第2章【来ちゃった】
第49話【命の危機と救いの女神】
「…………は?」
モニター越しに緋彩さんと目が合い、一瞬で頭が真っ白になる。
え、なんだこれ……?
さっき生徒会室で別れたはずの緋彩さんが、何故かうちの玄関先に立っている。
処理が追いつかない俺が立ち尽くしてると、緋彩さんはモニター越しに再度呼びかけてきた。
「お~い柏くん? 干からびちゃうから早く開けてくれないかな?」
「…………あ、はい」
早く早くと急かされ、俺はフリーズした身体を動かして玄関へ向かった。
まあ、外はクソ暑いしな。そんな中で立たせておくわけにも──
「いや、ちょっと待てよ」
緋彩さんを家に上げたら、俺は殺されるんじゃないのか……?
夏休み最終日、冬馬たちは「お前は執行猶予」だと言っていた。女子たちの目を覚ました功績は認めるけど、夏休みに生徒会の3人を連れ込もうもんなら殺すぞと。
あの時はそんなこと起こりようがないと思ったけど、イレギュラーが重なって事実その手前まで来てしまっている。ここで家に上げたら俺は死ンデレラ……
何しに来たのかは知らないが、ここはお引き取り願おう。
仕方なしに、俺は玄関のドア越しに緋彩さんに話し掛ける。
「あの、緋彩さん? ちょっと今、家の中が荒れに荒れきってまして──」
「あ、柏くん? 早く開けてよ外めっちゃ暑いって!」
「足の踏み場も無いと言いますか、踏みこまれると命が危ないと言いますか──」
「暑い暑い暑い暑い!!」
「大変申し上げにくいんですけど、今日のところはお引き取りいただけると──」
「柏く~ん! 柏虹輝く~ん! お~っい!!」
「はよ入れっ!!」
ドアを開け、緋彩さんの腕を掴んで家の中に引っ張り込む。
目撃者は…………よし、大丈夫か。
もし目撃者がいたら家を飛び出して始末する必要があったが、どうにかその展開は免れたようだ。迅速に周囲の安全を確認し、鍵を閉める。
「ちょっと柏くん、遅いって! 殺す気?」
「そりゃ俺のセリフですよ!」
なにをこの人は目立ちまくってくれるのか。
危うく1ヶ月ぶりに命を狙わることになりそうだった。ピーチ姫かな?
というか、丁重にお帰りいただくつもりだったのに、緋彩さんが騒ぐもんだから反射的に家に入れてしまった。
「一体どうしたんですか、いきなり」
「え? あ~、えっとね──コホン。来ちゃった!」
「言い直されても意味分かりませんって……」
小さく舌を出し、緋彩さんはテヘッ☆とおどけている。
こっちは不意に死線をくぐったってのに、気楽なもんだ。
「ていうか、なんで俺んち知ってるんですか?」
「え? さっき柏くんの担任の先生に聞いたら教えてくれたよ?」
「個人情報ガバガバかよ……」
「ま、私って先生ウケ完璧だからね。自分で言うのもなんだけど」
ふふんっと胸を張る緋彩さん。
よくよく見たら、生徒会室で別れたときと服装が変わっていた。さっきまでは宮本と同じようにTシャツ&ハーパンのラフな格好をしていたが、今は淡い色のワンピースを身に纏っている。
「俺の担任って、学校にいたんですか?」
「そうだよ。部活で学校に来てたみたい」
「念のため聞いておきますけど……なんて言うか、うちの住所聞いてるところを誰かに見られてませんよね?」
俺が訝しんだ目を向けると、緋彩さんはう~んと小さく首を傾げた。
「多分いなかったと思うよ。あんま覚えてないけど」
「お願いだから絶対と言ってください、命が掛かってるんです。緋彩さんだって俺が殺されたり殺人鬼になったら困るでしょう?」
俺だって、大人しく殺されてやるつもりは微塵もない。最終的には1人でも多く奴らを道連れにする覚悟はある。
「なに訳の分からないことを言ってるんだい?」
「認識が甘いですよ。いいですか、実は──」
別に隠す必要もないので、俺は夏休み前に冬馬たちから突き付けられた話を緋彩さんに説明する。
「──ってな訳で、緋彩さんがここにいるってバレたら俺はもうあの世かムショ行きなんですよ」
「いやいや、これぐらいで人殺しなんて頭おかしすぎるから」
「体育科の頭はおかしいんですよ。この前襲われたの忘れたんですか?」
7月の夏祭りでも、俺はフラれたという理由で逆上したクラスメイトのアホたちに追い回された。緋彩さんもその場にいたし、なんならそこに至るまでの経緯も俺から伝えてある。
自分が所属している集団のことを悪く言いたくはないけど、控えめに言っても体育科の男子は知性が獣寄りだ。女っ気が無さすぎて自制心が常時ストライキ起こしてる。
「なるほどね~」
鬼気迫る説得が功を奏したのか、すんなり納得した様子を見せる緋彩さん。
「話は分かったよ。それじゃ、お邪魔します」
「全然分かってないじゃないですか」
身軽にサンダルを脱いだ緋彩さんの腕を掴む。
「なんだい? 話は涼しい部屋で聞きたい気分なんだけど?」
「涼しい部屋に通したら俺の首筋が涼しいことになるんですよ。っていうか、マジで何しに来たんですか?」
冬馬たちの脅しがなにより先に頭を駆け抜けたけど、そもそも緋彩さんがここにいること自体がおかしい。なんなら、緋彩さんに限らず女子が自宅にいることが既にイレギュラーだ。
「命に関わることなんで、今日のところはお引き取りいただけると……」
理由もなく来たら困るということはないが、冬馬たちを無駄に刺激するのは避けたい。それに、ただでさえこの夏は食料確保の面でも命の危険があるのだ。エネルギー的にも冬馬たちを相手にしている余裕はない。
「ふ~ん、命の危機ねぇ」
俺がそう説明して立ち塞がると、緋彩さんは何故か不敵な笑みを浮かべた。
「柏くんを助けに来た私に、そんな事言っていいのかな?」
「へ?」
「私、料理してあげに来たんだけど」
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