25.騎士団長は後悔する
勇者達が魔王を倒し、戦いに勝利した。その報告を受けて王国は一時的に勝利に沸き立った。魔王の国は王国に降伏の意を示し、勇者の仲間達も帰還したことで、王国に亡命していた魔族達も戦いの終わりと先代魔王の死に安堵をする。
しかし、肝心の勇者が魔王と相打ちとなった報に国民は悲しみ、誰もがその死を悼んだ。そのためか勝利に沸き立っていたのも一時的で、国民達は大っぴらに勝利を祝う気持ちにはなれなかった。
そのため、生き残った勇者の仲間達は城で傷ついた身体を癒していると聞き、騒ぎ立てることなく日常を営んでいた。時が来れば国から大々的な催しと、勇者の追悼の儀式について発表があるだろうと考え、それぞれが思い思いに祝う程度に止めていた。
それから数日が経過したが……国から発表が何もない事を国民達が不審に思いだした頃……場内では重鎮たちによる会議が行われていた。
「どういうことだ……!? いったい……何があったというのだ!?」
声を荒げる国王の声に、周囲にいる人々は答えることができない。ただ黙って緊張した面持ちで目の前にある報告書へと視線を送っている。叫びたいのは誰もが同じで、いったい何があればこんなことになるのかと頭を抱えていた。
その場は王城にある大会議室……数十人はは入れるような空間に、豪奢だが落ち着いた雰囲気を放つ調度品や家具が並べられている。
その会議室には現在、王国内の重鎮たちが集まっていた。国王に始まり、宰相や大臣等の政務に携わる者たち、騎士団長などの軍務に携わる者、教会関係の宗務に携わる者など、多岐に渡っている。
王が声を荒げているのは、とある上がってきた一つの報告が原因だった。その報告は魔王の討伐に向かった勇者達の顛末について……当初は、目的であった魔王討伐を達成したという内容に胸を撫でおろし、戦いの終わりに安堵した。そのうちの何人かは、これで合法的に魔族達の領土を自国のものにできるとほくそ笑んでいた。
しかし、報告を読み進めるうちにその場の誰もが顔を曇らせる。その内容は、到底受け入れられるものでは無かったのだが、残念なことに覆せない事実として記載されていた。
「……勇者が魔王と相打ちとなり聖剣が消失……?! その上、新たな魔王が二人も現れ……それを勇者の仲間達が連れて来ただと?! 何がどうすればそんなことが起こるのだ!!」
力を入れすぎた手は震え、手に持った報告書を握りつぶす勢いで歪ませている。考えもしなかった事態に頭を抱えたいのはその場にいる全員の想いだった。魔王が二人……その事実に誰もが顔を青くしてる。ただ一人だけ、顔を青くしている理由は若干違うのだが、それに気づくものは誰もいなかった。
報告書は戻ってきた勇者の仲間達……戦士達の報告を基に作成されている。今は戦士達は、城の中に用意された特別な部屋で旅の疲れを癒している……という名目で、城内で生活をさせられている。
それは確かに労いの意味もあるのだが、勇者に何が起こったのか連日の聴取が実施されているため、すぐに話を聞けるようにとの意味合いも大きかった。
その連日の聴取で、戦士達は肉体的にはともかく精神的な疲労が相当なものとなっていた。彼等は現状をありのままに伝えているのだが、同じような意味があるのかないのかわからない聴取が続いている。
その聴取の中で、彼等は意図的に勇者が生存している可能性については言及しなかった。
それは、彼等が勇者の生存を信じ切れていないからではなく、勇者が生存しているが戻ってこれない理由が王国自体にあると言う可能性を考えての事だった。それに加え、連日の聴取で勇者自身よりも聖剣の行方の方が気がかりだと言わんばかりの態度を見せつけられ、王国自体に不信感を持ったというのも大きかった。
そんな勇者生存の可能性があると知らない王国の人間達は、報告書を前に苦悩する。
ただ一人だけ、騎士団長だけはその報告書の内容を前に秘かに安堵していた。報告書では勇者が相打ちとなり魔王の城が消滅、魔王と勇者、聖剣は消滅したと記載がある。直接本人から報告は受けていたが、勇者の計画が無事に達成されたという事だった。
しかし……報告書の内容から何故に魔王と一緒だったのかは結びつけることができず、結局何が起きたのかは伺い知ることはできなかった。
(……もう何をしても勇者には勝てないな……。……しかし……何をどうやったら城が消えるんだ? もしもこの力が国に向いてたら……僕は本当に戦犯だな……)
表情には出さずに内心で戦慄しつつ、己の愚かさを改めて自覚した。自身の行動が原因で勇者が国に敵対していた場合……。それを考えて背筋が冷たくなるのを自覚する。
「……新たな魔王が二人とも降伏の意を示し、王国に保護を求めてきているのが救いかと。魔王の国とは、かつて同盟を結んでいたのですから、その時に戻ると思えばそう悪くはない話です」
表面上は冷静な宰相が、王へ目線を送る。ほんの少しある前向きな材料ではあるのだが、それでも魔王と言う存在がいるのに勇者……そして聖剣を失ったというのはどう考えても痛手だった。
それでも、前向きと思える情報を聞いてほんの少しだけ落ち着いた国王は、報告書を机上へと戻すと自身の額に手を当てて頭の痛みを少しでも緩和しようとほんの少しだけ力を込める。
実際には魔王は三人いるのだが、それを知るのは騎士団長のみである。もしもそれが知れ渡ったら、逃げ出す人間もこの場から出てくるかもしれない。言うつもりは無いし、そもそも口に出すことができない情報を持ちながら、騎士団長はこの会議に参加し続けなければならない己のことを内心で呪う。
「……聖剣はどうなったのだ……伝承では勇者が死んでも……聖剣は台座に戻ってくるのではなかったのか…?」
国王の呟いた言葉に反応したのは、汚れ一つない真っ白い布に、金色の糸で複雑な刺繍がされた祭服を身に纏った初老の男性だった。一目で教会関係者であるとわかる男性は、報告書を前に苦渋の表情を浮かべていたが王からの問いかけに無理矢理に笑顔を浮かべて応対する。
「そのような伝承は残っておりますが……記録の残っている限り過去の勇者様達は全て生きて帰還し、聖剣を再び台座に収めていますので……何とも……。」
祭服同様に真っ白いハンカチで額の汗を拭いながら、王が再び激昂しない様に慎重に言葉を選びながら回答するが、その回答に国王は悔し気に歯噛みする。同時に、先ほどまで声を荒げていた自身を少し恥じて、努めて冷静に対処をしようと自身の先ほどの言動を反省する。
その国王に対して、騎士団長が口を開いた。
「聖剣は勇者を選びますが……実体のある武器には違いありません。仮に伝承が真実でも、消滅してしまえば戻ることも不可能かと……。」
「……そもそも、お主が聖剣に選ばれていれば……魔王と相打ちなどと、不甲斐ないことは無かったのではないか?」
騎士団長のその言葉に反応したのは、軍務を取り仕切る大臣だった。騎士団長も親交が深く、自身も剣を扱える騎士団上がりの大臣である。その彼の勇者が不甲斐ないと貶めるような言葉に、騎士団長は不快感を感じる。
「討伐された魔王は歴代から見てもかなりの力を持っていたとの情報です。過酷な旅を経験した勇者が相打ちになったという事は、仮に私が選ばれたとしても同様の結果で、聖剣の消滅は避けられなかったでしょう。」
不快感を表に出さない様に、努めて平静を装って騎士団長はその言葉に応える。ただ、内心では自分自身への過大評価に羞恥を感じていた。勇者は魔王と相打ちになどなっていない。それどころか、魔王に勝利しその命を助ける余裕すらあったようなのだ。魔王に対しそこまで圧倒できる実力を身に着けた勇者……仮に自身が選ばれたところで、そこまでの境地まで行けるかどうか……。
……実際には城を破壊したのは勇者と魔王の共同であるし、魔王を圧倒したわけではないのだが、結果だけしか知らない騎士団長の勇者への評価は相当に高いものとなっていた。
だからこそ、次の軍務大臣の言葉は許せるものではなかった。
「そうか……ならば、死んだ勇者が一介の兵士上がりだというのは幸運だったな。お主に死なれていては王国の損失だが、兵士が死んでも……」
大臣はその言葉の先を言うことができなかった。騎士団長が怒気をはらんだ視線で大臣を睨みつけたからだ。その迫力に周囲の大臣たちが恐れおののくが、当の睨みつけられた軍務大臣は涼しい顔で、その視線を真正面から受け止める。
「陛下の御前だぞ、その殺気を収めないか。」
「……申し訳ありません。彼は私の弟子であり、友人でしたので。それに……勇者を失ったのです。損失は甚大だとお考え下さい」
「……そうだな、すまなかった。お主の友人を侮辱するつもりは無かった。今の発言は撤回し、謝罪しよう。」
即座に軍務大臣が謝罪したことで騎士団長はその怒りを即座に引く。同時に、心の内で自身の発言の白々しさに嫌気がさしていた。
(……彼を裏切った僕が、恥ずかしげもなく彼を友人と呼ぶなんておこがましい。怒る資格すらないというのに。本当に、僕は何をやっているのだろうか)
騎士団長の後悔に周囲は気づかず、彼の怒りが即座に収まったことで戦場に立ったことが無く、殺気と言うものに慣れていない者たちは胸を撫でおろした。
軍務大臣は騎士団長から国王の方へと視線と移動すると、その頭を下げる。
「陛下、申し訳ございません。今の騎士団長の行動は私の責任です。処罰については……」
「良い……そんな些末事は。聖剣が無くなり、魔王が二人……この状況を解決する方が先決だ」
国王は頭を押さえながら軍務大臣の言葉を退けると、そのまま会議の進行を優先する。その言葉に、軍務大臣はそのまま食い下がることなく、一礼だけをして発言を終了した。国王にとっても騎士団長が勇者に選ばれなかったのは誤算の一つだったため、そこをあまり掘り下げられたくはなかった。
そして会議は仕切り直されて継続となるのだが、誰もが最初に口を開くのを躊躇いがちにしていた。このままでは無為な時間が流れるのだが、有効な提案がしにくい雰囲気となってしまっていた。そんな雰囲気の中で、最初に口を開いたのは宰相だった。
「……やはり、聖剣が消失したというのが他国に知れ渡る前に、魔王殿の国と同盟を改めて結ぶのが宜しいかと。魔王殿の力があれば、聖剣の消失が他国に知られても牽制できます。ですので、将来的に敵対するような真似は避け、できる限り対等な条件で同盟を結ぶのが良いでしょう」
「それしかないか……我々は勝ったのではなかったのか……これではまるで敗戦国のようだな」
通常であれば戦争等に勝利した場合は、戦勝国は敗戦国に対して有利な条件を提示してそれを呑ませることが可能だ。今回の魔王討伐についてもそれは同様であり、降伏している以上は魔王の国を自らの国の統治下とするか、有利な条約を提携することも可能である。相手国を根絶やしにするまで殺しつくすなどは一昔前はあったかもしれないが、現在では非常に稀な事だった。
しかし、今回はあからさまに不利な条件を提示して魔王達と将来的に敵対するような事態は避けなければならなかった。
聖剣が消失したことは、歴史的な遺物を失ったという事実もさることながら、一つの強力な兵器を失ったことと同義とも言える。勇者がいなくても、ただ聖剣があるだけで周辺国への牽制となっていた物が無くなったことから、軍務の弱体化は否めなかった。
そのため、周辺国からの非難は避けられないだろうが……非難するだけならまだ良い方で、この機に王国に敵対するような他国から侵攻されないとも限らない……。
周囲の人間はその案に渋い顔をするが、現実的に有効な案は思い浮かばずにいた。その中で、騎士団長だけが宰相のその案に肯定的な意見を発する。
「……私も宰相様の案に賛成です。今ここで魔王達と敵対する可能性は極力無くすべきです。友好的に接し、あちらの国の立て直しに協力的とすることで、武力面で魔王と言う存在を味方につけるべきかと。……情けない話ですが、私では魔王二人を向こうに回して勝利をする自信はございません」
勇者から頼まれたこともあり、魔王の国に対して有利となる発言をするつもりだった騎士団長は、ここにきての宰相の案に全力で同意することとした。勝てないというのも本心ではあるが、あえて口にすることで武力的な脅威であることを周囲にアピールする。
騎士団長からの勝てないという言葉に周囲はざわつく。先ほどの騎士団長の殺気に涼しい顔をしていた軍務大臣ですらが渋い顔をしていた。
そして、騎士団長の言葉をきっかけに周囲の人間も渋々ながらその案に賛成を投じていく。その案に反対のものもいるのだろうが、誰も有効案が出せない現状では表立って反対しづらく、最後には全員が賛成という形となっていた。
どのような形で同盟を結ぶかの素案はこれから作成することとなるが、責任重大であるその案の作成には誰もが携わりたくないと考えていたが……それにも騎士団長が真っ先に手を上げる。
「素案の作成には、私も参加させていただきたく存じます。……魔王殿に話を聞くのは、万が一を考えると私が適任かと思いますので」
「そうだな……素案事態は私と各大臣で作成するが、聴取に関しては頼んだぞ。勇者様の仲間にも同席してもらうよう話しておく。……陛下もそれでよろしいですか?」
真っ先に騎士団長が手を上げたことに異を唱える者はいなかった。普段であれば騎士団風情がと言う文官ですらが閉口している。宰相が了承したことで口を挟みにくくなったというのもあるが、下手なことを言って素案作りに巻き込まれたくないというのが本音だった。
周囲から反対の声が上がらなかったことで、騎士団長はこれで、勇者との約束を果たせそうだと安堵していた。
「……仕方あるまい」
頭を抱えたままの国王は、宰相の案を受け入れた。その顔は苦渋に満ちており、とても魔王に勝利した国の王には見えなかった。これで誰もが会議が終了すると思ったタイミングで……宰相が最後に口を開く。
「……ここにいる者たちは、勇者様と対を成す聖女様の存在は知っているかと思う」
その一言に、国王の顔が嫌な記憶を思い出したかの様に暗く沈んだものとなる。周囲の者たちも、その一言に宰相へと視線を一斉に送る。
聖女とは勇者と対を成す存在として記録されている。勇者が聖剣を持ち攻撃を司る存在ならば、聖女は守りを司る存在とされていた。ただ……今回の魔王討伐では何故か聖女が不在ということとなっていた。
それは聖女とは勇者の様に聖剣に選ばれた存在ではなく、あくまでも教会が選ぶ存在であり、一定の水準の実力に達したものが聖女と選ばれる……という事になっていた。
それは勇者が現れても、聖女が必ずしも現れることは無いという事を意味していた。過去の記録では勇者しかいない時代もあり、逆に聖女しかいない時代もあり、それどころか勇者が女性で聖女が男性と言う時代もあったということだ。あくまでもそれは役割であり、性別は関係がないと言われている。
だからこそ国は、聖女が不在の状況でも勇者を旅立たせた。それに加えて国としては、一介の兵士が勇者となったことから、魔王を倒せればよし、仮に倒されても聖剣は伝承通りに戻ってくるという思惑からだったのだが……。
しかし、宰相の言葉はその前提を覆す。
「これはこの場の数人しか知らぬ事実だが、聖女様とは勇者様と同じく、聖具と呼ばれる伝説の武具に選ばれた存在なのだ。そしてそれが、王国に残る最後の聖具となる……」
聖女は聖剣ではなく、国に伝わる聖具と呼ばれる物に選ばれる。その事実は騎士団長も知らなかった事実であり、騎士団長同様にその事実を知らなかった者達はざわつき、会議室は一時騒然となる。
あくまでも聖女とは勇者とは異なり人が選んだ存在だと考えていた。だからこそ、彼も勇者を旅立たせることに反対することなく送り出したというのに、その前提が間違っていたと今更知らされたことに騎士団長は静かに憤る。
(それじゃあまさか……陛下達は不完全な状態で勇者を送り出したと言うのか……!?)
騎士団長は気づけなかった自身の不甲斐なさ、そんな勇者を裏切ってしまった自身への怒りを強く覚える。そして……生き残り逃げることができた勇者を思い安堵する。
そして改めて、絶対に勇者が生きているという事は知られてはならないと決意した。その事実を知らせずに旅立たせた彼等は、勇者の事も一兵士としかとらえていない。ここで生きていると知られたら……何をするかわからないからだ。
騎士団長が決意を新たにしている中で、宰相はここにきてその事実を明らかにした真意を告げる。
「ここで皆に明らかにしたのは、魔王達と同盟を結んでいる間に何としても聖女様を探すことをお願いしたいからだ。聖具に選ばれた聖女様を見つけ出し、王国にはまだ切り札が残っていることを世間に公表する。そうすれば……」
「大変です!!」
唐突に大会議室の扉が開き、宰相の言葉が遮られる。そこから慌てた様子の伝令役の兵士が一人入ってきた。その後ろからは教会の関係者だろうか、真っ白い神父服を身に纏った青年が一緒に入ってくる。
「何事だ?! 何があった!!」
会議室の宰相が唐突に入ってきた無礼を咎めることなく、何があったかを確認する。その伝令役の兵士は、前もって宰相が何か重大なことがあった場合には、何を以ても伝令を優先するように厳命していた兵士であり、彼が入ってきたという事は何か異常な事態が起きたという事を意味していた。
これ以上何があるというのだと、その場にいた全員が兵士と一緒に入ってきた神父服の青年へと視線を送る。良い知らせであることを願うばかりだが、それは期待できないと誰もが身構える。
彼等は国王たちの近くまで行くと、兵士は神父服の青年の少し前に移動し、跪いて首を垂れる。青年も頭を垂れるのだが、ちらりと兵士に目線で促されると、頭を垂れたまま祈る様に両手を合わせてガタガタと震え出した。
「聖剣……聖剣の……」
震えたまま口にした言葉は聖剣の一言で、言葉が続かないのかうわごとの様にそれを繰り返す。聖剣と言う言葉を聞いた一部の人間は、まさか聖剣が戻ってきたのかと期待に満ちた眼差しを青年へと向ける。もしも戻ってきたのであれば、まだ希望があると言葉の続きを期待する。
しかし、その期待は裏切られる。
「聖剣の間に保管されていた……聖剣の台座が……消失いたしました……」
その言葉を発したのち、会議室は静寂に包まれる。大多数の参加者にとって、それは意味の解らない報告だった。そんな程度の事で何故この会議に乱入してきたのだと首を傾げていた。しかし、一部の参加者は静寂の意味が違っていた。それは、事態がさらなる悪化をしたのだという報告だったからだ。
国王や宰相、教会関係者などが顔面を蒼白にしている姿を見て、事情が分からない参加者たちは何が起こっているのかわからないが、とんでもない事が起きたのだという事は理解できていた。
聖剣の台座……勇者が聖剣を抜くまで聖剣が刺さっていた台座である。しかし、聖剣が刺さっていた台座はただの台座では無かった。その台座こそが先ほどの話にも出た、王国に残されていた聖剣と対を成す聖具そのものだったからだ。
それが、ここにきて聖剣同様に消失したという報告に……事情を知る誰もが言葉を失っていた。
「いったい何が……何が起きているというのだ……?」
呟いた王の言葉に応えられるものは、その場には誰も居なかった。
魔王は三人存在し、聖剣は国に戻らず、更に最後の聖具まで消失したという現実に、騎士団長は己の軽率な行動に端を発した一連の事象に、先ほどまで少しだけあった安堵の気持ちが、たちまち霧散していくのを感じていた。
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