第5話
手術中のランプが消える。
父親が、担当医に話を聞いている。
声は、こちらまで……
聞こえて来る。
「出血の量が酷い上に……
刺した包丁の刃の部分に毒が塗られていたみたいで……
想像以上に毒の回りが速く……」
「それで、深雪は……?」
「深雪さんは、お亡くなりになりました……」
深雪が死んだ……?
俺のせいだ……
「こちらとしても、全力を尽くしたのですが……」
俺が、場所さえ、間違っていなければ……
俺が、もっとしっかりしていれば……
俺が、俺が、俺が……
「先程も言ったように、毒の回りが早く……
脊椎まで達してまして……」
医者が何かを言っているようだが……
俺には、何も聞こえなかった……
ふと、気が付いた時、俺が座る、イスの隣りに、深雪の父親が座っていた……
「あいつは、笑っていたか?」
「え?」
俺は、父親の顔を見ると、疲れた顔で俺の顔をじっと見ていた……
「君が、南伸二君だよね?
娘の……深雪の婚約者の……」
「はい……」
俺は、歯を食いしばった……
殴られると思ったからだ……
この人になら、例え殴り殺されても文句は言えない……
俺は、本気で、そう感じていた……
しかし、帰って来た言葉は……
「あれは、最後まで笑っていたそうじゃないか……
幸せな顔をして……
『私、あの人と結婚するんです』って……
救急隊員の人に言ってたそうなんだよ……」
親父さんは、涙を堪えながら言葉を続けた……
「妻が亡くなってから……
あの子は、笑わなくなったんだ……
なのに、あの時、君と出会ってから……
あの子の中で、笑顔が戻ったんだ……
あの子は、笑ってたかい?」
俺は、涙を押さえながら……
俯きながら答えた。
「はい……」
申し訳ありませんでした。
娘さんを守れなくて……
そう、俺は言うつもりだった……
だけど、それ以上の言葉は、涙が溢れそうで言えなかった……
親父さんは、俺に一言こう言った。
「君は、幸せになれ……
深雪の分も……
幸せになれ……」
「でも……俺は……」
「伸二君……
ありがとう……」
どうして、責めない……
『ありがとう』
そんなセリフもらえる立場じゃない……
俺は、震える手を、イスにたたき付けながら……
声が出ない涙を流した……
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