第46話【消えた諭吉】

メンバーの相次ぐ脱退で残り1人となった諭吉と目を合わせ、俺は愕然とした。

え、なにこれどういうこと? KAT-TUNなの?


10日前、意気揚々と疑似一人暮らしを始めたときには、間違いなく諭吉は5人いた。これならこの生活が夏休み中続いても楽勝だと思っていたのに……。


「どうしてこうなった……」


別に、なにか特別な贅沢や買い物をした訳ではない。なんなら、当初の想定通り部活に行って飯食って寝るだけの10日間を過ごしてきた。


「なんで4万も無くなってんだよ」


……とりあえず、一旦確認してみよう。

念のため取っておいた10日分のレシートを手に取り、スマホで電卓アプリを起動。これで計算が合わないようなら、落としたり盗難にあった可能性がある。


「えーっと、初日は……ああ、これか」


朝 吉野家 牛皿麦とろ御膳(大盛り) 878円

昼 セブン 弁当2つ&サラダチキン 1131円

夕 日高屋 定食&チャーハン&餃子 1430円

夜 王将  白米&皿うどん&油淋鶏 1471円


合計 4910円


「……………………………………………………あれ?」


計算を始めて、すぐに違和感に気付いた。

血の気が引いていく感覚に襲われたが、気をとりなおしてとりあえず計算を続ける。


「……なるほど」


心を無にして、レシートに刻まれた数字を全て足してみた。

結果明らかになったのは、俺が10日間で約4万円を食費に費やしていたという事実。落としたわけでもなく、盗難されたわけでもなく、単に俺が食っていた。


「ちょっと待って、え、食費ってこんなに掛かるの?」


部活以外の外出をしていないこともあって、食費以外は完全にノー出費。ただ、その食費が圧倒的だった。

部活がある日は4食、休みの日は3食といういつも通りの生活をしたつもりだったのに……


「てか、やべーな。あと1万しかないじゃん」


支給された生活費を、意図せずして8割も使ってしまった。

親父の出張の期間が未定だからと、母さんは生活費は多めに置いておくと言っていたはずだ。なのに、残りライフはもう1万円。


「連絡しづれぇ……」


まず気になるのは、この生活がいつまで続くか。つまり、残り1万円で何日耐えればいいのか。でも、「いつ帰って来る?」なんて子供じみた寂しいアピールは恥ずかしくてできたもんじゃない。

かといって、生活費を再度要求するのも難しい……というか、したくない。既に4万使い込んだことが判明したら、俺が親でも説教タイムに入るだろう。


そうなってくると、もう選択肢は限られていて……。


「こいつで生き抜くしかないか」


手元には、生き残った男の子もとい残された諭吉が一人。

当面はこの1万円で生活していくしか道はない。

これまでのハイペースを考えれば厳しいことは間違いないけど、完全に手遅れになる前に気付けたのは不幸中の幸いだ。


「自炊なんてしたことねえけど、ま、大丈夫だろ」

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