第29話

「今朝、登校中だった、春雨銘さんが、何者かに襲われ亡くなりました。

 死因は、胸部を何度も刺された事による失血死と思われます。

 警察は、通り魔の犯行だと見て現在調査中です。」


春雨銘……?


一瞬頭の中が真っ白になった。


それは、俺の居た世界の妻の名前だった。


「え?ウソ……

 この近くじゃない……

 そこの公園だよね?」


深雪は、そう言いながら俺のカップにコーヒーを注いだ。


「ああ……

 そうだ・・・」


銘が、死んだ……

少なくても深雪が無くなってから、支え続けてくれたのは、あの子だった……


俺は、ゆっくりと目を閉じた。

そして、思い出した。


そうか、俺があの時・・・

俺が、あの子を助けたんだ。

俺は今、ここに居る。

だから、あの子を助ける事は出来なかったか・・・


銘が死んだ……

そうすると、悠多も生まれてこない……


俺は、もしかしたらとんでもない事をしてしまったのかもしれない……


だけど・・・

だけど、俺は・・・


目の前の深雪を守って行きたいと思う。

そう決めたんだ。


「ねぇ、今日、研究所でこの指輪を見せびらかせても良い?」


深雪は、嬉しそうに左手を俺に見せた。

その薬指にはキラリと輝く指輪が見えた。


「あぁ……いいけど。

 俺が皆に報告してからな……」


俺が、そう言うと深雪は、子供のように喜んだ。

そう言えば、姪にプレゼントしたモノもダイアモンドだった。


ダイアモンドは、「永遠の愛」を誓ったんじゃない「永遠の絆」を誓ったんだ。


俺は何度も何度も自分に言い聞かせた。

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