第61話【真の勝者(3位)】
「ま、まあ調理部に負けるのは想定内です」
「いっつも包丁持ってるような危ない人たちだもん。そりゃ勝てないよね」
勝ったO鷹さんを一方的にヤバイやつ認定し、気を取り直したように顔を上げる姫乃と宮本。
「では、O鷹さんのやつを除いたら1番美味しかったやつを選んでください」
「素直に2番目って言えよ。まあいいけど」
謎の対抗心を剥き出しにする姫乃に促され、俺は残る3枚で1番美味かった皿を前に出す。
「ま、コレかな」
俺が選んだのは左から2番目のお好み焼き。
見た目はゴテゴテしていてどうかと思ったけど、肉・魚・貝が色々入っていて満足感は高かった。
「味は悪くなかったし、色々トッピングできるって意味でもお好み焼きしてるって感じだったな」
「柏くん」
「ん?」
「それ、オカルトちゃんのやつ……」
再び目から光が失われる直前で、宮本はブンブン頭を横に振った。
「さあ、どうやら前座は終わったみたいだね」
「そうです。そもそも、私たちの優劣がつけばそれで良いんです」
「茶番は終わりだよ!」
「ヤケクソだな……」
へこたれることなくファイティングポーズをとり続ける宮本たちは、溜め息を吐く俺に怪訝な目を向けた。
「っていうか、オカルトちゃんスポイトとかフラスコとか持ち出して料理してたんだけど、それに負けるってどういうことなの?」
「いや、俺に聞かれてもな」
「先輩の舌がおかしい可能性も大いにあり得ますね。美味しかったのに服がはだけてないのも変ですし」
「脱いだら頭がおかしいじゃねえか。マンガに影響され過ぎだっての」
美味しかったら服がハジけ飛ぶっていう設定はアホ過ぎて好きだけど。
ここで俺がやっても誰も得しないし、なんなら即時お縄案件だ。
「さあ、とういことで決めてください…………真の勝者を」
「3位な。分かったよ」
早く早くと目で促され、残る2つの空き皿にそれぞれ手を添える。
さて、どうしたもんか。
1番左の皿は、特に言うことがない。可もなく不可もなくって感じ。
ただ、4つ並べたことでどうしてもO鷹さんのものと比べてしまう。厳しい言い方をすると、同じ普通路線の中では下位互換。
1番右の皿は、逆に普通を置き去りにしていた。
チョコレートケーキのチョコ部分をオイスターソースに変えた仕上がりというか、視覚と味覚がマッチしない衝撃の一皿。
……よし、決めた。
「んじゃ、こっちで」
かつてなく熱い視線が注がれる中、俺は一番右の皿を前に出した。
「や、やりました……!」
「えええぇぇぇ! なんで!?」
「いや、スゲー悩んだんだけど────さっ!?」
「ねーなんでなんでなんで!?」
「ちょ、まっ、ヤメッ」
調理台越しに掴みかかってくる宮本。
力強い両腕をどうにか引きはがすと、若干涙目になった宮本は調理台を回り込んで詰め寄って来た。
「そ、そんなにマズかった……?」
「いや、そうじゃない。むしろ普通に美味かった」
「え、じゃあなんで私がビリなの?」
納得できないという顔で、宮本は更に一歩詰め寄ってくる。近い近い……。
「よく考えろよ? どっちが勝つにしろ、最後は緋彩さんと戦うんだよな?」
「ん? そうだね」
「緋彩さんは多分料理も上手いよな?」
「上手だろうね」
「俺がそっちの皿を選んだのは、緋彩さんに勝たなきゃ意味ないってのを考慮した結果だ。宮本のがマズかったとかって話じゃない」
慣れない中で頑張った普通路線の料理では、上級者の緋彩さんに勝つのは難しいはずだ。だた、姫乃の異次元路線なら状況次第でチャンスはあるかもしれない。
「勝負当日の俺が極度の糖度不足に陥っていたら……姫乃なら緋彩さんに勝てるかも」
「え、なにその状況……。柏くんなに食べたの?」
ギョっとした目で姫乃が出した皿を見つめ、宮本は大きく息を吐いた。
「はあぁー。分かったよ、私の負けだね」
「悪いな。せっかく作ってくれたのに」
「うーん、まあそれはいいんだけど……普通には美味しかったんだよね?」
「ん? ああ、美味かったよ」
むしろ、最初に食べたのが宮本の皿で良かった。もし逆の順番で始まっていたら4枚食い切れなかった可能性が高い。
「ふーん。ま、それなら私は満足かな」
「?」
そう言うと、宮本は俺から一歩距離を取って姫乃に笑いかけた。
「ってなわけで、私はサポートに回るよ。頑張ってね姫乃ちゃん!」
「はい、よろしくお願いします。2人で姉さんをメッタメタにしましょう」
歩み寄ってガッチリ握手する宮本と真の勝者(3位)姫乃。
それを見届ける俺とカーテン簀巻きのオカルトちゃん(2位)。
なにはともあれ、突然始まった料理勝負予選会はここに決着した。
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