぇ、竜に乗って新婚旅行とは豪気ですねぇ。行く先々の街で騒動になりませんかソレ?でもいい響きですよね、新婚旅行。


 幸せな響きです、新婚旅行。先ほどメアリちゃんは私を羨ましいと言いましたが、その響きはとても羨ましい感じです。


「はぁ……新婚旅行……新婚旅行ですかー。それなら私達とは一緒だとちょっとですかね」


「あら、ほんとに新婚旅行も兼ねて追ってきたんですのね。冗談で書いたんですけど、クロも思い切りましたわねぇ。私もディ様と結ばれたいですわぁ……物理的にも精神的にも……」


 ちょっとだけマーちゃんが肩を落としながらとんでもないことを口走ります。そんなこと考えてたんですか。


 ディさんと結ばれるですかぁ……。今更ですけどディさん、その辺りってどうするつもりなんでしょうね?


 マーちゃんは美人さんですし。胸は……私の方が大きいですけど、全体的なスタイルは確実にマーちゃんの方が上です。


 ライバルだって言ってくれたけど……本気で彼女がディさんに迫ったら私、勝ち目あるんでしょうか?


 ……まぁ、その辺は今は考えないようにしましょうかね。


 メアリちゃんの言葉に私がのんきに考えていると、横から魔法使いさんが唐突に声を出します。


 それは少しだけ憮然としたような声でした。


「まだ……結婚してない……」


「え? あれだけクロが嫁嫁言っていて? お揃いの指輪もしてるじゃありませんの? してませんの?」


 マーちゃんは不思議そうに首を傾げます。


 そう言えば……最初に自己紹介された時に「夫の予定」って言ってましたね。今思い出しましたけど。


 魔法使いさんは頬を染めながら、マーちゃんの言葉に静かにこくりと頷きました。


 なんか、物静かで可愛らしい人ですね。


 そう言えば名前もお聞きしてましたよね……プルちゃんって呼んでもいいんでしょうかね?


 そして、メアリちゃんは私と手を繋いだまま、小首を傾げながら頭に疑問符を浮かべていました。


『あれ? まだでしたっけ? でも、ほとんどしてるようなもんじゃないですか?』


「メアリ……適当なこと言わない……。結婚の約束はしたけど……するのはまだ……」


『あんなに毎晩イチャイチャしといて?』


「ま……毎晩なんてしてない……!! それに……結婚は……勇者とケリつけて……それからだから……」


『じゃあもうケリついたから結婚ですね!』


「そ……そうかもだけど……。それは……その……結婚とか……準備も色々あるし……」


 ゴニョゴニョと両手の指を合わせながら、魔法使いさんはもじもじとします。


 そこで私と目が合った彼女は、ハッと何かに気がついたような表情を浮かべて私に頭を下げてきました。


「さっき……簡単に挨拶したけど……改めまして。 ディの仲間……元仲間? 今も仲間のつもりだけど……。魔法使いの……ポープルです。よろしく……えっと」


 ポープルさんは改めてペコリと頭を下げて挨拶をしてくれます。先ほどプルって言ってたのは……あだ名ですかね? 私もポープルさんに頭を下げながら自己紹介します。


「はじめまして、ディさんの旅仲間のルナです。ルーって呼んで下さい」


「うん……ルー……よろしく……。私は……プルって呼んで……みんなそう呼んでる……」


「プルちゃんですね。……プーちゃんって呼ぶのは無しですか?」


「それはちょっと……恥ずかしいから……止めて……」


 嫌がられてしまいました。


 可愛くないですかねプーちゃんって呼び方? でも嫌なら仕方ないです。プルちゃんとお呼びしましょうか。


 互いに自己紹介を済ませた私とプルちゃんは、握手を交わします。


 そんな私達を、マーちゃんはジトッとした半眼で見ていました。


「随分と平和的ですわねぇ……。私の時はルーちゃん、私の事ボッコボコにしてから、仲良くなりましたのに」


「いや、ボッコボコにしてないですよね。お互い痛み分けでしたよね? それにあれはマーちゃんが私に襲い掛かってきたんでしょ……。まぁ、私も悪かったですけど……。すっごい怖かったんですからね」


「え……リム……またディの事で暴走したの……? ダメだよ……迷惑かけちゃ……」


 プルちゃんの呆れたような言葉に、マーちゃんはコツンと自身の頭を小突いてペロッと舌を出します。可愛いですけど、その姿にプルちゃんがますます呆れたように溜息をつきました。


 ……私は何も言って無いんですけど、どうやらマーちゃんが悪いとプルちゃんは判断されたようです。


 どうやら、魔王を倒す旅の最中も度々暴走と呼ばれる行動をしていたようですね。今の言い方から絶対にディさん絡みでしょうけど。


 確かにアレは暴走と言うにふさわしい光景でしたしね。いやほんと、すっごい迫力でしたもん。


 そんな雑談をしながら、私達はお祭り騒ぎの中に入っていきます。


『おぅ、姫!! ゆ……じゃなかった、プル様とお友達と一緒かい?! どうだい、串焼き持ってかねぇか?!』


『お姫! 酒もあるぞ! あ、でも飲み過ぎんなよ!! 姫が酒飲み過ぎて暴れたら止められるヤツなんてそうそういねぇんだから!!』


『姫さんにプル様!! 俺の料理も食ってってくれよ!! うめぇぞ!!』


 そんな感じで、メアリちゃんは料理を作っているおじさん達に次々声をかけられます。どうやら彼等は全員が竜のようです。


 ……竜が作った料理って……どんだけ凄い状況なんでしょうかコレ。


 竜以外にも兵士の方や一部の街の住人さん達がいらっしゃいます。酔っぱらっているからかあんまり気にせずに食べたり、竜の方と肩を組んでお酒を飲んだり、普通の宴会みたいな雰囲気です。


 もしかしたら、竜が来たという現実に対してお酒を飲むことで対応しようとしているのかもしれませんが。楽しそうなので良いですよね。


 あれ? でもなんかメアリちゃんよりプルちゃんの方がおじさん達に慕われているというか……。


 すっごいデレデレされてません?


 とうとう途中からは、プルちゃんに直接沢山のお料理を渡しています。


「……なんかプルちゃん、竜の方々に大人気じゃないですか?」


「ですねぇ……。なんででしょうか?」


 不思議そうに首を傾げる私達の背後から大きな声がかけられます。


『それはですね!! ご主人様みたいな大人しい系の女の子って竜族には皆無なんですよ!! だいたい男を尻に敷く肉食系しかいないので、おっさん達も含めて竜のオス共はデレッデレなんですよ!』


 いつの間にか私達の後ろに来たメアリちゃんが元気よく教えてくれます。……あ、ちょっと顔には青筋が浮かんでます。怒っているようです。


『もうほんとね……私の婚約者もご主人様にデレッデレでして。あの野郎、里を出る前にボッコボコにしてやったんですよ……!! だから今日はアイツはいません』


 手をゴキゴキと鳴らしながら、メアリちゃんは目を光らせ恐ろしい笑みを浮かべました。


 どうやら、先程のは思い出し怒りのようです。


 って……婚約者? あれ? さっきディさんの事をカッコいいって言ってませんでしたっけ?


「メアリちゃんは、ディさんの事は好きじゃないんですか? その……恋愛的な意味で」


『へ? 恋愛的な意味でですか? ……ディ様はカッコいいし好きですけど、恋愛対象としては見て無いですよ?』


「そ、そうなんですか? でも、羨ましいって……」


『ディ様達と旅をするって楽しそうだし羨ましいですよ! ご主人様たちはラブラブですから、肩身がちょーっと狭いし、父様と一緒だから自由に羽も伸ばせないですし……』


 あぁ、そういう意味だったんですね……。てっきり私、このもディさんが好きなんだと思ってましたけど、いらない心配だったようです。


 ホッと胸を撫でおろす私に、メアリちゃんはニヤニヤとした悪戯っぽい笑みを浮かべました。


『あぁ……私の事をディ様を好きなライバル出現だって思いました? 安心してください。ディ様に鱗があって、尻尾と羽が生えてたら恋愛的にも好きになってたと思いますけど、ディ様には鱗無いですから』


「鱗ですか……?」


『私、鱗フェチですから! それに竜族って基本的に他種族との間には子供が授かりづらいんですよ。さすがにディ様とはそういう関係にはなれないですねー』


 あっけらかんとメアリちゃんは答えます。


 その笑顔からはディさんに対する敬愛は感じ取れても、恋愛感情は微塵も感じ取れません。


 ディさんに鱗が生えてたら……。そっか、種族も違うなら当然嗜好とかも違うんですよね。


 マーちゃんも鱗のあるディさんを想像しているのか「……イケる!!」と小さくガッツポーズを取っています。


 うん、ブレませんねマーちゃんは。


 ……まぁ、私もちょっと良いかもと思った時点で同じですかね。


「みんな……話してないで……助けて……手伝って……!!」


 気が付くと手に大量のお酒や料理を持ったプルちゃんがフラフラとしていました。


 私達は慌ててプルちゃんに駆け寄って、大量のお酒や料理を分けて持ちます。


 いや、ほんとに山のようにもらいましたね。私達だけで食べ切れるかな? ちょっとだけ心配ですねぇ。


 それから、私達は適当に空いてるスペースを見つけるとその場に腰を下ろして、料理やお酒を広げます。


 今日はお疲れ様でしたとか、そんなことを言いながら四人で乾杯します。女子だけで集まってお酒を飲む……はじめての経験ですね。


 あ、これって女子会って言うんですよね? なんか、すっごいワクワクします‼︎


 そうして、みんなでお酒をグイッっと飲むと……。


『そういえばディ様って、夜の方ってどうなんですか?! お二人同時とか激しい感じです?! それとも一人ずつ優しい感じです?!』


 メアリちゃんが、いきなり爆弾を投下してきました。


 唐突なその話題に、私達三人は飲みかけたお酒を思わず吹き出しそうになるのでした。

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