第24話


そう言われたものの、正直、歯がゆかった。


俺は、美穂の目を見ながら聞いてみた。


「水族館まで一人で来たのか?」


美穂はコクリと頷いた。


「電車にはいっぱい乗った?」


美穂は、コクリと頷いた。


「後、バスにも乗ったよー。」


なんとなく、俺の中で答えが決まった気がした。

この子は、俺と同じなんだ。

昔の俺と・・・


「水族館は好きか?」


俺の問いに美穂は、ニッコリと笑い、コクリと頷いた。

俺は、ダメ元でスタッフの方に尋ねて見た。


「この子の親が迎えに来るまで、この子を預かってもいいですか?」


スタッフは、驚いた顔で俺を見た。

普通は、ダメだろう。

俺は、ダメはダメ元で、言葉を続けた。


「だって可哀相じゃないですか。

 水族館に来て何も見れないなんて……

 この子にとってここまで来るのは大冒険だったと思います。」


スタッフは、困惑していた。

すると、先ほど出入り口に居た中年男性が声を掛けて来た。


「私は、良いと思いますよ。

 親御さんには、夜まで預かって欲しいと言われたのだから……

 伸二君、お願いしてもいいかな……?」


俺は、コクリと頷いた。

すると先ほどのスタッフの方が、水族館のチケットを3枚渡してくれた。


「これ、どうぞ。」


「ありがとう」


俺は、二人にお礼を言った。


深雪は、嫌がるだろうな・・・

そう思い俺が振り返ろうとすると、深雪が俺の手を引っ張った。


「早く行かないとイルカのショーに遅れちゃうよ?」


そう言う深雪の手は、しっかりと美穂の手が握られていた。

どうやら、深雪も同じ事を考えていたようだ。

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