第48話【デッド・ウィズ・ユー】
部活と生徒会の活動を終え帰宅すると、リビングは家を空けた数時間で灼熱地獄と化していた。
「死ぬ死ぬ死ぬ」
流れるようにエアコンを起動させ、そのまま冷蔵庫へダッシュ。
キンキンに冷えてやがる麦ジュースをコップに注ぎ、一気にそれを喉に流し込む。
「くあああああぁぁ!」
仕事終わりに大人の麦茶を嗜む親父そっくりな声が自然と漏れ出たが、致し方なし。
太陽がバグったような炎天下の中を自転車で爆走したのだから、そりゃこんな声も出るってもんだ。
学校で水を飲んだのを最後に水分補給なしで自転車を走らせてみたけど、こんな生活続けてたらいつかぶっ倒れる気がする。生活費の節約も場面を選ぶ必要がありそうだ。
「さて、米炊くか」
汗が絞れるぐらい重くなったTシャツを洗濯機に放り投げ、パンイチのまま夕飯の準備に取り掛かる。
数日前に諭吉失踪が発覚してから、とりあえず自炊というのを始めてみた。
料理なんてしたこともないし、なんならしたくもないけど、命には代えられない。とりあえず、晩飯分の白米3合をセットする。
十分後、待ち時間にシャワーを浴びてリビングに戻って来ると、ようやく室内は人間が生活できる室温を取り戻していた。
「あ~快適快適」
汗を流した身体の上にシャツを着て、ソファーにダイブ。
午前中のプール練の後にもシャワーを浴びちゃいるけど、屋外にいたら1秒で汗腺が仕事を始めるもんだから、サッパリするのなんてほんの一瞬のことだ。
こうして全ての準備を整えて、夏場はようやっと落ち着くことができる。
「飯は……まだ炊けないか」
スマホで時間を確認してみたけど、炊き上がりまではまだ二十分以上ある。
鞄を2階の自室に持ってくのも億劫だし、なにより今はまだこのオアシスから一歩も出たくない。この生活が始まってからというもの、完全にリビングが生活の拠点になっている。
「明日も午前練だから朝のうちに洗濯して、戻って来たらすぐに取り込んでそのままシャワー浴びよう。そんでその後は……」
ソファーに寝転んだまま明日の動きを思い描いていると、どっと睡魔が押し寄せてくるのを感じた。真夏の運動後なんてだいたい同じだとは思うけど、全身運動&脳が酸素不足になる水泳後なんてのは本来起きてられたもんじゃない。
生徒会室で中断された心地良い時間が再開され、俺の意識は強く抗うこともなくゆったりと闇に引きずり込まれていった。
────────────ポーン。
「ばっ! ヤメロ!」
自分の拳がソファーを叩くのと同時に、短い夢から現実に戻って来た。
一秒一秒記憶が薄れていくのを感じるが、なんか怒り狂った冬馬たちに縛られる夢を見ていた気がする。せっかくシャワーを浴びたのに、背筋に嫌な汗が滲んでいる。
「会ってなくても縛り上げてくるとか、どんだけ迷惑なんだよ」
ボーっとした頭に夏休み直前の記憶がフラッシュバックする。
冬馬たちは、夏休みにかこつけて生徒会の面々を家に呼ぼうもんなら俺を殺すと言っていた。幸い今回はその自体に陥ることはないだろうけど、定期的に殺害予告をされたんじゃ悪夢にうなされもする。
「あ、米炊けたんかな────って、あれ?」
キッチンに移動して炊飯器の様子を見てみると、残り時間が「1分」と表示されていた。悪夢から目が覚める直前、なにか電子音が鳴ったような気がしたんだけど……。
勘違いだったのかと俺が首を捻った、その時だった──
────────────ピンポーン。
リビング全体に、来客を告げるインターホンの音が響いた。
反射的に母親に伝えようとしたとき、家には自分しかいないことを思い出す。
あー、俺が出なくちゃなのか。
パンツで出る訳にもいかず手近にあったズボンに足を通していると、呼び出し音が再度室内に響いた。
「あ、ちょっと待ってくださ────────────────ハァ!?」
ズボンを引き上げながらモニター越しに在宅を告げる。
至って普通の対応をしたつもりだったのに、そこに映っていたのは普通から掛け離れた人物。
「来ちゃった!」
ツバの大きい日除け帽子を被り、緋彩さんは夏の熱気に負けない笑顔でそう言い放った。
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