90.勇者達は新たな町へ到着する

 レッドオーガの群れに出会い、それらは無事に全滅させることができた。


 そして、ノストゥルさんと一緒に風呂に入って正体がバレてから数日……。


 それからの旅は順風満帆……とはいかなかった。


 あれから俺達は何度も何度も何度も、魔物の群れに襲われた。


 レッドオーガ、ブルーオーガ、ハチ型の魔物の群れ、蛇やカエルなんかの爬虫類系の魔物……。


 どれもこれもが集団で襲ってきた。


 不幸中の幸いなのは、複数の種族が同時に襲ってくることが無かったってことくらいか。


 どいつもこいつも呪いの装備を身に着けたボスを筆頭に、俺達に襲い掛かってきていた。


 ルーなんかは研究材料が増えて喜んでいたのだが、戦う側としてはたまったものではない。


 まぁ、ルーも一緒に戦ったりしたからそれほど疲れたりはしなかったけど……正直、うんざりするくらいに魔物達が襲い掛かってきた。


 最初は鈍っていた身体にはちょうどいいかと思っていたけれど、こう続いてはちょうどいいどころではない。


 下手したら、全盛期より連続して戦っている気がする。


 ヘトヘトになりながらも、俺は少しでも体力を回復させるために馬車内で寝っ転がっていた。


 また次に魔物達が来た時にはすぐに戦える程度には体力は残しているが……とにかく少しでも休みたかった。


「……なんでこんなに魔物が寄ってきてるんだ? ノストゥルさん達は来るときは、魔物なんてほとんど現れなかったって言うけど……せいぜい1体程度だったって……」


「うーん……私とディさんがいるから……脅威を排除しようと近づいてきているんですかね?」


 え? ……この戦いの連続って俺達のせいなの?


 それなら何の文句も言えなくなっちゃうんだけど……。


「普通、野生の獣って脅威からは離れたりしない? なんでわざわざ近づいてくるんだよ……」


「獣じゃなくて魔物ですから。それくらいしか理由が思いつきませんし……。ほら、強い魔力を持つ存在とか魔物にとってみれば脅威でもありますけど、同時に近づかずには居られないというか……。光に群がる虫みたいなものですよ」


 そうなると確かにそうかもしれないけど……別に道中でそんな魔力を開放しながら移動なんて普通しないだろ……?


 ん? 魔力……?


「……ちなみにルーは今、魔力抑えてないの?」


「道中でゲットした呪いの装備を研究しながらですから、そこまで抑えて無いですよ。いやぁ、なんで魔物がこんなにいっぱい呪いの装備を持ってるんですかね?」


 そう……馬車の中には呪いの装備が今現在山のように積まれている。


 ルーが研究したいという事で、馬車に積めるだけ積んでるんだけど……割と車内が禍々しい雰囲気だ。


 まぁ、武器をそのまま放置しておくわけにもいかないから仕方ないよな。


 ルーは呪いの種類とかを研究したり、呪いの無効化を試したいんだとか。


 ちなみに、すでに何本かは壊したりしている。惜しげもなく壊してる。


 そして、俺はそこで気が付いた。


 呪いに対抗するためにルーは魔力を抑えて無いってことは……。


「……それって、もしかしてさ……ルーのせいで狙われてるって話にならない?」


 俺の言葉にルーはピクリと頬を引きつらせる。


 この中で一番魔力が強いのはルーだ。なんせ魔王二人分の魔力だからね。


 そしてそれを抑えずにいるならば……。


「ディさん……私の事を守ってくださいね」


 焦ったルーはうるうると目を輝かせながら両手を組んで、俺にわざとらしく庇護を求めるセリフを口にした。


 どうやら、全然そのことに思い至っていなかったようだ……。


 ……うわぁ……あとでノストゥルさんに謝っておこう……まぁ、少しだけ謎は解けたからいいか?


 いや、良くないな。


「はいはい……ちゃんと守ってやるから。とは言っても、今日からは研究禁止ね。予定よりちょっと遅れてるから、街までの到着には後二日くらいかかるんだからな」


「はい、ごめんなさい……。呪いの研究は止めておきます……。呪いの装備はまとめて結界に囲んじゃいますか。魔法の練習もお預けですねー」


 先ほどまでウルウルとさせていた目をすっかり普通に戻して、ルーも馬車内に寝っ転がった。


 ……ん? 魔法の練習?


「ルー……もしかしてだけど……旅の最中ってずっと馬車の中で魔法の練習してたの?」


「えぇ、呪いの装備を研究するだけじゃ飽きちゃいますし……。新しい本も無いですし……。せめて無詠唱の魔法を増やせるように魔法を練習してましたけど……」


「……絶対それも理由の一つじゃん、何やってんだよ……」


 ルーはそこでしまったという表情を浮かべた。


 本当に気づいていなかったようだ。


 うん、後でノストゥルさんには土下座でもして謝罪しないと気がすまなくなってきた。


「とりあえず、街についてからリムにこのことを報告して、お説教してもらうからな……」


「……そ!! ……それだけは……勘弁してください……」


「だめ、勘弁しない」


 それだけ告げると、彼女はがっくりとうなだれた。


 元魔王であるルーに説教できるなんて、現聖女であるリムくらいだろうな……。


 と言うか、こうしてみると年相応の女の子にしか見えない。元魔王ですなんて言っても、冗談だと思われそうだ。


 そして残った呪いの装備を結界で包んで、ルーが魔法の練習をしなくなると……途端に魔物の襲撃は少なくなった。


 今日も大量に来るかと身がまえていた騎士さん達も、ほとんど出てこなくなった魔物に首を傾げていた。


 ……いや、本当にごめんなさいうちのルーが。


 それから、街に到着するまでの残りの二日間は、完全に出ないとはいかないまでも、出くわす魔物の数は激減した。


 完全に出ないというわけではないけど、今まで集団だったのがだいぶマシになっていた。


 それでも、騎士さん達の話だと、来る時よりは数は多いそうだけど、減ったことで感覚はちょっと麻痺していた。


 本当に魔力に群がってたんだなあいつら……。


 そして俺は流石に罪悪感から黙っていられなかったので、ノストゥルさんには事情を話す。


 ルーも同じ気持ちだったのか一緒に謝罪した。


 ……彼は少しだけ顔を引きつらせていたけど、許してくれた。

 

「ま……まぁ、もしかしたら、街道に残っていた魔物を一掃できたかもしれませんので。念のため、街の兵に見回りを強化させてみます」


 そう言ってくれたのは幸いだ。


 ルーも謝罪してから、それからも連日風呂を作ってはみんなをもてなしていた。


 うん、謝罪の気持ちは大事だよね。


 余談だけど……。


 後日、街道周辺を捜索したところ、ルーに引き寄せられた魔物のせいで、街道周囲をひっそりと根城にしてた犯罪者集団がほとんど壊滅状態になっていたのだとか……。


 うん、結果論だけど良かったよ。


 これで普通の人とか町に被害が出てたらと思うと……謝っても謝り切れないところだった。


 それから旅は割と順調に進み……ニユースの街へと俺達は無事に到着した。


 門に門番がいるところや、その他の街の形なんかはアルオムの街とそう変わりは無い。


 ただ、規模がとんでもなくでかい。アルオムの倍くらいはあるだろうか?


「大きな街ですねぇ……」


 ルーがそんな声を上げるくらいだ。ポカンとしてる。


 俺達はノストゥルさんに先導されて、正面とは別な入り口から街へと入る。


 貴族用の入り口で、俺達はひっそりと彼等の住む家まで案内された。


 門番の人達は俺達の事を事前に聞いていたのか、笑顔で俺達を迎え入れてくれる。


「今日は、ささやかながら歓迎会を開きますので、それまでお部屋でゆっくりしてください」


 案内された屋敷もパイトンさんのモノよりもかなり大きく、高い建物だ。


 案内された部屋から街を見渡すと、とても大きな建物が散見している……。随分、発展しているようだ。


 これが帝国だと普通なのかな?


 アルオムの街は王国とそう変わりなかったけど……ここは今まで見てきたどの街とも違った感じがする。


「ディーさーん! 凄いですよー、お部屋も広くてー。久々にフカフカのベッドで寝られますねー」


 案内された部屋の中でははしゃいでいるルーがベッドの上で飛び跳ねていた。


 窓から街を見渡していた俺は、そっちを見てため息をつく。


 うん……なんで同室にしちゃうんだろうか。


 いっぱい部屋はあったし……別な部屋でもよくないかな?


 いや、決してルーとの同室が嫌ってわけじゃないんだけどさ。


「いいじゃないですか。馬車でも一緒だったんだから、今更でしょ」


 まるで俺の心を読んだようにルーがベッドに寝っ転がりながら、俺に対して首を傾げてきた。


 確かにそうだけどさ。諦めた俺は改めて窓から街を見回す。


 大きい……縦もそうだけど、横に大きい建物が多い街だ。


 情報産業で発展してたらしいけど、それが関係しているのだろうか?


「しかしまぁ……随分と大きな建物の多い街だよなぁ……。そんなに人が多いのかな?」


「面白いですよねぇ。落ち着いたら街の観光にでも行ってみましょうか」


「そうだなぁ、行ってみるか」


 俺の答えに嬉しそうに微笑むルーを見て、俺もちょっとだけほっこりする。


 ここんところ戦いの連続だったし、のんびりできなかったからな……そう言う機会もちゃんと作らないと。


「あぁ、そうだ。無事についたこと……リムにも連絡してやらないとな」


「そうですねぇ。それじゃあ二人でお話ししましょうか」


 それから俺達は、リムに通信水晶で街に着いたこと、道中であったことを告げる。


 もちろん、ルーはこってりとお説教を喰らったのだが、リムが気になる一言を漏らしていた。


『……そもそも、なんで街道にそんなに魔物が居たんですかね? 普通、街道って魔物がある程度倒されてから整備されるのに……まるで誰かが意図的に配置してたみたいです……』


 確かに言われてみれば……そうだよな。


 ふつうあんなに出ないよね、魔物。もしもそんなに出てたら、そもそもアルオムの街でも噂になってたろうし……。


 そんな噂は聞いたことが無かった。


『まぁ、ほとんど倒したようですし問題ないと思いますけど……私も調べてみますね』


「あぁ、頼んだよリム」


「マーちゃん、今度そっちの街と移動魔法で行き来できるか試しますんで。その時は、一緒に遊びましょうね」


『それは楽しみですね。私もそっちの街、行ってみたいですし。ルーちゃんだけディ様とデートとかズルいです』


 デートって……ただ二人で観光するだけなのに大げさな。


 俺達は、そのまま夕食まで三人で雑談をしながら過ごすのだった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る